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無限空想世界の幻想的な物語  作者: 幻想卿ユバール
外伝その3
126/150

無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章21 「強く生きる為に」

「なぁなぁ!父さん!どうしたら魔王様みてぇな魔物になれっかな!」


幼い頃の俺はずっと【強い奴】になりたかった。


「おお、魔王様みたいにか・・難しいな・・あの方はとても聡明な方だ・・そして何よりも優しい、力の使い方を間違えない、とてもお優しい方だ」


「優しい?」


その時の俺っちにはまだ理解しきれていなかった。

本当に優しい奴こそが本当の強い男だなんて、とうてい理解できなかった。


「そうだ、だからお前も優しさを極めればきっと【魔王】様の様になれるぞ」


「わかった!俺優しい男になるよ!」


満面の微笑みで俺はその時、必ず優しい男になると決めた。

誰かに手を差し伸べて救えるような。

そんな、男になりたかった。


でも、途中で気づいた。

本当に強くなりたいのならやさしさなんて捨てなければいけない。

けれども俺にそんな事はできなかった。


だから、弱いまんまだったのかもしれない。

強くなって、いつか本当の魔物になってしまうのが怖くて。


やさしさを捨てたくなかったのかもしれない。


そんな勇気がない、臆病者だった頃の俺の悔しい思い出・・。

なんで今、それがふと記憶をよぎったのだろう。


自分でも分からないや・・。


 ◆


「・・ガハッ」


「弱き男よ・・うぬも人であれば良かったな」


運命って奴はいつも残酷だ。

いつも、そうやって厳しい道のりを作り人や魔物を挫折に追い込む。

酷い野郎だよ、おかげで壁殴りから解放されてぐったりと床に落ちていく。

そう、またしても挫折だ。

イジワルな運命によって、またしても・・こんなところで・・。

遠ざかっていく・・挫折で封鎖された道のりの先に見える・・強者・・。


「どんだけ・・強いんだよ・・チクショウ・・」


「強いのは当然・・貴様が我を強者と思っている限り・・我は強者・・無類無敵」


「ガハッ・・だろうな・・・ッ!」


「貴様の敗北まであと五秒・・その心に刻んでおけ・・貴様が戦った相手は王者であったと」


「・・・グゥッ!」


王者か・・なるほどな。

そりゃあ心の中でこんなにも深く深く沈んでいくわけだ。

俺っちの中でも分かっているさ、そしてここまで来たのだから答えは一つだ。


もう、休もうきっと・・巫女ちゃんだって許してくれるはずだ。


遠く遠く歩いてく王者の姿、俺の視界からどんどん離れていく。

いつしか、王者の姿が消えた。

そうか、もう・・そんな距離まで・・。


「・・なんのつもりだ」


「ああ?・・何がだ?」


「何故そこにいるかを聞いている」


そこにいる?

馬鹿な話だな・・俺はもとよりお前の前にしかいないぞ?

おかしなことを言う様になったな。

勝利の余韻に浸りすぎて頭がわいてしまったか?


「馬鹿だな・・お前は本当に馬鹿だな・・」


「なんだと?」


ここで休んだとしても巫女ちゃんなら許してくれる?


馬鹿か、それともクズか。

ここで休むだと?


それが正しい選択肢なら人はそれを選ぶだろう。

きっと苦しくなって、もう辛くて辛くてしょうがないならそれを選ぶだろう。

仲間に慰めてもらいたい、俺は頑張った、だからも休ませてくれと。


それが正しいなら、きっと選ぶだろう。


けどな、それでも・・それでもだ。


「今の俺はお前から逃げるわけにはいかねぇんだよッ!」


「小賢しいぞ貴様ァァァッ!」


ドォォオォンッ!


ギリギリで避けたッ!

瞬時に反応できるほどの力があって良かった!

