無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章17 「巫女の闘士」
「義正さん・・」
「ん?どうした?」
「いつまで、【こんな事】してなきゃいけないんでしょうね」
「そうさな・・おっちゃんはいつまでもしていたいけど」
「私は正直嫌です、確かに人々にあらゆる情報を目となり耳となり届ける事に我々は喜びを持っています・・それでもですよ、何故こんなマネをしてまで届ける必要があるかですよ」
「そればっかりはおっちゃんの管轄外だ、俺にその答えを導き出す事はできない」
「なら、せめて・・答えが出ないのなら教えてほしい事があります」
「なんだ?」
「貴方はいつまでその名をごまかすつもりなんですか?」
「・・それはお互い様だろう、いまこの場で明かせば俺らは間違いなく追放されるぞ」
「それは分かっています、けれども・・貴方がアイツの前で頭を下げている姿なんてあまりにも見ていられません、私にとって・・それは屈辱でしかないんです」
「まあ、そうカッカするな、【アレ】が終わればそれともお別れだ」
「・・さっさと終わればいいのに」
「そういうな、無事に終わるか終わらないかは俺達にかかっている、今は気合を入れろ、そして目の前の情報だけを、今、この里の人たちに届けるんだ」
「・・分かりました、では今は仕事として割り切ってこの実況寺、頑張らさせていただきます・・でも」
「でも?」
「一つだけ条件をください、こういう自由の時間の時だけでもいいんです、貴方の事をちゃんとした名前で呼ばせてください、そうじゃないと、私は・・忘れてしまいそうだから」
「・・しょうがねぇな・・自由時間の時だけだぞ?」
「・・!!はい!ありがとうございます!【ゼルク】さんッ!」
「はは・・お前が満足そうで良かったよ」
「はいッ!・・フフ・・ッ!」
「・・っと、喜んでもいられないぞ彩音、もうそろそろ試合開始だ」
「ッ!!わかりました!では、気合入れて頑張りますッ!」
「行くぞ・・本番五秒前・・3・・2・・1・・ッ!ゼロッ!」
『お待たせしましたーッ!さあさあ!会場の皆さん!そうでない皆さんも・・改めてッ!実況寺でーす!これより待ちに待った第一試合を行います!さあ、まずは出雲翡翠VS神風寺金鵄、果たして勝つのはどちらかッ!今、白熱の試合の・・幕開けですッ!』
『おやおや実況寺さんの気合の入り方が素晴らしいですね・・これはこちらも頑張らなくては・・では、皆さん・・熱き魂で心から応援しましょう!』
『それでは・・バトル・スタートッ!!』
◆
ファァァァンッ!!
その、戦いの火蓋は轟音のサイレンと共に切って落とされた。
私は胸に宿る熱い魂を燃やして足を着実に一歩一歩前進させる。
走らせろ、怒りの熱き鼓動燃やして前進を穿つ敵の前に走らせるんだ。
「ハッ・・何をしてくるかと思えばただの前進・・これでは五分も私と戦えないな」
「『舞い降りるは孤高の花、一面に咲きほこる赤い花園中、ただ孤独に輝きを放てッ!』」
「(詠唱・・ッ?)」
走りながら、冷静に唱えるこの詠唱は魔導士の【召喚】や【魔法】と同じ。
私の場合は、戦う為の準備だ。
この詠唱を終えてからこそ、私は戦いを最大限に発揮できるッ!!
シュワァァァン・・
そう、両手で光り輝く粒子達を集め、それを形になるように持つ。
描き持つは【薙刀】ッ!
魔王様が唯一私に教えてくれたマナから作成する【武器召喚魔法】ッ!
創造し描いた武器をマナの力によって呼び出す。
ただし条件がある、それは自分が一度でも触れた物。
また、特殊所有物でない事、そして・・呼び出しに指定できるのは一つのみ。
それによって呼び出しのたがこの薙刀だッ!
きっと、控えのベンチから見ている魔王も感心してみていてくれている事だろう。
「魔王、突然現れたあの魔法・・あれ、貴方が教えたの?」
「当然だ、大分前に習得済みだ・・これから幾千の戦いを交えるアイツにとって一つ二つ覚えておいた方がいい魔法がある、そのうちの一つが今の武器召喚魔法」
「へぇ・・あんた意外に抜け目ないのね」
「けど、マオ、嬢ちゃんがその魔法を使えたところで・・」
「ああ、問題は・・そこからアイツがどう出るかによってさらに今後に影響する」
「・・巫女ちゃん」
心配の眼差し・・視線を感じる。
でも、大丈夫・・みんなに心配されるほど・・私も弱くはないッ!
それも今ここで証明するッ!
