無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章18 「才能と努力」
暗い暗い意識の中で確かに私は聞いた。
初めて、私は心の中で同じ舞台に立てたと確信したその言葉を聞いた気がした。
私は嬉しかった、けれども同時に涙を流した。
その代償として、私は敗北を刻んだ。
誰かのための勝利なのに、私は負けてしまった。
とっても悔しかった、胸いっぱいに詰まる悔しさを絶対に忘れない。
この悔しさ、そして闘士を私は今の自分の道しるべとして刺した。
大きな旗印として、私は心の道に、人生の道の忘れ無き記憶にすべく。
いまこの瞬間を永遠に覚えておこう。
だから、今は少し・・休んでもいいよね。
「・・巫女ォ・・お前は本当に無茶ばかり・・」
「おいおいおーいッ!!医者!医療班が通るよッ!」
「その子をすぐに搬送します!急いで乗せてください!」
「悪いようにはせん、三十分・・いや十五分で終わらせるから・・」
「いや、時間をかけてもいい・・だから我から頼みがある」
『?』
「巫女を・・苦しまさせず治療させてやってくれ・・せめてその瞬間だけでも・・こいつに癒しを・・安らぎの時を与えてやってくれ」
「・・了解だよ、君が心配せずとも・・ボクたちは最高の医療班・・期待してまっていたまえ!」
「全力を尽くし、必ずあなたの思いに答えます!」
「まかせろ、ジャージを着た白衣の男は最強にスゲェと思い知らせてやる」
「・・ありがとう、ガッツッ!桃子ッ!」
「ま、マオ」
「魔王?」
「・・頼んだぞ」
『・・ッ!!』
私はただ暗闇の深海の中に沈みゆく。
けれどもどうしてか暖かい、なんだかいつまでも休んでいたくなった。
何か、安心してしまうほど・・信頼の厚い・・仲を感じれた気がするから。
「・・勝つぞ・・負けたら職業を勇者からさまようなべのふたを持った冒険者にしてやる」
「あんたこそ・・負けたら・・スライムからH2Oにしてやるから・・覚悟しなさい」
◆
って、偉そうに言ったのはいいけど。
事実上負けられないのは確定しているのよね。
この私、【桃子】様の目から見てもこれはやばい。
負けられないプレッシャーってのが一番怖い。
けど、ここで負ける様なら・・月の里で四天王はやってない・・。
第一、師範代に顔向けできないッ!
「よし、とりあえず・・私達しかいない以上・・もう覚悟決める以外・・やることもなす事も必要ないわよね?」
「ああ、変に俺っちから言えることは何も・・ねぇんだ・・さっさと行って勝って来いよ」
「言うわね・・次アンタの番になったら散々いじり倒してやるから・・覚悟しなさい」
「おう、良いの期待しているぜ」
「ええ、良いの待ってなさいな・・ッ!!」
ちょっとジョーク聞いて安心た。
そうだ、勝てば全て楽になる。
次のガッツ君が負ける事なんて一切考えてない。
自分が負けた時が一番怖いんだ。
相手の事を見すぎて自分の事をおろそかにしてしまう。
戦地ではよくある話だ。
だからこそ、私はいつも細心の注意を払う。
深呼吸、思考のリセット、素数を数える。
色んな事をやってとにかく脳内を戦闘モードに移行しなきゃいけない。
だから今は余計な考えを捨てろ。
真っすぐ前を向いて、相手の目を見る。
さあ、来いッ!
私の相手は誰だッ!
『それでは二回戦目・・天竜川 桃子選手VS・・』
「・・・なッ!?」
『リュウナ選手です!勇者VS特殊部隊のトップ・・果たしてどちらが勝つのか!?』
『これは見どころ満載の勝負ですね~まさかまさかのリュウナ選手・・なにしろ彼女は【兎竜】のドラゴンと兎のハーフですからね』
「(すっごく可愛いくて凛々しいのは分かるんだけど頭のお耳ィィィィッ!)」
私が気合を入れてキリっとした表情で見た少女の姿はそれはそれは大胆なものだった。
ひらりと舞うチェック柄のスカート、白髪のロン毛、頭は竜の角に兎耳。
凛々しい瞳はなんと目に緑と赤が混合する。
黒シャツとニーソックスのとんでも服装少女。
獣人っていう奴かッ!?
見た目はほぼ人間なのに、どうしてこういう種族が多いいかな・・。
「あんたも・・獣人?それとも半獣?」
「どちらでもない・・私は生まれもって竜であり・・人であり・・獣である・・そのような種族で割り振られていたことさえも私の一族にはない」
「だよねー・・なんならいいよ、あんたが固有の種族ってだけ・・私はその辺の心配していたのよね~」
「どういう事だ?」
凛々しいうさちゃんには悪いけど。
ああいう子にはちゃちゃっと即落ち二コマの様にバッと落ちてもらわないとね。
クーデレの弱いところは押しに押しまくる事、攻めこそ最強。
そして、種族も判明したら私の能力の出番・・ッ!
