無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章20 「王者の旋律」
『いや~実に見事な戦いが初戦から繰り広げられる月杯大会・・今回は前回以上の盛り上がりを見せてくれるかもしれませんね!』
『そうですね~!私も中々に古い世代で同世代の戦闘者がいるか不安でしたが・・それよりも新世代の戦いも中々に熱いモノでした!』
『はい!全くその通りです・・あ、ちなみに正義さん、二つほど質問があるのですがよろしいでしょうか?』
『はい、なんでしょう?』
『実況中、私達の声はどうして選手の決闘中は遮断されてしまうのでしょうか?』
『ああ、それは選手の邪魔にならない為ですね、我々の声は音量を最大まで上げてもらっているのでかなりうるさいです、ですが試合中は月帝様の力によって闘技場と観客席の間を防音することにより、観客席からは一切音は聞こえません』
『なるほど、作者の手抜きではないと言う事ですね・・』
『はい、他意はありません』
『では、続きまして・・先ほどから選手達の敗北条件が不安定です、それに桃子選手やリュウナ選手があんなに死ぬの様な傷を負っているにも関わらず、何故生きているのですか?』
『なるほど、これについては改めて説明しておかなければいけませんね、予選と違い選手達には月帝様によって決められた【リミッターライフ】が存在します、これはこの特殊結界で作られた会場のみ有効となっています、本来心臓を貫かれたり、出血多量で死んでいそうな傷を負ったとしても、この結界内では死ぬ事はありません、リミッターライフ内であればいくら傷を負っても痛みのみです、ちなみに上限はその人によって変わってしまうのが難点ですが・・そこらへんはどうしようもないですね』
『あー!つまりうちの【エイプリル】さんと同じって感じですね!』
『まあ、言ってしまえばそういう事になります、しかし上限を超えるとこちらで試合終了の合図を鳴らすことになってしまいます、それ以上は戦ってはいけないと言う事ですね』
『なるほど・・自分のリミッターを超えないで上手く戦えるかが勝敗に左右する・・中々おもしろい情報でした!ありがとうございます!ぜひ、この設定を生かして格ゲー実装お待ちしています!』
『はは・・あるといいですねー(笑)』
◆
「ウッサーッ!!なんで負けたウサッ!?どうして負けたウサッ!?このポンコツ兎ィィッ!」
「黙れ因幡、リュウナ大丈夫か・・?」
「うひぃ・・ひゃい・・・なん・・とか・・」
「あんだけ無茶すりゃあそりゃあ体がそんなにふらつくウサよ、馬鹿ウサ」
「く・・返す・・言葉も・・ない・・です・・コフゥッ!!」
「おいおいリュウナ、いつから貴様の体はそんなやわになったんだ?私はそんな鍛え方をした覚えはないぞ?」
「ッ!?この足音・・じゃない!この声・・ししょ・・めぐぇっッ?!放して放してッ!ししししししょうあばばばばばッ!!ねい・・ねい・・・ねいさんッ!やめてッ!乱暴しないで!」
「実に持ちやすい胸ぐらだな・・軽量なのは良い事だが・・もっと鍛えるべきだ・・私の様にな・・これでは相手にやられたい放題だ、それに銃の使い方もなってない・・使うべき獲物はしっかりと手入れしろ、あと科学魔術をやるなら勉強しろ?」
「すすすすすすすッすいまっせーん!!もうしますえぶべらッ!!・・い、いきなりはなさんで・・」
「悪い、わざとやった・・と、すまんな突然現れて・・自己紹介が遅れた・・【ゼロ】、これが私の名前だ、先ほど体を乗っ取り戦ったのも私だ」
「ウッサッ!?あれ、貴方様がやったのウサ?」
「結果的に負けてしまったがな、流石に鬼殺しには勝てなかった・・まあ、少し反則はしてしまったが、問題はないだろう」
「え・・あ、ああ・・(突然の出来事で話についていけない)」
