無限空想世界の幻想的な物語~真紅~ 第10話 「復讐の時来たれり」
人生において勝負とは何かと思った事はないか?
勝負、それは決闘、戦い、
肉と肉を削り合い、
血と血を流し尽くし、
脳を使い巧みに相手を攻める。
全てにおいて使える運命の言葉、
勝負とは常に始まる前から勝敗は分からない、
だからこそ人は誰かに勝負を挑む事ができる。
だが、最初から勝敗が決まっている勝負は誰も挑みはしない、
それを理解させる一つの方法、それは「生まれ」だ。
人生の勝ちか負けは生まれた時点で決まる。
そして俺は当然「勝ち組」だ。
血筋は最高の物を、家庭は荒れはしたが最高の環境下で育った。
脳も、力も、そしてこの世界の魔法さえも俺はありとあらゆる物を生まれた時から身に着けた。
そうして敵はどんどん遠くへと離れて行った。
いつしか俺の階段には誰一人として前を通る事も後ろを付いてくる事も無かった。
周りは「天才だ」「才能があった」などと言い、
言い訳を垂れて逃げる、あるいは諦める。
どうして力も脳もあるのに、そうやって諦めてしまうのか、
それは人の価値観と言うやつだ。
自分にとって目指していた存在や、
同じ舞台に立っていた者がある日突然天空へと上り詰める。
そうして人は「ああ、もうあんな遠くへ行っている、自分にはもう届かない」と諦める。
「いつまでも同じ事をしていてもつまらない、もう他に強い人がいる」と言って諦める。
そうして出た言葉は「同じ者なんだから、少しは同じ者らしくしろ」と言う、
「天才には理解できない、敗者の気持ちなんて」などと
いつもそうだ、君たちが頑張って上ったと言い張る一歩を、
俺が血の滲む努力の末に上り詰めた百歩と一緒にしようとする。
天才?才能がある?違う、どれもこれもつまらない回答だ。
何故、俺と君たちで差が開くか、どうして才能が無いか、答えは「努力をしない」からだ。
決して俺も才能に恵まれていたわけじゃない、
天才でもない、生まれた最初は「何も出来なかった」者の一人だ。
だが2歳の誕生日を迎えた時だ、僕は言葉を発する様になった。
それができた時はどれだけ感動しただろうか、
どれだけあの無垢な時でも喋れた事に感動を覚えたか、
兄は笑って俺を抱きしめてくれた。
母は俺に泣いて喜んでくれた。
父は祝福をあげてくれた。
世話係だった鈴蘭も馬鹿みたいに喜び泣いた。
その時得た愉悦は今でも忘れはしない、
それだけ2歳の俺がしゃべった事が凄いという事だ。
なら次に何をしたか、
そこからさらに上を目指した。
さらに愉悦を得る為にッ!
5歳には狩りの者としての才能が芽生えた。
7歳には最年少の魔力術上級者と国の誇り高き狩人としての称号を得た。
10歳以降は体が思うように動かせる様になり、
文系から体育のありとあらゆる事を身に着けた。
そこからもずっとずっと休まず日々全ての時間を「才能」に当てた。
遊ぶこともしなかった。
寝る時間さえも引き裂いた。
全ての時間を力を身に着ける時間として使った。
だが、その考えは自らを鍛えすぎるあまりにもむなしい末路だった。
15才の時にはもう、誰もいなかった。
いるのは適当な言葉を並べて鑑賞に浸る傍観者、
戦いは、いつしか身に着けすぎたこの「才能」によって、
闘える者はいなくなった。
確かに誇り高き名誉も、名声さえも手に入れた。
だが何かが足りない、思えばあの時の愉悦は誰かと競い合ってこそ嬉しかった物かもしれない、
1歳の頃、鈴蘭が兄が最初に喋ったのは「3歳」だと言った。
それは無垢な俺でも憧れを抱き、
兄よりも早くしゃべってみたいと赤ん坊の俺は脳で考えていた。
結果、努力の甲斐あって喋る事に成功、
その時は自覚は無かったが、
喋ろうと言う思いは確かに存在した。
ここから察するに思い返した。
5歳の狩りも兄と競い合って先に頂に上り詰めたからこそ嬉しかった。
7歳の称号は親友が同じく魔術を磨いていた者、狩人を目指していた者より早く手に入れたいと思い手に入れた者、
10歳以降も親友、ライバル、プロの方などを相手にして手に入れていた。
それが早くも尽きたせいで俺の愉悦感は検討むなしく終わったのだ。
何処を見渡しても階段1人登らない、
もう、この世に俺と登れる者が存在しなくなったのだ。
もう、誰一人も俺の相手はできない、
誰も俺に勝つことはできない、
誰もこの階段を上がる事ができない、
勝利の王としての引き換えに、
俺は孤独と言う物を手に入れてしまった。
◆
僕は凍りつく環境の中、ひどく冷静になれないほどの状況下にいる。
静まり返る女帝の間、
汚れ壊れ果てる王座、
長き戦いかはさておき俺はついにあの女帝追い詰めた。
辛く、厳しい戦闘だった。
体は奇跡的にもなんともないが、
お嬢様がいなかったら完全敗北も良い所だろう、
しかし、重要なのは僕が勝ったか負けたかではなく、
突如現れた僕の弟、ジンの異様な存在感だ。
いつもにこやかなで爽やかな笑顔だった弟が突如、
なにか闇と憎悪を抱えた凄まじく恐ろしい顔でこちらに駆けつけていた。
「ジン・・どうしてそんな怒りを露にした感じでここに来た?何があったかお兄ちゃんに話しなさい!」
「良いよ、話してあげる」
「あら、意外と素直」
「(こんな状況でもブレねぇな・・銀よ・・)」
「(銀に空気を読む事はできないの?)」
「(ポチには無理よね・・)」
何やらまたしても冷たい視線が飛び交うが、
僕はジンの話を聴くことにした。
「俺はね、全てを知っているんだよ、この館の家主が突如入れ替わった事件の真相も、あの人物が誰なのかも」
「そうなのかッ!?何故分かるんだッ!」
「それはあの日記と事件の情報全てを揃えて持ってきたからか?」
「そうだよ、ジャックさん、貴方に渡したアレはそういう意味です」
「ドユコト?ジャックさん?」
日記?事件?どういう事なんだ一体、
しかもジャックさんが関わっているとは何事・・、
「俺は大分前からここで執事してたのは知ってるだろ?その後ちょいと家主失踪事件の手がかり、この家主の正体を調べていてな、今年入ってジンが差し入れと言って渡したのがその関連の日記と事件記事だ」
なんという事だ、うちのジンはそんな事をしていたのか、
じゃあ、もしかしてここに来たのはその為なのか、
ますます謎めいた子なんですけどッ!
