無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章24 「戦いと争い」
「あー・・足いてー・・」
なんとか勝利したはイイものを・・次の試合は出れないと来たか・・。
あと一回あの氷の地面に足を踏み入れていたら完全に足がダメになっていた。
医者曰く、奇跡的に一時間の医療と三十分の休憩で済むとは言っていたが。
悪魔で奇跡だ、もう次は無いだろう。
おかげで回りにすっげぇ怒られるし、燦燦たる有様だ。
ともあれ、今は一回の勝利に喜んでおこう。
「あれ、お兄ちゃんの病室同じだったんだ!」
「ブフォッッ!!思わず吹いた・・何でいんだよッ!」
びっくりした、隣からいきなり話しかけられたからなんだと思ったが。
あの竜の小娘じゃねぇかよ、驚かせやがって。
「なんでって・・そりゃあ、同じ部屋だからね、お医者さんがここにいろって」
「なーるほどね・・畜生」
「んー?どうしたの?」
「いや、ちょっとな・・苦手なんだよ、お前」
「えーなんでさ?もしかして怖い?」
「怖かねぇけど、苦手なんだよ・・なんつうか・・寒気がする」
「アッハハハハ!よく言われるよ!お兄ちゃんも言うんだね!」
「コイツめんどくせぇ」
「それもよく言われるよ!」
前々から思っていたけど、何を言っても、何をやってもコイツ笑顔だよな。
怒りの感情がこみ上げて来た時とかないのかよ。
さっきの戦いにしたってそうだ、点滴打たないといけない体にされてるのに。
どうして、満面の笑みでこちらに話けて来れる。
「お前な、普通は前の対戦相手なんて二度と会いたくないもんだと思わないか?」
「どうして?」
「あんなトラウマレベルになる戦いをされたのに、よくもまあ普通に話しかけて来れるよなって話だよ」
「んあー・・だって楽しかったんだもん!お兄ちゃんは今まで遊んでくれた人よりずっとずっと楽しかったんだ!だからトラウマになる理由もないし・・むしろ大好きだよ!」
「あっそう」
人生の中でこれほどまでにイカレタ人物は見た事無いな。
うん、バレッタ以上かもしれない。
思わず目逸らしてしまうほど、呆れてしまうな。
思えば似たような事が前にもあったな・・。
兄さんと過去に戦いの特訓をしていた時だっけ。
まだヴァンパイアヴォルフとして育てられていたあの頃。
兄さんは僕に敗北を重ねていたにも関わらず、ずっと笑顔だった。
そん時は確かなんて言ってたかな・・。
◆
「兄さんはいつも負けてるのにどうしてそんなに笑顔なの?」
「うーん・・なんでだろうな?」
「悔しくないの?」
「悔しいさ、けど戦ってる時いつも思うんだよ」
「何を?」
あの時も、微笑んで答えていたな。
あの時も、にっかり笑って、明るい声でこう答えていたな。
「戦う中でも成長してるって思えてさ、次また戦った時、どんな成長できるかなって・・」
兄さんはそうだ【成長する自分】が楽しくて戦い続けていたんだ。
兄さんの答えはそうだった。
◆
もしかしたらこいつにも・・理由があるのかもな。
遊んでいたんじゃなくて、戦いとして笑える理由が。
「お前はどうして・・笑顔になれる」
「うーん?私は・・楽しいからかな?昔は狭い部屋でただ一人だったから、お父さんもお母さんも・・人間さんとの闘いで動かなくなっちゃってね、お父さんとお母さんが最後にこう言ったの『悲しみながら生きるな』って、だから私、なんでも楽しく生きれたし出来たんだと思う、成長する度にできる事も増えて、もっと楽しいんだ!!」
「悲しみながら生きるな・・ね、きっとその時代はまだ・・戦争も多かっただろうから、無邪気なお前ほどそうさせたかったのかもな」
「戦争かー・・今はもう、だーれも戦争してないけどね~・・だからお腹も空いて寝ていたらね、そこにサギーが来てくれたの!!サギーは凄いんだよ!一緒にいるといつも楽しいの!サギーがいつも美味しいモノをくれるから、人間さんも魔物さんも食べなくなったの!サギーは私の大切な人なの!」
なるほど、サギーとの出会いはそこからか。
よくもまあ、この子と接触する気になれるものだ・・。
「それに・・サギーは私に戦う為の特訓もしてくれたの、身軽に動けたりするのるのはそのおかげなんだー!実戦で試して成功するとより楽しいんだ!」
「結果論としては・お前は教えられた事をできる様になると楽しいって事か?」
「そうかもしれないね!!」
「(わかんねぇのかよ・・)」
「お兄ちゃんは全然楽しそうじゃないね、戦い」
「まあな、命をかけてやるもんだぞ、そこに楽しさはない」
「それって争いじゃないの?」
「えっ?」
「争いはよくないよ、相手を壊すんだよ?死んじゃってもう喋ることも、食べる事も、なにもできなくなっちゃうんだよ、その人はもう・・何も見えないんだよ?」
なんだ、急にまともな事を言っているが。
コイツ、争いって言ったか?
