無限空想世界の幻想的な物語~外伝~ 魔章15 「それぞれの意思」
「最大級のネタ話だがよ、お前と俺らのチームのメンツの能力を互いに公開することだ」
「ヴェッ!?」
あれほどまでに男気溢れるサギーさんから出た一言はあまりにも衝撃的な言葉。
無茶すぎる話の要求であった。
サギーさんはネタでその話をしに来ているのか?
それともガチで教えてほしいから来たのか?
分らん、まったく話の意図が理解できない。
「ちなみに最初に言っておくと俺の能力は【再抽選】だ」
「(あ、これ断れない奴だ・・まあ、いいやもう)リセットですか?」
「おう、お前は仕込まれた賭けをどう思う?」
「どうって・・そんなの卑怯だし、なにより胸糞悪いです」
「だろう?今の世の中可愛い女の子がきったねえおっさんにレイプされんのが当たり前の様な世界、人の弱みを握って体を売る少女を利用する悪党、そんな奴らの好き勝手にさせていいものか、いやダメだ」
確かにそういった奴らをのさばらせるだけでも吐き気がする。
同じ生命体なのにここまで知能の差があるなんてと思うとつらい。
見ても聞いても反吐が出そう連中だ。
「そんな時、正義のヒーローでもいてくれたらな~っと思ってまず最初に俺が正義のヒーローになってみるわけよ、ところがな、いくらそんな奴ら制裁しても無駄だったのよ」
「な、何故ですか?」
「【やってることは変わらないから】だ、確かに生きててダメな奴は全員しばくか殺すかは考えた方がいいかもしれない、けどな、そんな権限もとより人にはない、大事な奴が傷つけられた時、【大人しくしていろ】ってのが悲しいが一番の正解だ」
確かに、今思えばそう思う。
俺も何度かそんな事を言われた気がする。
その一度の憎悪に捕らわれて人を殺し、過ちを犯せば楽にはなるだろう。
けれども、そこから生まれて来るモノは・・。
「殺しても、殴っても・・生まれるのは【憎しみと悲しみ】」
「そう、相手を憎んで生きるってのはそういう事だ、悪の軍全と思って正義のヒーローが戦うのはそういう事だ、【アイツは悪い事をした】から【殺されるべき】なんて考え方がそもそも間違いなんだ、戦争や決闘で命が奪われる事はしかたがないそれも戦いだ」
「・・はい」
「重要なのは【殺すに値するか】だ、レイプされたにしろ、殴られたにしろ、横暴身勝手にやったにしろ、そいつは本当にお前が裁くべき人間なのか?人間が人間を裁いた時、あるいは生命が生命を裁いた時、【そいつは生命を止めた】も同然だ、ただの化け物だ」
その通りだ、まったくもってその通りだ。
力からは何も生まれなかった、ただひたすらの悲しみと憎しみ。
もっとより制裁したいなどという欲求も生まれたかもしれない。
「俺は命を奪われたより【大切なモノ】を亡くされた時の方が【殺す値】だ、そいつが本当に本当に憎くて、本当に殺したい相手だった時こそ、【自分が悪魔になる】瞬間だ」
「けれども・・それも」
「そう、【生命を辞める】事に等しい、結局は同じだ、人は正義の味方になれない、永遠にな、正義の味方ってのは楽しい者なんかじゃ決してない、ただ悲しく、ただ孤立して、永遠に自分の為に生きていかなきゃならない、正義のヒーローってのはそういう事だ」
「それでも、生きる覚悟がある人が正義のヒーローになるんですね」
「ああ、まあそんな奴は滅多にいないがな・・で、前置きが長くなったが、つもるところ俺の能力はそういった【決められた運命】を【可能性の限り再抽選】する能力だ、レイプされかけた女がそこからの運命を変更する、しかし悪魔で可能性の限りでしか使えないのが難点だ、もしかしたら変えられないかもしれないし、もしかしたらよりひどい運命になるかもしれない、しかも・・この能力は一度再抽選した運命に対して使えない」
「なんだかトリッキーですね」
「そうだろう?まあ、この能力で負けた事ねぇけどな」
「え、そうなんですか?意外です・・」
てっきり敗北が重なっているのかと思ったけど。
案外勝率の方が多かったのか。
「俺は能力を愛している、能力ってのは同じ生き物みてぇなものだ、言わば家族同然だ、身に着いた能力は死ぬまで愛してやる事だ、そいつを信じろ、共に肩を並べて戦える唯一の理解者かもしれないぞ」
「・・なるほど」
「ちなみにワタシは【神獣】体全体をフルに強化してこの世の生きる者生きていない者に関わらずぶちのめす能力」