「ハァッ!【雷雲前破】ッッ!!」
シュバンッ!
大きく後ろに引いて前へ突き刺す雷光の一撃。
しかし、軽々と避ける金鵄、あの涼しい顔・・余裕って奴ね。
だけど、それで終わると思わないほうが良いッ!
「【爆熱刀】ッ!【氷華月】ッ!【風魔天翔】ッ!」
避けられても次の一打を次々と与えるだけだ。
爆発で加速させ、火炎の業火の様に切りかかる大技。
それが避けられても薙刀を生かして地面へ叩き、そこから滑らかに上空へと上がる。
そして、一つの氷柱の様に突き刺しに行く、月光を浴びた突きの攻撃。
そしてさらにそれが避けられても砂煙を上げ、見えなくなったところをすさず。
薙刀を回転させ振り払い飛び上がりそのまま切りかかる技。
これが私の考えた【3属性・3段技】ッ!
まあ、全部避けられているんだけど・・今はいい。
私がただ無我夢中に攻撃していると思われればそれで良い。
「・・それで終わりか、雑魚」
「言ってなさい・・今に分かる事だから・・」
「(構えが変わった・・?)」
鋭く体の姿勢を槍の様に構え、左手で持ち手をしっかりと持ち。
右手の人差し指と中指で刃に添える。
この構えこそ【撫子五段突き】の構えだ。
本来なら隙が大きいから対人戦に使える技じゃないけど。
相手が慢心している時は別だ、不意打ちに決めて一勝を勝ち取る。
勝負は一瞬、目を研ぎらせて今放てッ!
これが私の必殺の一撃ッ!!
「くらえッ!【撫子五段突き】ィィィィィッ!!」
シュパァァァンッ!!
右足で大地を蹴ってそのまま薙刀を突き刺しに果敢に攻める。
これでもらった、私の勝利だッ!
「やはり・・若いな」
ガッッ!!
私が勝利を確信して攻めたその瞬間だ。
止まったのだ、その攻撃はなんと金鵄の人差し指一つで攻撃が止まったのだ。
あまりにも残酷なまでの現実、力の差が歴然としてしまった瞬間。
これが、歴史を築いて来た彼の強さだと言う事に、改めて気づいてしまった。
何故私は何一つ警戒せずこの技を放ってしまったのか。
今更に後悔をしてしまっていた。
「そ・・そんな・・」
「やはり・・雑魚だな・・貴様は私の挑発にすんなりとかかり、あっさりと思惑通りに事を進めてしまう・・実に単純かつ実に・・単細胞・・この俺を倒す事ができない理由の一つだ」
まだだ・・ッ!
まだ間に合う・・ッ!
私はこんなところで終わりたくない・・こんな・・ところでッ!!
必死にもがきあがく様に薙刀を力強く動かそうとする。
しかし薙刀はピクリとも動かない。
それどころか、私の手ですらぴったりひっつく様に取れない。
接着剤でも付けられてしまったかのようだ。
一体、この状況は・・ッ!?
「やめておけ・・いくら足掻いてもお前の結末は変わらない・・今薙刀が動かないのは【魔術拳】の1つ【固空】だ、調節が難しく、ツボを外せば自分が死ぬだけの高難易度な奥義だが・・習得してしまえば大した難しさはない、それにお前の様に武器を武器して扱う者にこそこの奥義・・我が能力はハメやすい」
「能力ッ?!いつ能力を発動したというんですかッ?!」
「今、この瞬間だ・・手を良く見ろ」
「‥ッ!?これは・・【泡】ッ?!」
「そう・・これこそ・・我が能力【自在泡】だ、単純に泡を操る能力だが・・我が魔術と合わせればその使い方は無限大・・貴様も私の合わせ技にかかったのだよ」
「ッ?!まさか・・その泡を通して【固空】が発動したと言うんですかッ?!」
「その通りだ・・察しが良くて助かるよ・・実にね」
してやられたッ!!
さっきの煽りもわざとかッ!!
私があれで怒ると言うを自然に分かっておいての・・作戦ッ!
うかつだった・・どうしていつもそうやって・・私は・・ッ!
なんで・・なんで・・ッ!
「(すぐに騙されちゃうかなぁァァァッ!!)クッソォォオッ!!」
「どんなに頑張っても・・動かないぞッ!雑魚巫女がァァァッ!!」
「ヴァ゛ッ!!!」
薙刀に掴み止められていた私はいともたやすく金鵄さんの蹴りに命中する。
あんなにも瞬間的に体を動かしてこちらの喉に蹴りを入れるなんて。
足先を勢いよく蹴れるのは日ごろそういう戦いを訓練しているからだろう。
だから、こんなにも強いんだろう。
経験の差が、身に染みて分かる、地面に叩き付けながら転がり行く私は。
心の中でそう思い、深い・・悲しみを抱いた。
「ふぅ・・・クッ‥はッ‥ッ!!まだだ・・ッ!」
「ほう・・」
悲しみは確かに抱いた。
苦しみもまだある、痛みさえも消えたわけじゃない。
だからと言って・・今ここで怖いから逃げるなんて真似できるかッ!!