戦いと争いの違いってあるのか?
普通両方とも意味は同じだろ。
結局は命の取り合いで必死になって決死の思いで勝利をつかむ。
何も、どこにも違いはないだろう。
「同じだろ、どっちも・・どちらにも必死になって勝利をつかむ・・それだけだ」
「ううん、サギーが言ってた、争いは命を落とす、戦いはどちらかが倒れるまでの勝負・・そこには死を与えるモノではなく、互いの力を見せる場・・お兄ちゃんにとっての戦いは争いって事?」
「そういう事だろうよ、俺にとって何も違わない、勝利を掴むならば命が落ちたって・・」
「それってとても・・辛いよ・・生きても・・辛いだけだよ・・そんなの」
「・・・そう言われてもな」
違うのか?
確かに今までならば反論する余地があった。
だが、何故だかコイツの言葉に反論できない。
それは心の中で、こいつの言葉に何か、反論できないほど引っかかるモノがあるんだ。
俺の中でそれは確かにあるんだと思う。
だから、言われてハッとなってしまう・・一体どうすればいい。
「きっとお兄ちゃんの中に・・迷いがあるんだよね?」
「・・そうだと思う」
「だったら、それを探してみようよ、実際に戦ってさ、探してみればいいと思うよ」
「・・実際に・・戦う」
「私てきには今のお兄ちゃんもとっても魅力はあるよ?それが私ならね、でも他の人も戦いで通じ合いたいって思うなら・・もっとお兄ちゃんがその思いを伝える決定打を作らなきゃ」
「・・それが一番だな、俺の答えは俺に死か見つけられない・・誰かの答えでは埋まらない・・」
「うんうん、それが一番だよ」
迷い、迷走・・今はそんな状態で戦っているようなものか。
思えばどんな戦いにも自分の戦いにかける思いはその場で出て来た答えで埋まっただけだ。
共通して言える答えは未だに出て来た事が無いんだ。
なら、次の戦い・・いや、答えはゆっくり探そう。
俺の、戦う為の答え、理由、どれでもいい、絶対に見つけてやるさ。
「・・ありがとう、リンドウルム」
「どういたしまして!お礼は・・お話してくれるか甘いものくれたらでいいよ」
「案外がめついな・・いや、どっちかって言うと・・無欲なほうか・・今手元に飴玉くらいしかないんだが・・」
「飴玉ほしい!」
「(本当に・・こうしているだけならただの少女なんだがな・・)ほらよ」
「パクリッ!・・うーん美味ひい!」
コイツ・・指ごと口に入れてから吸い取るように取ったな。
なんて野郎だ、本当に少女にしか見えない。
「ほうひたの?」
「いや、なんでもない」
「そうらんな」
謎が深いな、若き少女の竜、知らない事が多そうなのに。
どうして、俺より人生語れるって顔してんだろうな。
本当に不思議だよ、本当に。
コイツと話して忘れていたけど、会場の方は一体どうなっているだろうか?
医務室に中継用のテレビは無いんだよな。
まあ、他の患者に迷惑がかかるってのが一つの理由なんだろうけど。
それにしたって気になる。
まあ、結果は見えているだろうけど、鈴蘭の圧勝だろう。
◆
『それでは第二試合の方々前へどうぞ!』
時は来た、ついにこの恋鈴蘭の出番がようやく回って来ました。
知恵をくれた母よ、力をくれた父よ、今こそ、我が主君ジン様に全てを下げられる力を。
今、ここにッ!
ガッ!
よし、両拳をぶつけて気合の入れも十分!
後は一歩前進して行くだけッ!
「いっちょまえに覚悟を決めるのはいいんだけどさ、生まれたての小鹿みたいよ?」
「(ギクッ!)い、いよいよ・・いよいよ私の出番ですね!」
「が、頑張ってね!鈴蘭!」
「ええ、任せてくださいいい・・メリルさん!わた‥私が絶対勝利を掴んできます!」
「(一つの試合にどれだけ緊張してんのよ・・)相手はただのダークエルフよ、貴方みたいな格闘女が緊張する事ないでしょ」
だって、いざ出番になると緊張しますもん!
ジン様が決死の覚悟で勝利をもぎ取ったんですし。
さらにはこの次に控えているのはメリルさん。
どういう理由があろうとかの勝負負けるわけにはいかない!
「深呼吸・・深呼吸・・」
「アンタね・・何を怯えているの?」
「お、おびえてなんていませんよ」
「いや、怯えてんのよ自分に」
「グッ・・」
「図星ね、アンタは相手や試合に緊張している様に思いたいだけ・・そんなの思い込みよ・・アンタが真に恐れているのはその抑えきれない力、それを人に知られたくないだけ」
「ど、どうしてそんな事が・・言えるんですか?」
「す、鈴蘭?」
この人に私の事を話した事は何一つない。
だったら、何故この人は!?