「それよりもだ・・貴様だ貴様・・とっと医療を受けてもらうぞ」
「え゛ッ!?師匠・・じゃない姉さんがするのッ?!」
「当たり前だ、私にもそれぐらいはできる、と言うよりそのためにここに来た」
「いやぁぁぁぁ!!師匠の医療はいやぁぁぁぁ!!」
「ウダウダ言うな、行くぞ」
「イヤーァァァァッ!」
「行ってらっしゃいウサー、ぷぷッ!」
「(ゼロ・・そういえばそんな人獣もいたか・・しかし、どうしてこんなにもピンとこないのだろう?あんなに強い人物の事を忘れるとは到底思えないのだが・・)」
「なに気にしているウサ?」
「いや・・何か見覚えがあったような気がして・・」
「そんなの気のせいウサよ、アタシだってあんな狂気じみた兎見た事ないウサ、確かに姿形はリュウナとそっくりそのままだったけど、そうだとしてもアレにそこまでの知名度はないウサ」
「ふむ・・ならば・・なんだろう・・この記憶の中でざわめく・・胸騒ぎは・・」
「気にしなくていいウサ、とにかく今は最終試合を気にするウサ!」
「あ、ああ・・しかし、あの方はどこへ?」
「もう、会場に出てるウサ」
「流石は・・ガロン様・・」
◆
いよいよ次は最後の戦い、第一回戦Aブロック第一試合最後はこの俺ガッツVS牛黄ガロン
もう、この際邪念を全て捨てて戦いに挑むしかない。
桃子の時と違い俺の控えに誰一人としていないんだ。
思う存分やってやるとも、絶対に勝ってあいつらを歓喜させてやる。
もう最弱スライムは卒業したんだ、俺っちはそれなりに強くなった。
覚悟を決めろ、勝機は必ず見える。
相手がどんな野郎かなんてわからないけど、今は真っすぐ歩き出そう。
「よし・・行って来るぜッ!」
ようやくこの後ろから見守る事から離れる事ができる。
ついに自分自身の手で戦う日が来た。
さあ、どんな相手でもかかってこいッ!
「ほう、どんな相手かと思ったが・・スライムだったとはな・・これは恐れいった」
「(世紀末覇者かなッ!?)よ、よろしくお願いします」
なに、あのデカい巨大な男はぁぁぁッ!
ヤバいよ、完全に『ジョイヤー』とか言って田植えハメ使ってくる奴だよ。
そのうち死兆星が光ったら天に滅せいとか言い出すぞアイツッ!!
予想してなかったッ!
牛とか名前についてるからてっきり牛のハーフか何かだと思ってたよッ!
完全にコイツあれだよ!
伝承者だよ!
マジもんの伝承者来ちゃったよッ!
だって見た目の筋肉の量がまずその域なんだもん!
ていうかこの会場ちらほらモヒカンがモヒモヒしていたのはこれが原因なんですかッ!!
畜生、いつから世界は世紀末に満ちてしまったの!
誰かイチゴ味に染めてやってくれよぉぉぉぉッ!
「どうした?体が震えているぞ?」
「(もう、声もそれっぽいし、見た目も筋肉、鎧もがっつりな軽装、マントに身を包んでいて、このバッサリヘアーならいつもみたいに説明入れなくてもいいでしょうよ、つうか震えてるのはこれ怒られないかどうかなんだよ!流石にヤバいだろ!訴えらるぞッ!死ぬぞ!主に社会的に殺されるぞ!)」
「先ほどから何をブツブツと言っている?」
「いえ、これには何も意味はありません、とっと始めましょう」
「ぬう?そうか・・始めるとするか・・フッフッ・・」
まずいな・・相手がこんな筋肉野郎じゃ俺っちが殴りに耐えられるかどうか・・。
一様砕けても再生できるけど、リミッター超えたらもう再生しても無意味だし。
それどころか傷を受けるのが一番アウト、再生が遅くなる。
ここはとにかく、攻撃を覚えるためにまずは避ける事に専念しなければッ!
『それでは準備が整ったのでこれより試合を開始します・・レッツ・バトル!』
「ルォォォォォアァァァァァァァ!!」
ズドドドドドグォォォォァァァンッ!!
嘘だろッ!?
開幕早々こんなのありかよッ!!
いきなり・・いきなり・・地面をボコボコと上げて攻撃してくるなんてぇぇッ!!