「この私は【柔軟】ッ!触れた者をブヨブヨさせたり、ふよふよさせたりできるッ!すぱらしい能力だッ!」
「リンドヴルムは【色彩火炎】、色によって属性の異なる炎を操る能力だ、赤は炎、青は水、黄色は電気、緑は風、黒は闇、白は光、それぞれ異なる炎を操る、要するにただの火じゃねぇんだ、水の炎は本物の水の様に冷たく水の効果を持つ、他もそんな感じだな」
「皆さん個性的な脳力の持ち主なんですね・・」
「ああ、俺はどの能力も気に入ってるぜ、戦況に応じて使いどころがあるからな、っでそっちの能力はなんだ?」
そうか、教えてもらったから当然教え返すのが礼儀だな。
ここで断るわけにはいかないが、一様彼女たちに許可を取っておこうかな。
「みんな、サギーさん達に能力を教えてもいいかい?」
「私は構いませんよッ!ジン様の仰せのままに!」
「ジンお兄ちゃんの好きにして構わないよ?」
「貴方のお好きな様に」
「・・ではまあ、一様言っておきますと・・僕自身の能力は【血の創作】です、兄は血を取り力としてきました、僕は反対的に【血を使い】相手と戦います」
この能力を語るのは久々だ、サギーさんの様な聡明な方でないと。
滅多に語る機会はないだろう。
今はその多くを語らなくてはなるまい。
「まあ、具体例として挙げるなら・・ここに一本の針がありますね?これを僕の指に刺します、すると血が出るじゃないですか?」
「ああ、確かに」
「まあ、後は見ててください」
「うむ」
そういって僕は座っていたソファーから立ち上がり。
ポタポタと流れ出る指の血を出しつつも。
なるべく広い場所へと移る、と言ってもソファーから立ち上がり横に出ただけだが。
僕の手を伸ばして誰もぶつからない位置に着いて、僕は目を閉じて心に念じる。
「優雅に舞い、踊れ、月光の光を浴びて十二時の鐘を鳴らせ、【紅の舞踏会】ッ!」
そして、そのまま手の平を瞬間的にシュッ!シュッと横へ上と手をくねらせる。
そこから出る技はまさしく繊細な糸を操るような技。
指から流れていた血は糸へと変わり、だんだん一本の長い糸へと変わる。
いつのまにか見とれてしまうほどの赤い糸がゆらりゆらりと完成した。
「・・っとこのような技です、戦う時は見えないくらい繊細な糸を五本の指から作り相手を罠にかけたりと、トリッキーなー戦法を使います」
「ほほう・・小僧も中々な脳力じゃねぇの」
「糸、意外は作れないのか?」
サギーさんが感心する中でその後ろから質問、あれはエルフのカムイさんか。
なにやら腕を組み不服そうな顔しているような。
「糸以外なら剣、またはナイフを・・しかし大量の血を必須とします」
「その血は必ず自分のみなのか?」
「いいえ、他人の血も原料にできます」
「ほう・・なるほどな」
こんなに教えて大丈夫だろうかとやや不安だが。
まあ、教えても勝てば問題はなかろう。
「えっと、他に質問が無ければ残りのメンバーも紹介します」
「おう、よろしく頼むわ」
「鈴蘭は【武神】です、いくつもの化身を体内に宿して、鈴蘭は戦闘時複数体も操って戦う事ができます」
「(鈴蘭・・?どっかで聞いた事あるような・・?ていうか凄い見た事あるような・・)」
「・・・?私の顔に何かついていますか?ガロウさん」
「いや・・鈴蘭殿とどこかでお会いした様な気がして・・」
「ええ?私は記憶にないですが・・」
「ふむ・・気のせいか・・」
鈴蘭と誰かを見間違いている?
いや、でも鈴蘭って結構裏の方では有名だったりする説あるからなー・・。
まあ、それは置いといて・・次だ次。
「メリルは・・能力は持ってません」
「ん?そうなのか?」
「うん、私に能力は無いの、今まではヴァレッタちゃんが私の体を使って発動していたみたいだけど・・私自身能力なんて大それたモノは・・」
「・・・なるほど、確かに嬢ちゃんか弱そうだもんな、しゃーねぇだろう・・んで他は?」
「メアの能力については・・こればっかりは俺自身分かってません・・メアが教えてくれないので・・」
「ああ・・そういえばそうでしたね・・私もこれ自体なんと言ったらいいか分からなくって」
「自分の能力が分からないか?」
「はい、サ・・サなんとかのモブさんのいう通りです」
サギーさんだよ、それくらい覚えてあげてよ。
なんで困っときは全部モブ呼びなんだよッ!