日ごろ特訓していた俺の成果がにじみ出て来るぜ。

まあ、地面に殴られたから当然破片沢山飛んできてかすり傷は追っちまったが・・。

関係ない、避けれて距離も取れたのなら・・まだマシってもんだ。


「貴様・・生き恥じを曝すのもいい加減にするが良い・・貴様が今やっていることは目ざとく生き、勝てもしない希望もない試合にただ維持をはって立っているだけだ!そんな戦いに意味などあるかッ!おとなしく敗北を認めいッ!この死にたがりめ!」


「死にたがりで結構、俺っちはもう何年と生きた、こんなスライムができるのはせいぜい体を張って化け物に一矢報いるだけだ、その為に必要なのは何か分かるか?」


体が動けるか?

ならば全力を注げ、目を研ぎらせ歯を食いしばれ、死に物狂いで勝利を勝ち取れ。

生き恥曝しても死に恥曝すな、そして死に際に立たされたとしても決して戦いを止めるな。

動けんならたとえ目が潰され視界が無くなろうと歯が折れて噛めなくなろうと。


戦え、戦い続けろ。


全力だしても勝てっこない?

そういうセリフは血を吐いて、寿命を削れるだけ削り。

死に際に追いやられるくらいどうしようもない時にしか言えないんだよ。

手が無くなったら、こっちは口で相手の指全部噛み切り腕ごともぎ取る覚悟で勝ちとれ。


勝機がないなら自分で開け、未来が見えないなら力一杯踏みしめろ。

たとえその時に誰かに靴を隠され画鋲を敷かれて茨を用意されたとしても。

血を出しながら突き進め、痛みなんか知るか進め、とにかく走れ。


勝って明日を笑って生きたいならそれだけの対価を今ここで差し出せ。


「やろうぜ・・クソッタレ王者・・」


「ほう・・これほどまでに絶望してもまだあきらめないか・・」


「あたりまえだ・・まだ・・終わっちゃいないッ!」


「ならば見せてみろッ!貴様の最後の刮目をォォォォォッ!」


スォォォォォォォンッ!


来る、俺の目の前は大いなる右拳で殴りかかる王者に影を作られて立ちふさがる。

完全に退路は断たれた、ならばもう手段は一つ。

覚悟を決めろ、もう逃げる事なんざ決めないッ!


「ルォォォォォォォォェェェオッ!」


ギュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!!


回転をかけろッ!

もっとだ、もっと素早く、地面から砂埃だけではない。

焼け焦げさせろ、火を起こせ、発火させろ。

火花を起こせ、それほどまで・・早くッ!


高 速 に 回 り ゆ け ッ !


バァァァァァァァァン!!!


光をも超える神速の一撃ッ!!

その一瞬、地面は大きくヒビを作り次々へとミシミシ割り行く。

俺の後ろはいつしかボコボコと地面が割れて行った。

そう、それほどまでに力強く天空さえも葬ってしまうほどの一撃。


超天(ストライク)】だッ!!


「超天ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」


「グォォォォォォッ!!だが・・こんな程度の攻撃で我が拳が・・」


「ぶっ壊せぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


グォォォォォォォオンッ!!


ガロンの右拳とぶつかり合った俺は空へと力強くはじかれる。

だが、その間にガロンの右拳の関節をあらぬ方向へとまげてやったッ!

空へ飛ばされる瞬間それは確かに確認したッ!


「グ、グォォォォ・・貴様ごときに・・こ、このガロン一生の不覚ッ!」


「まだ終わってねぇぇぇぇぇぞォォォォォォッ!!」


空へ飛ばされて場所はガロンの頭上。

だが、少し位置がずれているからここからならばあの位置も狙える。

そう、心臓だッ!

命を奪うわけじゃねぇ、だが・・ここで一気に勝負をしかけるッ!


「もう一度・・今度は体重かけながら・・行くぞぉぉぉぉッ!」


ギュ・・ルルルルルルルルルルルッ!!


回転をさらにかけろッ!

重さを付けて加速をさせろ、早く・・早く回転させるんだッ!