「避けられ・・ぶばぁぁぁぁぁッ!!」
やばい・・今の一撃でもかなり正気を持っていかれる。
いや、それよりも・・地面を上へえぐり殴るだけで何故こんなにボコボコ上がり来るんだよ。
異常すぎる、相手が狂人戦闘者すぎる。
「ふははッ!滾ってきたぞ!!ソォイッ!」
こ、今度は天高く上げられた俺に向かって飛び上がっただと!?
いくらなんでも無茶苦茶すぎる。
こいつ、見た目からしても思っていた事だが・・常識もなにもかも通じない・・。
ダメだ、それしか思えられないくらいに‥今の俺には避けられないッ!
このまままっすぐなストレートを受けるだけだッ!
「ブボォッ!」
「ルぉッ!ロォォオッ!ラァァァッ!これぞ・・我が流技【天翔空絶連拳】ッ!!」
「ピ、ピギィィィィィィィィッ!!!」
な、何度も殴られ、蹴られ、ありとあらゆる技を決められた。
空中で身動きできないのは常識ではある、しかしこいつはその常識のさらなる上を行く。
もはや並を超えた存在、すなわち超越した存在。
彼にとっては空でさえ、海でさえ、我が道として踏み歩いて行くに違いない。
奴に立てない戦場はない、アイツは【強者を超えた存在】なのだから。
殴られ真っ白な目をした俺っちはそのまま真っ逆さまに落ちていく。
無様に、ボロボロの姿さらしてただ下へと落ちていく。
「これで終わりだと思うかッ!?ヌハァッ!!」
「ヴォァァァッ!!」
グボシャァッ!!
こ、こっちはさっきの二十四回連続攻撃ですでにくたばりそうなのに・・。
お前はまだ続けると言うのかッ!!
ダメだ、抵抗できない・・体が・・動けんッ!!
このまま空中で前面を殴られながら・・落下させられるッ!
ズドォォォグォォォンッ!!
必死に動かそうとはするもやはり動かない。
そのまま真っすぐな重い拳に乗せられて会場の壁へと押しつぶされる。
あまりの力にその壁はミシミシと穴ができる。
押しつぶされた俺っちはいまだに意識を取り返せそうにない。
一度は拳が離れた、だがそれでもまだ意識還らない。
そして、次の瞬間だ。
ドグシュオッ!ドドォォンッ!ズルォォッ!!
「ドゥルォォォツ!セィっ!!ゾリイヤァァァッ!!」
今度は壁に押されながら連続で攻撃を食らい始める。
右から俺の顔殴り、左から俺の頬を飛ばす様に、そして右足で回し蹴り。
い、いくらなんでもオーバーキル攻撃すぎる。
まずい、このままでは本格的に危ない。
連続でこんな俊敏すぎる蹴りと殴りを食らっていたらもう戻っては来れない。
それどころか気を取り戻す事ができるかどうかさえも怪しいぞ。
畜生・・動いてくれよ。
頼むから・・こんなところで負けるわけにはいかねぇんだよ・・。
「フハハハッ!どうした!それで終わりかぁぁッ!」
俺が動かなくてもまだ攻撃は続く。
俺はもう戻ってこれない可能性があったとしても、相手は獅子。
狙った獲物は気が済むまで最後まで狙われるのだった。
◆
「・・え、エグイ・・ウサ・・これがガロン様の戦い」
「当たり前だ、これが王者たる王者、かつて戦争時に【魔物殺し】と言われて前に出て誰もが恐怖した荒くれものとはあの人の事・・勝負あったな・・」
「ど、どこへ行くウサ!?」
「決まっている、見るまでもない勝負だ、俺は仲間の様子を見に行く」
「わ、わかったウサ、勝敗の結末は追って知らせるウサ」
「(必要は感じないがな・・)」
◆
「う・・・ううん?」
ここはどこだろう、私はまた倒れてしまったりだろうか?
それとも今度は本当に死んでしまった?