「サギーだ、ちなみに具体的な使い方は分かるのかい?」
「ええ、おそらく【圧縮】させる能力です、範囲は関係無し、この世の全てのモノを圧縮させることができます、時間、距離、あるいは空間に現れる世界や魔法さえも・・」
「となると・・考え着く答えとしては【万能圧縮】だな・・今、俺様が考えた名前だ、気に入らないなら捨てても構わないが、意味としては名前通りだ、目に見える見えないに限らず指定物全てを圧縮させる能力・・それは作られた世界、止まった時、作られた時間軸、平行世界、全てを圧縮する能力だな」
「うーん・・そうですね~・・今はその名前を借りさせていただきます」
「おう、気に入りはしなかったみてぇだが・・使えてもらってよかったぜ」
万能圧縮・・全てを圧縮させる能力か・・。
考えたくも無いが、それって僕ら生命も指定されたら圧縮させられるんだよな・・。
ある意味味方で良かったと思える能力だな。
「・・さて、これでお互いの能力が判明したわけだが・・なんかお前は質問あるか?」
「いえ、後は実戦で確かめます・・そちらは?」
「はは、俺がお前らから答えを聞かない様に・・俺ももとより答えは聞かない・・攻略法なんざ自分の手で編み出すもんだぜ」
「流石はサギーさんですね、なんだかそれでこそってのが伝わってきます」
「カッカッカッ・・だろうな!」
高笑い決め込むほどとても上機嫌になれる当たり本当に流石なところがあるな。
ともあれ、しゃべれば喋るほどとても喜作でいい人だな。
最初は鉄仮面被っている変態かと思ったが。
実際は見た目に反してとても我が道を行く、男気溢れるいい人だ。
能力もおそらく嘘偽りない、本当の能力だろう。
『ピンポンパンポーン・・ええこれより第一回戦のトーナメントが組まれました!選手の皆さんは一度、各部屋のモニターにご注目ください!観客席の方はそのままどぞー』
突然のアナウンス、そしてしっかりと聞こえたトーナメントの組み込み。
この言葉だけで、あのサギーさんは目で『ここからは意思を整えろ』と。
そんな風にアイコンタクトを取った後、モニターへと目を向ける。
流石だ、プロはああやって一瞬で気持ちを入れ替える事ができるんだ。
俺もそういう風なところを見習わないといけないな。
『さあ、お待たせしました!では一斉に・・ドドン!!!』
実況寺とかいう女の人の声と共にそのモニターからは。
十六組のカードがランダムにシャッフルされる。
一定時間経つと十六本の線のあるトーナメント表にカードが並ぶ。
そして、めくられたカードにはそれぞれのチーム名が書いてあるのだが。
当然、俺達の組のカードもそこには書かれてあった。
しかし、それはあまりにも驚きの展開だった。
「な・・ななッ!?」
「ほーう・・案外神のいたずらも面白い事するな」
「こ、これは夢か!?」
「い、いや・・ガロウ・・これは現実だ」
「こんなことって・・ジン様!?」
「あるんだね・・」
「ええ、まさか・・【第一回戦Bブロック第一試合の相手が「チーム暁」VS「チームサギー」】だなんて・・一体どんな神様のいたずらなのかしら」
そう、それはおそらくサギーさんの能力で意図的に作られたモノなんかではない。
正真正銘、これはまるで運命の神に遊ばれたように、その組み合わせはできたのだ。
◆
「・・なん・・だとッ?!」
「ま、魔王様・・このチームって・・」
「う、嘘だよね?」
「いや・・間違いねぇよ・・俺ら・・当たっちまったよ・・」
おそらくこの時、どこのチームも誰が相手かで盛り上がっている頃だろう。
それはトーナメント戦においては必然的に盛り上がる要素なるのだ。
当然の事だ、しかし・・世の中にはそんなに盛り上がってはおれず。
むしろ不安要素しかない組み合わせになる事だってある。
例えば私のチームの様に・・だ。
【第一回戦Aブロック第一試合「チーム巫女」VS「チーム金鵄」】
『初戦から金鵄のところかよぉォォォォォォッ!!』
「ぶえっくしょいッ!!(誰か俺の噂しているのか・・!?)」
各控室、選手たちはそれぞれ違う思いの中。
波乱のトーナメント第一回戦が幕を開けようとしていた。