回転の数が全てだ・・これにすべての力を込めて行け。

大丈夫、自分の感覚を見失ってはいないッ!


今ならいけるッ!


「【天下(フライハイ)】ィィィィィィィィィィィッ!!」


「貴様・・ごときにィィィィィィッ!」


ゴッ・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・ゴォォォォォォンッ!!


流石だ王者ガロン、腐ってもそこは得意の肉体で耐えるかッ!

俺っちの攻撃をあえて体で受け止め、全ての力を心臓部に捧げている。

だが、その程度では・・俺もまだ負けてはないッ!


スッバァンッ!


互いに衝撃を付けて一度距離を取る。

間合いができた、だがこれは同時にガロンもまだ攻撃を止めないという事。

何か仕掛けて来るッ!

あの、左手拳がきっとそう語るッ!


「貴様が初めてかもしれぬぞ!この奥義を見るのはッ!!フォォ!!」


飛び上がったッ!?

俺っちの事を斜め上から見下すようにしやがる。

だが、そうじゃない・・何故左手拳にそんなにも・・。


力を蓄えている・・ガロンッ!!


「これは本来敵と認めた者にしか使わぬ秘奥義・・見せてやろう・・これがッ!」


ガンッ!


両手が動いたッ!?

馬鹿な・・あの状態から自力で回復したと言うのか!?

しかも、両手を前にまっすぐと伸ばしてわしづかみをするような構え・・。

違うッ!

アレは・・その合わせた手のひらに何かを集中しているッ!?

魔力・・いやもっと力強い何か・・気ッ!?

そうか、気だ、魔力と似た性質であり、なおかつエネルギーとして使う事ができる。

遠い国にそれを武術に加えた殺法があると聞いた事がある!


「くらうがいい・・これが我が秘奥義ッ!【天覇気豪拳(てんはきごうけん)】ッ!!」


ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!


来るッ!

真っすぐに超巨大なエネルギー波動の砲撃が襲ってくる。

一瞬でそれは俺の前に飛んできている。

だが、そんなのに絶望する俺ではないッ!

こんなモノに・・こんな程度の技に負けて・・たまるかァァァァッ!!


「回転をかけるッ!!【超天】ッ!」


ズバァァァァンッ!ギュォォォォォォンッ!


体が溶けそうなぐらい熱いッ!

勢いとその場しのぎでこの技で対抗できてはいるが。

長くはもたない、なんとしても突破しなければならない。

早く・・突破して・・奴に追いつかなければならないッ!!


「と・・届けぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


「届かせるかァァァァァァッ!!!」


一進一退の攻防はついに互いの技のぶつかり合いへと移る。

ガロンは砲撃でこちらへ近づけせさまいと両手にすべてを込める。

俺は絶対に燃え尽きる前にこの砲撃を裂いてやると回転を素早くさせる。


どちらに負けられない思いが募っている。

だったら、後は・・どっちかが勝つだけだッ!!


「俺は絶対に負けない・・マオにもらった命、桃子が作った希望・・そして・・巫女ちゃんにもらった勇気・・俺はな・・みんなに恩を返す為に・・絶対負けるわけにはいかないんだよ・・俺が強くなったから次は俺が巫女ちゃんを絶対に強くさせる・・そうするためにも・・今・・ここでてめぇに勝ってやるんじゃねぇぇぇかぁぁぁぁッ!!」


「戯言も・・寝言も・・寝てからいぇぇぇぇえッ!!」


ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!


力強い・・ッ!

押しまけてしまいそうなくらい・・強い・・ッ!

だけど・・お前が一人で強いのなら・・お前らが個々で強いなら・・。

俺達はそれぞれ背負っている仲間の意思で強くなれるッ!

繋いで来た思いで強くなれる・・たとえそれが少ない短い期間でも。

俺達は運命を感じられる、見えない未来を照らして生きられる。


光も闇も裂いてしまうからなッ!