でも、この天井は見覚えがあるような・・。
「もしかして・・」
「やっと起きたか、馬鹿巫女」
「ま、魔王様!・・そうか‥私」
「どうやら今回は記憶がしっかりあるらしいな・・良かった良かった・・とでも言うと思ったか」
「ですよね」
見覚えのある白い天井、そしてふんわりとしたベッドの上。
ここはあの医務室だ、間違いない。
そして体を起こして椅子に座って私を見守っていた者は魔王様。
私が起きるまでずっとベッドの隣で見守っていてくれたのだろう。
本当に・・迷惑をかけっぱなしだ・・それに。
「私・・負けてしまいました・・あんなに偉そうな事を言っていたのに」
「・・負けてしまったのは仕方があるまい、それよりも」
「・・・」
きっと怒られる。
絶対に説教されてしまう、また無茶してしまった。
またここで治してもらえればいいと思っていると言われる。
分かっている、自分でも無茶して怪我しても直してもらえればいい。
そんな甘い考えを抱いている自分がいる事は自分が良く分かっている。
そんなの間違っているのは自分も良く知っている。
本当の戦いになった時、そんな考えは通じない事も良く分かっている。
これは大会、戦争や多勢の死闘じゃないからこそ治す余地があるだけ。
もし、本当の死闘ならば私は今頃死んでいる。
分かっている、けれども・・・。
「・・・巫女」
「ご・・なさい・・」
「ん?」
「ごめん・・なさい・・もう・・しませんから・・」
「お、おい!巫女ォ?どうした!!」
私はその時、考えすぎていたのかもしれない。
もしかしたらどうにかなってしまっていたのかもしれない。
もう、自分でも何をどうすればいいのか分からなかったのかもしれない。
だから、心が壊れてしまったのだ。
絶対に見せたくない【悲しみ】の心がとうとう・・壊れてしまっていた。
魔王様だけにはもう見せないと誓っていた、溢れ出る涙。
私は流していた、ポタリポタリと手の甲にしたたる。
それほど多くの悲しみが、今の私の目から溢れ出ていた。
「本当は・・分かっているんです、こんなことしちゃダメだって・・きっといつか本当に死ぬって・・でも・・今はそうしないと・・強くもなれない・・一生みんなに背負ってもらう日々が続いてしまう・・だから・・無茶・・するしかないんです!」
「巫女」
「魔王様になんと言われても・・私はッ!!」
私が胸から締め付けられて伝わる罪の重さに腕をギュとしてこらえながら。
魔王様に反抗するように強く声を上げた。
ガバッ!
だけど、私がそうやって強く声を上げた瞬間だった。
魔王様は私のその痛みを抑え込む様に私の体をそっと優しく抱いた。
魔王様の顔が私の横に来るまでのゼロに等しい距離。
互いの鼓動の高鳴りが感じ合ってしまうほどの距離。
私はその一瞬だけで心が安らいでしまっていた。
背中をポンッポンッと優しく叩き、まるで【大丈夫】と伝えるようだった。
私はとてもその一連の行動で心の痛みから解放されてしまった。
「巫女、無茶をしても構わない、無理をしても構わない、けれどもお前がそうしたら悲しむ者は沢山いるんだ、俺を含めだ、怒っているのはお前がいつか本当に死なないためだ、お前が死にも狂いに強くなろうとするから言っているんだ」
「・・まおう・・様・・」
「焦るな、きっと強くなれる、強くなれるから・・と言ってもこれからもするのだろう、でもそれでも強くなれないから心が辛くなる、ガッツも言っていたが何度も負けていい、何度も倒れていい、その時は立ち上がってまた歩きだせ、もし辛くなったら俺達がお前の安らぎを作る、一緒にいるんだ、絶対にお前を強くさせてやる」
「・・・あ゛い・・ありがとう・・ございます・・!!」
「・・感謝はいらない、だからせめて・・この瞬間だけでもいい、休め」
「はい・・私・・少しの間だけ・・休ませて・・もらい・・ます・・」
「ああ・・休め・・お前は十分やった・・もう、休んでいい・・そして起きたらまた歩き出そう・・」
とっても黒いのに、とっても暗いのに、なんて心地よいのだろう。
抱きしめられて、強く強くギュっと抱きしめられる私はその暖かさに癒されてしまう。
まるで母が子をあやすように私はゆったりと目を閉じてしまう。
疲れているから余計なのだろう、私の目はどんどん夢の中へと誘われていく。
さきほどまで寝ていたのにも関わらず、私はまた・・眠った。
しずかに、そっと目を閉じて、安息の夢の中へと・・。
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