「分かるんだよね~、感情がたとえハッキリしていなくても心読むなんてことは簡単なの、ある人がとても素直だったからこそ、今の貴方の様に複雑な感情も分かる・・」
「な、なるほど・・」
「まあ、私から言えることは・・そんな力・・とっとと解放した方が良いと思うけどね」
「簡単に言わないでください」
「むっ?」
何が分かるって言うんだ、何が見えるって言うんだ。
全部デタラメだ、こんな人に何が分かるッ!
「人の苦労も知らないくせに・・力を解放した方が楽だとかぬかさないでください、きっと・・貴方が私の力を見た時、貴方のその言葉は後悔に変わりますよ」
「・・言うじゃない、その言葉が撤回されない事を私は祈っているわ」
「ふ、二人ともッ!今は喧嘩している場合じゃないよ!目の前の試合に集中しないと!」
「・・・行ってきます」
ちょっと分かり合えるかどうか最初は不安な時もありました。
ジン様が認めた人だから多少の無礼も許しました。
だけど・・気に食わない、やっぱりあの人は苦手だ。
人の腹の探り合いをさも当たり前の様にやる。
人の弱い部分に平気で付けこんで来る。
人の苦労も知らないで、何かを語る。
まるで、なんの苦労もせずに強くなった人の様だ。
きっと、本当になんの苦労もせずに強くなっていったに違いない。
ああ、もう一歩歩くたびに余計な事がポンポン出てしまう。
このままではまたジン様に・・それだけはダメだ。
今は・・今だけでも冷静に考えないと。
「(どうしてこんな険悪なムードに・・)なんであんな事言っちゃうの?」
「言わないときっと・・ボロクソに負けるからよ」
「そ、そんな事・・だって鈴蘭ちゃんは強いんだよ!見た事無い武術だって沢山使うし・・」
「そうね、それが・・本来の力だったらもっと強いでしょうね」
「ほ、本来?」
「あのヘラヘラと笑っている下に・・隠されているのはきっと・・人を殺した顔よ」
「(わ、わかんないなー・・)」
見ていなさい、貴方の言った事がきっと間違っていたと証明してみせる。
この拳法、武術を持ってして・・証明して見せる。
「・・貴方の力・・見せてもらいますよ」
「ほう・・幻華の民か」
「し、知っているんですかッ?!」
「私は修練の為にあらゆる武術・体術・格闘を体験してきた・・その中でも変わった戦いかたをしたのはお前ら幻華の民・・体の部位を使った戦いは見事なモノだ」
「この動きを見ただけで幻華の民と分かる人は早々いない・・」
「だが、今のそなたでは私には届かん」
「ぐっ・・貴方までそんな事を・・」
「試合が始まれば分かる」
なら、本格的に見せてもらうしかない・・。
この人が誇れる力を、私が届かないと証明できる・・その理由をッ!
『さあ!両者の選手がそろいました!注目の第二戦!はたして勝利するのはどちらか!』
『ちなみに先ほどまでまったいらのフィールドでしたが・・流石に見ている側も見慣れてしまったと思ったので、少し変えてみました・・との報告が入りました』
『写那之さん!一体どんなフィールドになったんですか!?』
『えっと・・両者の入場口に柱が二本づつ立った・・以上です』
『ズコーッ!結果的に何も変わってないじゃないですか!』
『ま、らしくはなりましたね』
『それだけかよ!てなわけで特に代わり映えはしませんでしたが・・早速行きましょう!恋鈴蘭VSカムイ・・いざ・・勝負ッ!』
ダッ・・シュバァァッ!!!!!
早いッ!!
試合開始の合図と共に走り出したッ!
だけど、その速さなら私にも出せないわけじゃないッ!
今まで誰も見せてこなかっただけ、私にだって・・できるッ!
「(ほう、こちらに向かって来るか・・やはり・・届かないな・・お前はッ!)」
「(あの人・・良く見たら・・柱に向かっている?!)」
「これが貴様と・・私の差だ・・ハァァァァァァッ!!」
ガッシャァァァァァァァァァァァンッ!!
勢いよく蹴りを鋭く入れて壊したのは・・柱ァァァッ!?
ありえない、アレはオブジェクト・・いや、それよりも極太の柱を壊したッ!?
ありえない・・常識外れすぎるッ!!
「ルォォォォォ・・・ラァァァァッ!」
ぬかっていた・・完全にッ!!
まさか・・まさかこの人・・柱を武器として・・こちらに振って来るとはッ!!
「(完全に・・予想外ッ!!)」
ドォォォォォォォォンッ!!
これが力を解放しろと言われた理由。
これがまさに、今決断の時なのかもしれない。
何で私はあの時・・意地を張ってしまったのか。
そんな事しなければ・・私はッッッ!!
「もう一度言う・・今の貴様に・・私と対等に戦う力はない」
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