「強すぎるんだよ・・俺らの【ソレ】はなぁぁぁぁぁッ!」


「こ、これほどまでに・・・コイツはァァァァァァッ!!」


「貫けぇぇぇぇぇぇぇッ!!スカイ・・ハァァァァァァァイッ!!!」


「ウォォォォォォォォォォォォッ!!!」


ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


その一瞬時が加速した様に闘技一帯は光に包まれた。

そして、光は一瞬で消え去り、爆発が起こり爆風が起こる。

一度は誰にも確認できなかった、だがやがて爆風が晴れた。

ついに、その場にいた人達が決着の瞬間を目にする時が来たのだ。


「・・・」


会場の全員は唖然としていた事だろう。

あんな死闘を繰り広げた結末の後に立っていたのは。


ガロンの姿だ。


この事をきっと仲間は急いで知らせに行くであろう。

きっと、この驚愕の事実を伝えに行くであろう。


そういえば、俺の仲間は今頃、どう思っているかな。


 ◆


「・・ガッツ君・・今頃・・」


「何故、医務室にテレビがないのか不思議だな」


「医務室だからでは?」


静寂と不安が募ってしまうほどの冷たき部屋、ここは医務室。

胸騒ぎしかしない、ガッツ君が心配だ。

今頃、ガッツ君も強敵との対戦に苦戦を強いられているはずだ。


「ま、魔王様・・私、見に行きたいです!」


「巫女・・だが」


「その必要はないぞ」


「えっ!?」


私が魔王様に必死なお願いを申し立て。

魔王様がそれに動揺してしまった時、一人の聞き覚えのある声がした。

そう、ドアに背中歩もたれかけている男、金鵄だ。


「勝敗はまだついてはいないが・・開始時の時点でガロン様の優勢・・勝負は見えた」


「そ、そんなッ!・・でもまだ勝負は・・」


「時間の問題だ・・スライムごときがあの方に勝てるほど世の中は甘くはない・・精々・・あと数時間で休みをとって、とっとと田舎へ帰るんだな」


「金鵄様~ッ!!」


「おっと・・噂すれば・・因幡、結果はどうなった?」


因幡ちゃんの声ッ!?

じゃあ、もう勝敗は・・。


「ゼハァ・・ゼハァ・・が、ガロン様が・・」


「ふん、やはりか・・勝利は見えていたがな」


「そ、それがッ!!」


「・・なに?」


「なんだと・・?」


「えっ・・それがって・・まさか・・」


「・・驚かないで・・聞いてください・・」


因幡ちゃんの出した答えにそれを聞いた私や魔王様、そして金鵄さんは。

目を震わせて、驚きで手が震えてしまっていた。


そう、なぜなら・・。


 ◆


「・・・フッ」


ガロンは確かに立っていた。

だが、そのガロンの腹にめり込んで叩きに行った者がいた。


ガッツ君の姿である。

そう、あのぶつかり合いには続きがある。

一見ガッツ君が吹っ飛ばされたかのように思われていたその裏では。

ガッツ君が見事にあの砲撃を引き裂いてガロンの腹めがけて突撃することに成功したのだ。


それが、今の現状にあたる。


「・・見事・・だッ!」


ぐらりと倒れこむガロンに対してガッツ君はサッと離れる。

両者が地面へと着くが、この場合の勝者は一目瞭然だ。

誰の目から見ても疑いを持つ者はいない。


「ウォォォォォォォォッ!勝ってやったぞぉォォォォォォ!!!」


勝利の歓喜の雄たけびをあげるガッツ君。

あまりにも衝撃的すぎる展開に会場も喜びの歓声を上げた。


『し、信じられません!今まさに・・我々は奇跡の瞬間に立ち会っています!長きにわたって今ついに・・決着!勝者!【ガッツ】選手ッ!』


『体を生かして戦う姿・・まさに一人の戦士同然でした!お見事!』


「(やったぜ・・やったぜ・・!)」


この瞬間、私達はさらなる道へと歩くことに成功した。

もう、どんな困難が待ち受けていようとも・・恐れる事はない!


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