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無限空想世界の幻想的な物語  作者: 幻想卿ユバール
外伝その3
121/150

無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章16  「巫女と初戦」


今、私は今世紀最大の大いなる絶望の前に立っているかもしれない。

何故、何故神様は私を見放してしまったかのようにこのような残酷な事をしてしまう。


「怪我が治って動けるなーって思ってみんなと合流できし、みんなからも慰めてもらって少し元気が出て来て多少なりともこんな事は覚悟していたよ・・けどさ・・そんなのって・・そんなのってあんまりなんだよッ!!!」


「落ち着け巫女ォ、周りの観客に誤解招かれるぞ」


魔王様が落ち着けっていうのもごもっともだが落ち着いてられるかッ!

トーナメント初戦の相手があの金鵄チームならもっともの反応だと思うよ。

私は別に怖いとかそういうわけではない、いきなり荷が重いんです。

負ける云々の事は考えてないにしろ、確実に無茶して戦わなければならない。

そうなるとまたみんなになんて言われるか・・。


「うう・・左腕失うくらいなら・・」


「(巫女ちゃん、段々欠損に対する価値観が変わっている?)」


『なお、第一回戦の試合形式は【ツーマッチ制バトル】になります!各チーム代表格三人を選び、先に二勝した方が勝ちとなります!』


『ちなみに一勝一敗一引き分けなど奇怪な数値が出た場合は四人目の出場となりますので、その辺はご了承ください』


『それでは、第一回戦Aブロック第一試合の出場者はどうぞ下の決闘場までお越しください!』


「・・どうしましょうか」


「とりあえず出場するしかあるまい・・しかし三人に絞れという事だが」


「私、魔王、ガッツ君で良くない?巫女ちゃんさっきからこの調子でアワアワしているじゃない・・なのに出場できるとは到底思えないわ・・それにさっき予選で奮闘したにも関わらずここで連続的に出るなんてより可哀想よ」


やっぱりみんな私の事を気遣ってしまうんだよね。

そりゃあそうだ、勝利の為に体張ってあんな無茶するんだから。

でも、そうでもしないと・・追いつけないと思ったんだ。

みんなに言えない事だけど私はきっと【経験がないから弱い】。

だから今ここで色んな事を経験したいんだ。

敗北も勝利も、努力して強くなって行ける事を経験したい。

迷惑なのも不安なのもわかる、けれども甘やかされて育った分そうしたい。

巫女になってきっと一番困ることは自分の身を守れない事だ。

そして自分の身を守れないことはみんなを守れない事。

たとえみんなが守れたとしても自分が守れるとは限らない。

だからあえて一番手の届く【自分】から守っていくしかない。

自分勝手、わがまま、甘えとも言われてもいい、それでも今はそこから変えて行くんだ。


だから、今は言わなきゃ、遠回しでもいい。

自分を変えたいと言う思いを、強引にでもいい、絶対出てやるッ!


「わ、私出た・・」


「いや、巫女、桃子、ガッツの順番で行く」


「へッ!?」


私が胸を握りしめて苦しくなる痛みを必死に抑え。

喉から戦いたい思いを伝えようとしたその時だ。

魔王様が私の何かを察した様に突然言い出した。

それは、きっと伝わったんじゃない。

最初からバレていたような気がしていたんだ。


「・・どうせ、何度言ってもお前は出たいと言うだろう、なんらここで止める方が可哀想だろう、戦いの意思を持った人間をそう簡単に止めれる事なんぞ不可能に等しい、諦めてお前ら三人で勝利を掴め、そして巫女と桃子の二回戦でフルボッコにしてやれ」


「魔王様・・ッ!!」


「ハァ・・あんたもずいぶん・・馬鹿な人ね、判断としては貴方は間違ってない、けど正解でもない、正直私にも未熟者をどうこうしろなんて分かんないわ、けど、歴戦を超えた貴方が言うなら・・納得するわ」