「この左目を知っているかしら・・知らないはずないわよね?」
「・・・ッ!【神殺しの眼】ッ!!お前が噂の・・」
右手で左手をすらりと一瞬だけ隠す。
そして、右手が通り過ぎた瞬間、私の目は赤く光り輝き始める。
それこそ、【神殺しの眼】・・私の能力だ。
発動中は人種以外に対して普段の何倍の力を発揮できる。
そのうえ、相手が竜、鬼、神である者に対してキラー的立ち位置になる。
これが私が【桃の勇者】と言われた由来、鬼を殺し、竜を狩り、神をも裁いた。
本当はあんまりそういう事好きじゃなかったけど。
今回みたいに守るべき者がいるのなら、私は立ち上がろう、戦いの闘士を燃やして。
「・・さあ、お手並み拝見・・ッ!準備なさいなッ!」
「・・ふふ」
「んあ?」
なんだろう、心なしか今笑ったような。
気のせい、気のせいだよね。
だって、ここから性格が一変したら私流石に『性悪女がッ!』とか言っちゃうよ?
だから今のままの性格でいてね?
これ、フラグじゃないよね?
『それでは第二試合・・レッツ・バトルッ!』
「準備ならもうとっくに出来ているんですよォォォオ~ッ!!アハハハッ!!」
「この性悪女ガァァァァァァァッ!!!」
思わず右手中指を突き立ててしまうほどの下衆の所業。
奴め、試合開始と同時にいきなりスカートからハンドガンを取り出した。
それだけじゃない、後ろにも謎の小さな浮遊物体・・何アレ!?
ランチャー、バルカン、ライフル、それぞれ丸い小さな機械の球体が持っている。
まあ、予測可能範囲としてたぶん援護射撃が来るのだろうよ。
なんでもかんでもスカートから出て来てたけどどういうスカートなんですかそれ。
「まあ、どうでもいいよッ!そんなのどうでもいいんだよ!今は彼女との対決さいゆう・・」
ズババババッ!
危ないッ!
いきなり砲撃開始ですかッ!
私が瞬間的に走れる女じゃなかったらこれハチの巣確定だよッ!
いや、ウェルダンになっていたかもしれない。
グッ、このフィールド平地で逃げ回りながら考えるしかないッ!
なんとか逆転の手立てを確保しなければッ!
「って・・やばッ!」
思わず彼女から遠ざかる様に円形を描くように逃げていたが前からあの球体が・・。
二つか、ランチャータイプとバルカンタイプ・・。
全部で十二機見えていたのは知っている。
ならばこれを避けた場所に誘ってその球体共は動くはず。
ここで下手に動けない・・だとしたら・・・。
「アハハッ!どうですか!私の戦闘技術面は・・これが科学魔術が生み出した驚異の【ドローンアタッカー】・・付けた武器に応じて特定の行動をして、相手を追い込み最後は死にまで追いやる最高の美品・・美しいほどに・・狂わしいほどに・・たまりませんねッ!」
「あーうっさいッ!考えている途中で説明挟んでくるなよッ!」
「んー?私は弱い子犬ちゃんに教えてあげているのですよ?不公平が無いようにね!」
「な・・ッ!あんた本当に性格悪いじゃな・・アブナイッ!」
ドドドドドドドドドドッ!!!
周りから飛び交う複数の銃弾。
煙いったらありゃしないよもうッ!
なんとか持っていた剣を鞘に入れたままはじき返す事ができたけど。
鞘の方大丈夫かな・・ボロボロになってないかな。
「アハハ・・剣が銃に敵うはずないでよね?おとなしくやられてくださいよ」
「断るッ!私は負けるわけにはいかないからっ!私は一度守るべき約束は絶対守るッ!」
「ふーん・・優等生のつもりですか・・これだから人間の・・いや月の民の世界は・・」
「それどういう意味ッ?」
「いえ、私以外にもそういうふるまいできる人がいるんだなーって」
「ハァッ!?貴方冗談のつもりで言っている!?」
「いえいえ!私は冗談なんて何も・・ただ薄汚い子犬がドブネズミに手を差し伸べているのが摩訶不思議で仕方がないんです☆きゃは☆」
「ああ?」
こ、こいつ・・煽りやがる。
今すぐにでも切り倒したいぐらいだがまだ押さえろ。
今、まだこいつを抜くときではない。
「私も~みんなから頼られたいし~ドブネズミはドブネズミらしく溝で生きてほしいんですよ~・・それなのにいっつも貴方達ドブネズミはおかしい事を口にしたり、実力では私以下なのに・・困っときは強姦・・あ、私はやられ馴てますよ?だって弱いフリした方がより効率的に楽しめますから~☆あーん!私ったらなんてすばらしい子なんでしょう!」
「どうしようもないクズの塊め・・一体どこまで人を馬鹿にすれば済むんだ」
「はぁ?事実を言ったまでです、努力したところで這い上がれないネズミが同じ世界に立つなと言っているんですよ・・そう、貴方のお仲間の様に・・クハッ☆」
「ッ!!??!?」
わ、私の中で今確実に・・確実にキレた。
今、脳内にギリギリで張り巡らされていた堪忍袋の尾が・・確実にッ!