さっき散々諦め絶望したのだから、今ここで・・弱音は吐かない。
地面にその足を立たせろ、力ある限り拳に力を入れろ。
女だからって泣いて逃げる事が許されてたまるかッ!
「勝負・・まだ・・ッ!ぐはっッ!!」
「その七転び八起きの精神・・確かに恐縮、しかしお前は弱い・・どんなに弱気者が」
「グベハァッ!!」
「何度立ち上がろうと・・ッ!」
「グッ‥ッ!グァァッ!!」
「結果は変わらんッ!運命は最初から決まっているッ!」
「運命なんて・・ドグァッ!!」
「もう一度言う・・弱者の行先は敗者のみだ」
「カハッ・・クぅ・・ッ!!」
ここまで何度も体中蹴られて正直痛い。
前進がビリビリする、たぶんこれも魔術の影響。
蹴られただけなのに皮膚が剥がれて血が流れて来てる。
それだけじゃない、吐血も始まっている。
これじゃあ体がもたない・・一刻も早く体制を・・ッ!
「薙刀・・・せめて・・薙刀を・・グァッッ!!」
薙刀に手を伸ばして取ろうとした時、体にその痛みの衝撃は走った。
そう、金鵄の鋭い蹴りである。
私は大きく転げ飛ばされて、また大きく重症を負ってしまう。
ああ、目の前が見えなくなって来た。
頭からも血が・・このままだと‥私・・。
「・・敗者どころかゴミムシ同然となったな・・この期に及んでまだ勝機があるとでも思っているのか?ありえん、貴様が私に勝つなど百年早い」
「そんな・・のッ!!カハッ・・」
「今のうちにリタイアしてとっと里へ帰れ、貴様には戦いなど向いてない」
「ハァ・・ハァ・・やってみなきゃ・・ッ!!グハッ・・ツ!!」
「・・口で言ってわからんようなら・・体に聞かせるとしよう」
分かるわけがあるまい。
私は馬鹿だから、諦めがわるいから。
知っている、自分が弱いことも無能でなんの役にも立たないゴミムシなのも。
全部自分が良く知っている。
だから、せめて・・無能なりに・・生き恥じ晒してでも・・・ッ!
ズシャァァァッ!
体に重く感じるその瞬間的一撃。
それは、私が召喚した薙刀が私の体に刺さった音。
薙刀が、肩を貫いた衝撃だった。
ただ、私はその薙刀に押される様に金鵄から遠ざかる。
金鵄に投げられた薙刀によって私は遠く遠くへと飛ばされたのだった。
ドゴォォォオッ!!
気づいた時には目の前が真っ暗になって壁にめり込んでいた。
私が最後に見た時には、折れた薙刀の持ち手。
そして、遠くには涼やかな顔でこちらを見ていた金鵄の姿だった。
「(ああ・・あんなにも・・私と・・金鵄さんでは・・遠い・・存在・・なんだね)」
ゆっくりと私は目をつぶった。
敵うはずもない相手をこの目で確かめた時。
私の戦いの魂は・・燃え尽きてしまうのだった。
◆
「魔王ッ!巫女ちゃんが・・ッ!巫女ちゃんが!」
「そうだな、状況は最悪だ」
「何言ってんのよッ!まさかあんた・・この状況でまだ戦えると思っているのッ?!」
「そうだが?」
「馬鹿じゃないのッ!?馬鹿ね!大馬鹿魔王ッ!どのみち無理よッ!大会ルールに則って【10秒動かなかった選手は敗北】ッ!巫女ちゃんはもう動かないのッ!」
「果たして本当に動かないのか?」
「ハァっ!?あんた最低ね・・今の戦い見てれば一目瞭然・・ッ?!」
「・・もう一度問う・・桃野郎、アイツは本当に・・もう動けないか?」
「桃子ちゃんよ、言いてことは分かるよ?けどな・・アイツは俺っちの目が黒いうちはな・・何があっても止まらねぇよ・・絶対にな」
「嘘・・でしょ!?」
「嘘じゃないさ・・巫女は今・・立っているッ!」
「なんで・・なんでよ・・あんなに血を吐いたじゃない・・傷も負ったじゃない・・ッ!なのになんで・・まだ立ち上がれるのよッ!」
「決まっている・・一度決めた戦いの覚悟は根本がある限り何度でも蘇る」
「そして、それを支える者がいる限り根元が滅んでも芯を支えて立ち上がる」
「あいつは一人で戦っているんじゃない、アイツの中にはな・・いるんだよ俺達が・・ッ!」