「俺っちもそれに賛同する、正直負けたところで二戦俺っち達で勝てばいいだけだ、負けても気にすんな、そして勝ちたいなら無茶すればいい」


「皆さん・・」


本当ならここで心からありがとうって言いたい。

けど今は止めておこう、きっとこのありがとうは勝った時本当に言える。

だから、今はみんなの思いに全力で答えられよう。

私はこの言葉を贈るんだ。


「全力出して必ず勝利しますッ!!」


その場にいた全員が納得してくれる言葉だった。

三人から信頼の眼差しで私を送り出してくれたんだ。

必ず、絶対に負けてなるものか。

この熱い闘士を胸に抱きながら私は前へ一歩一歩。

闘技場へと前進するのだった。


 ◆


「ウッサーッ!」


「・・因幡、もういいだろう、今は試合に向けて・・」


「ならんウサッ!できんウサ!不条理ウサーッ!!」


「ハァ・・どうしてこうも・・」


時は試合開始前の話、金鵄の所ではあの因幡がもだえていた。

なにをそんなに頭をワシャワシャとする必要があるのだろうか。


「クッ・・グッソーッ!!おい!軍服野郎ッ!」


「・・俺?」


なんだろう、頭を抱えてずいぶんなイラ立ちを見せる因幡。

いきなりこちらに話しかけて来たではないか。


「なんで一回戦の相手がお前じゃないんだウサよッ!よりにもよってDブロック二試合目って・・お前と当たるのにどれだけ待たなければならないんだウッサーッ!!」


「ああ・・なるほど、それで貴様はそんなにギクシャクしていたのだな・・しかしアレは運営がやったもので我は全然関係ないのだが・・」


「黙れウサ!雑魚に・・いや、今はお前の事を覚えてやるウサ!名前は?!」


「・・夜桜・・秋斗です」


「よし、夜桜に人権無しッ!てめぇが精々途中でくたばらない事を祈ってやるぜバーカッ!!」


「お、おい因幡ッ!!す、すまない・・後でキチンと謝罪させる・・待て因幡ッ!!」


「(忙しい連中だな・・)」


あの因幡とか言ってた兎耳の少女、どうしてあそこまで俺に怒る。

なにかしただろうか?


「珍しいわね、秋斗が睨まれるなんて」


「ああ、霖雨様・・別になにかしたわけではないのですが・・一体何が気に食わないのでしょう・・」


「(予選で三位狙いでいそいそと登っていた因幡ちゃんをギリギリで追い抜いたから・・それで怒られるてる・・いや、ライバル意識持っちゃったんでしょうね~可愛いわ~)」


「霖雨様?」


「いえ、なんでもないのよ・・ふふ」


「?」


霖雨様が不思議な感じを醸し出しているが・・気にしないでいいか。

今はとりあえずこのチームで試合に成果を出す事をめざそう。


「なあ、試合はまだか?暇だぜ」


「これ、鏡子・・そんなに焦ることはない、今はじっくり時を待つのです」


「へいへい・・なんでお前はそんな落ち着いてんだよ?」


「・・こうでもしないとなんだか自分と言うのが段々失われそうで・・」


「あらあら・・」


「(本当に大丈夫だろうか・・このメンバー・・)霖雨様・・」


「なにかしら?」


今さらだが、本当に気になった事を今更ながら聞いてみよう。

きっと、ろくな答えは出無さそうだが・・。


「何故・・このメンバーで出場を望まれたのですか?」


「・・それはね、このメンバーの方が面白いかな~っと思ったの!」


「おう・・流石霖雨様です」


そんな微笑みで答えられてもごまかしきれてませんよ。

きっと他にも理由はあるとは思うが・・今は触れないでおこう。

今は、来るべき時に備えて・・待つだけだ。


 ◆


『さあ、待ちに待った第一回戦第一試合・・選手の紹介です!』


『まずは左の控えにいるのが巫女チーム「一番手:出雲翡翠」「二番手:天竜川桃子」「三番手:ガッツ」と、まさかの巫女様の二連続出場です』


『チームリーダーでありながら連続出場、体の安否が心配ですがきっと彼女は無事回復したと信じましょう!では次!』


『続いて、金鵄チーム・・「一番手:神風寺金鵄」「二番手:リュウナ」「三番手:牛黄ガロン」と言うメンツになっております』


『おっと、こちらは因幡宇佐丸選手は控えに回っているんですね、代わりにフル投入の一戦目からリーダー格が出場します!しかも巫女チームも一戦目からリーダー格の巫女様!これは盛り上がってまいりました!』