「どうしようもないですよね~?ただ無茶して猪突猛進に突っ込むだけ、ボロボロになってまで続ける意味なんてどこにもありませんでしたよね~?ああいう才能無い人間が自分にだって同じ場所に立てるかもしれないとか言って這い上がって来るのが一番ムカつくんですよ!とっとと・・他の道に行かしてあげた方が身のためだと思われます」
「断固として断る」
「はい?」
「自分の道は自分で決めて歩く、巫女ちゃんがもうその道を決めたその瞬間から私達が止める事も・・彼女の道を別の道に歩ませるのも・・断固として断るッ!」
「聞き分けがないですね・・才能が・・」
「才能なんざいらねぇんだよッ!!!」
「にゅい?」
「才能が無ければやっちゃダメなの?好きでやっちゃいけないの?やりたいから・・誰かの為に頑張りたいからじゃダメなのッ!?私は・・才能で決める奴が一番嫌いだ・・努力して積み上げて・・何度も失敗しても立ち上がって・・全てを重ねた奴の方が好きだ!だってその方が・・一番、カッコイイからッ!才能なんかな・・ただの飾なんだよボケナスッ!」
そうだ、自分がそうだから言える。
最初、本当に弱かったころの自分にそっくりだからこんなにも胸からこみ上げるんだ。
ずっと見守ってあげたいって思える、もっと努力に励んでほしいって思える。
負けても支えてあげたいって思える。
自分にも才能は無かった、剣を持っては巴にボコボコにされる日々だった。
だから、私は才能のある人間を・・超えて行きたい。
自分より上の存在に勝つ、そして分からせてやる『人生は経験があるものこそ勝利できる』って、巫女ちゃんも今は弱くて、今は負けてていい・・きっと・そこから強くなれるからッ!
「人の仲間の努力を貶す奴は・・私の視界に入るんじゃねぇぇッ!!」
「ふははッ☆おっかしいーの~・・そこまで言うならさ~勝ってみてくださいよ~☆まあ、勝てたらの話ですけどねッ!」
「勝ったらてめぇ巫女ちゃんの前で土下座だ」
「良いですよ~その代わり負けたら貴方は一生私の下僕で~(しめた・・まだ能力も晒していないし、ここで一気にケリをつけてやろっと☆私の勝利は確実・・なにせ能力にも才能の格差がある・・【自在弾】・・私の能力は自分で撃った弾を自在に操る事ができる・・このハンドガンから放たれる弾とあのコア達の威嚇射撃を合わせれば無敵のコンボで仕留められる~ッ!もはや敗北必須パターンに入った!これで終わりだッ!)」
「勝ったらな・・でも、もうお前に勝利は来ない・・お前は・・決定的なミスを犯した」
「なんですか?私がミスなんて・・」
「それは、自ら溝に入ったドブネズミを仕留めようとした事だ」
「・・はッ?何をわけのわからない事を・・いい加減にしてくださいよねッッ!!」
ドドドドドドドドドドッ!!
乱射の音が聞こえる、周りから何十発と言う音の弾の音が聞こえる。
惑わされるな、全ての音を良く聞くんだ。
本当に・・この弾は私に向かって撃たれているのか。
そして、聞け・・戦慄されし本命の弾の音をッ!
「そこかぁァァァァッ!!!」
ズォォォンッ!
大量の銃声の中でかすかに聞こえた奇怪な弾の起動音。
風を裂いた音を何度も何度も出して角度を変えてこちらへ向かう。
そしてあからさまな威嚇射撃で出来たほんのわずかな穴。
ビンゴだ、私の剣が刃毀れなしの頑丈な剣で良かった。
「なッ・・・なんですって!?」
「お前・・確かに言ったよな?」
私は鞘を片手に持ち、あの忌々しい兎もどきに向かって。
この自慢の剣【画竜点睛の剣】で突き立てて腹から怒りの声を上げる。
「負けたら土下座するって・・ッ!!」
「キィ・・キィィィィッ!!」
勝負はここからだ、ここから一気に巻き返してやる。
才能あるべき人間だかしらないが、絶対に勝たせてもらうぞ!