「そ、それじゃあ・・ずっと私達を心の支えに?戦いの覚悟に?」
「仲間の思いの強さだけならアイツは最強だ、そしてその強さは戦いに影響する・・」
「あえて言う、【巫女と俺達の思いは2度と断ち切れぬ】とな」
「だから、お前も巫女を信じろッ!桃子ッ!」
「・・・うん、わかったよ・・信じるよ・・信じさせろよ・・馬鹿共‥畜生・・ッ!」
「それでいい・・信じてやれ・・愛された分だけ・・あとで愛せばいい」
◆
「ば、馬鹿な・・戦う意思は完全に途絶えたはず・・力ももう無くなったはずだろッ!」
私は今、意識が薄い中、戦地の大地に立っている。
理由は分からない、けれども薄れゆく意識の中、私の中の誰かに言われた気がした。
「立て、そして戦え、命あるかぎり、その魂燃え尽きぬ限り、立ち上がって戦え」
それは気がしただけだから実際に言われたかなんてわからない。
けれども私はその言葉を信じて立つことができた。
ボロボロの体に鞭を打って立ち上がる事ができた。
こんな弱い自分の体をまた立たせる事ができた。
だから、できるだけの力を・・振り絞るだけだ。
「グッ!だが、立ち上がったのならやる事は変わらないッ!もう一度ノックアウトしてやるッ!」
「(来るッ!!)」
私の戦闘意識は完全に途絶えていたと思われていた。
しかし無我夢中に思考は光の様に流れた。
体は自然に動いた、肉体は痛みを知らず両手で落ちた薙刀を手に取った。
刃は無いけれど、たとえこの棒だけでも武器として扱ってみせるッ!
「シャァァァッ!」
「こざかしいッ!ただ前に突き刺すだけの突進に意味など無いッ!」
ズドォォォンッ!
私の必死の突きは金鵄のいう通りまたしても指で止められた。
今度は真っすぐに突いた薙刀の棒が止められた。
「ハハハハッ!何度やっても同じ事ッ!」
「ウォォォッラァァァァッ!!!」
有無を言わさないその一瞬だ。
私は泡が完全に染み渡る前に薙刀を離して体を大きく屈ませ燕の様に走った。
大地を蹴って素早く走る姿はさながら暗殺者の様に。
私はただ目の前の金鵄に向かって走ったのだ。
そしてグルリととびかかり止まった薙刀を踏み台にし。
その瞬間肩に突き刺さった刃を抜いた。
肩からは血がまた噴き出た、手からは肌が切れて血が流れ出る。
体が悲鳴をあげて痛みを伝える、だが私はそれを微動だに感じない。
今の私は神経全ての痛みを無視してただ相手を倒しに行く【狂戦士】ッ!!
みんなの為に、勝利を取るために・・私は戦うんだ、命あるかぎり・・戦えぇぇぇッ!!
「ヴオォォォォォォッ!!!」
ズザァァァァンッ!!
左手で振り下ろしたその血まみれの一撃は金鵄の体に傷を大きく付けた。
これは私が初めてもぎ取った一撃だ。
できる手段全てを使って初めて取った、最大の一撃だッ!
「グォァァァァッ!こ・・この娘ェ・・ッ!!」
「ハァ・・・ハァ・・ハァ・・」
流石の金鵄も一たまりもあるまい。
体に斜めに大きな傷を負わせたんだ。
そうそう立っていられるはずがないんだ・・。
「(やった・・やったぞ・・金鵄に傷を負わせた・・でも・・)」
その時、今度こそ私はバタリとその場で倒れた。
そう、燃え尽きたのだ。
力を出し切った、もう立てる力も無かった。
その時、薄れゆく意識中で、私はただ心の中でこう思った。
それはとてつもない悔しさ、意識が無くも流した涙の悲しみだった。
「(・・勝ち・・たかった・・な・・)」
私はそれを最後に、この試合は目覚める事はなかった。
そして、深い深い眠りについたのだった。
◆
『し、試合終了ッ!勝者ッ!神風寺金鵄ッ!』
「・・完全に眠ったか・・だが死んではない・・私に傷を当てた事を褒めてやる・・そしてこれは俺からの最大の敬意だ・・認めよう・・お前と言う存在・・お前と言う脅威・・出雲翡翠・・次会う時は傷一つ付けさせん」
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