『選手からも気合の入りっぷりが伝わってきますね、いやーますます楽しみです』


『はい!こちらも楽しみです!では、さっそくそれぞれの一番手さんに登場してもらいましょう!どうぞー!!』


胸の鼓動の高鳴りが止まない、それどころかどんどん激しくなる。

きっと、緊張している。

こんな状況だから仕方がないとはいえ、このままでは周りの熱に圧迫されそうだ。

今はこの緊張を抑えて、試合開始前の線まで歩かなければ。

目の前からはもう金鵄さんがそこまで来ている。

全力を出していかないときっと手も足も出ずに終わる。

それだけは回避しなければなるまい、絶対に・・。


「・・よし、やるぞ」


「気合の入り方だけは十分だな」


「金鵄さんこそ・・ずいぶん余裕そうですね」


「もちろんだとも、俺はいつも余裕だ」


慢心している、そりゃあそうか。

でも、その慢心が命取りになる事を金鵄さんに教えてやる。

その前にもうすぐ試合が始まるのだから、この少し遠い距離からも聞いておこう。


「金鵄さん・・覚えてますか?私の名前」


「覚えているわけなかろう・・雑魚の名前など一々覚える必要がない」


「はは・・だろうね・・そうだと思ったよ」


ちょっぴり、心の中の心境は複雑だ。

笑ってごまかしたけど内心ズキズキと痛み軋み始める。

その痛みを抑え込むように、誰にも悟られぬ様に私は左手をギュっと力一杯。

悲しみも悔しさも全部そこに当てる様に全部、当て続ければ・・。


「うすら笑いが多いなお前は」


「ッ?!」


「感情が表に出すぎだ、それではいくら奥底に考えを隠したところで騙せるのはよっぽどの馬鹿か、あるいは弱者、強者に感情を隠すならもっと徹底してやるべきだな」


き、気づかれた?

そんなはずはない、今、私は一度も怒りの感情をあらわにした覚えもない。

殺気だって出した覚えもない、なのに・・なんで。


「なんで?と言う顔だな・・教えてやる、人の感情は顔だけではない、それは手、足、体、あらゆる全体を見て異変があった時推測が始まる、そしてその左手を後ろに隠した時もう俺には詠めた・・貴様は怒りをあらわにしていると」


「(鋭い・・と言うより私が分かりやすすぎた・・か)」


「ある意味ではお前は間違ってはない・・貴様は正直に生き、誰も騙さず、ただひたすらに真実をうのみにするほどの女だ・・だが、それは時に死を味わう事になる」


「誰かを信じ、その思いに答えてはいけないとでも言っているつもりですか?」


「その通りだ、まさしくその通り、今この場に立っている理由も多かれ少なかれ仲間の為だやれ、自分の為だと言って戦地へ赴く、一度は貴様は断られた事だろう、だが仲間がそれを許した、貴様はなんの疑いも無くな」


「どういう意味ですか?貴方は先ほどから何をおっしゃっているんですか?」


「まだ、分からないのか?」


なんだろう、この人・・喋れば喋るほど苦手になりそう。

最初はどうって事無かったけど、まるで・・人の心を詠んでいるかのような。


「貴様は捨て駒にされたんだよ、雑魚に居場所などあるものか・・精々我々の玩具として働けと・・貴様はいたぶられる姿を喜ばれているだけだ、アメと鞭・・負けたら甘えを与え、負けたら甘えを与え・・そうやって貴様は不の煉獄に遣ってるんだよッ!マヌケッ!」


「・・・ッ」


今、この瞬間だ。

私は確信した、心が一瞬で震えた。

傷なんて一つも開かなかった、それなのに体中は痛く傷ついた。

心から血が流れた、今、私には凶器が刺さった。

狂い走り切り裂かれた恐怖のナイフ、それは・・私に刺さった。

私の心はぐちゃぐちゃだ、もう今どう感情を整理すればいいのか分からない。

闇に呑まれ、血に呑まれた私の心は制御なんか効かない。

ただ、一点これだけを考えればいい。


「・・さない」


「ああ?聞こえないぞ?もっとでかい声で言ったらどうだ!?」


「ゆる・・さないッ!許さなぁァァァァイッ!!」


「クッは・・それでいい・・そう来るんだよッ!雑魚巫女ガァッ!!」


この試合が始まる数分の間だけで私とアイツの仲は最悪で険悪なムードになったのだ。

私はこの時、仲間をただ馬鹿にされた事に腹を立てていた。

私は許せなかった、自分の大事に思ってきた仲間があんな風に言われる事が。

自分が信頼してきた仲間が、こんなに馬鹿にされる事が。

だから絶対に謝罪させてやると、私の身勝手な思いだけどそういう風に思い。

私はただまっすぐ目の前の金鵄さんに向かって走って行ったのだ。


だけど、それが間違いだったのかしれない。

全ては、作戦通りだったのかもしれない。

ここまでの展開も、何かもが私をこう行動させるための罠だったこと。

それに気づく事になるのは、先の話である。

この時の私はただ熱くなりすぎてしまった、ただの馬鹿であったために。

私はより大きい失態を起こすことになったのだった。


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