「そして、全ての証拠はどこにあってどこから取り出されたものなのか、それはあの懐かしき『血魔邸』の中、つまり僕らの生まれ育ったあの家で全て発見されたんだよ」
「なんですと・・!?」
「そう、兄さんは知らないかもしれないけど追い出された後もずっと父さんはいてね、新聞から古い日記を何から何まで奴は大事そうに保管していた、そして中身はなんと先代『エミリア・ウィルコンティ』の物じゃないかと』
『エミリア・ウィルコンティ・・』
一同が口にするほど驚愕の名前、
それは僕でも分かる驚きの名前、
ウィルコンティの苗字を持つ者、
この家の主は偽物だけではなく名前までもが偽りだったのか・・、
エミリア・ウィルコンティ・・、
「エミリア・・もしかして、ハーフエルf「それ以上言うといろんな人に怒られるから兄さん、黙ってッ」
「ごめんなさい」
驚きだ。
まさかまさかの同じ血の人間が犯人だなんて信じられるかッ!
でも、それが事実なら信じるしかないよな、
身内が・・犯人・・、
衝撃的で今理解するので精一杯だよ・・。
「さーて、真の名前が晒された気分はどうですか?エミリアばあさん」
「おのれッ・・小僧ッ!」
「そう怒るなよ~、せっかく若返った肌がしわくちゃになりますよ~」
「おのれぇぇぇええッ!」
「お~・・怖い怖い・・」
この恐怖の絵図はやばい、
憎悪と憎悪のぶつかり合い、
どちらも恨みを持ってここまで来た復讐者、
エミリアおばあちゃんが沢山の暴動を起こすから、
それに終止符を打つためにわざわざここまで来たのかジンよッ!
何も知らない僕だが要するに日記や記事にあれやこれや書いてあったんだろ!
それが怒りの火が着火してジンの血管がファイアーしたんだろッ!
良くわからないけど他国が地元をネット上で低評価出して他国の怒りに触れたとかかそういう、
ええーイめんどくさい!察せッ!
今は見た事もない弟の姿を見て驚くので精一杯なんだよッ!
僕達の所からもあの階段でのやり取りはこちらに良く響く、
まるで魔王だよッ!どっちが悪者かわからないよッ!
「ジンッ!憎悪に捕らわれんじゃねぇッ!」
「分かってるよ兄さん、憎んで人を殺しても何も解決にならない、憎んで誰かに同じ思いをさせても解決にならない、そんな事分かってる」
「なら良い、もうその辺にして降りて来い、ばあちゃんの処分はどうするかは今後兄弟で遺産相続並みの議論でもしながら考えよう」
「(銀がこの上無く錯乱してる・・)」
「(でもまだマシな方・・)」
「(ポチはこれ以上しゃべらない方が・・)」
ひたすらに冷たい視線を浴びてもう背中が冷たい、
冷え冷えですよ、ええ、
このままでは・・ますます僕の語源力が皆無となってしまう、
喋るの禁止になる前にさっさと弟を連れ戻さなくては・・、
それにしてもあいつ中々戻ってこないな、
ばあちゃんと何をしゃべっているんだ?
◆
哀れな物だ、こうも裁くべき相手が簡単に捕えられた。
そして目の前に俺を屈辱の眼で睨みつける。
当然の反応、当然の目だ、
そのぐらいしてもらわないと捕えた意味が無い、
兄さんが何をしたか分からないがそうとう弱まっている。
流石兄さんだ、
この裏切り者によって人生が大きく変わってしまった事に対してついに復讐の形を露にしたんだ。
兄さんはああは言ったが自分もなんだかんだ復讐をたくらんでいたんだ、
流石兄さん、流石だ、
兄弟で互いが同じ道を歩まぬ様に忠告もできる、
実にこの血にふさわしい兄だ。
兄さんはいつも俺には考えられない事をずっと考えていた。
俺とは全く違う方向を歩いていた。
兄さんはきっとあの事から逃げるように忘れようとしていたと誤解してしまった。
だが、心の奥底では誰にも悟られない様な計画を立てていたんだ、
その為には悟られない行動をする。
だからこそ兄さんはいつも自由に生きていたんだ、
いつでも俺は貴様を殺せると悟られぬように、
闘えないのはフェイク、
俺の知らないところではずっと誰よりも努力していたんだ、
俺と違って兄さんが努力して手に入れた力はさぞデカイはずだ、
そして愉悦感はさぞ美味しい物だったろう、
兄さんが努力して伝えてくれたこの運命、
この運命は無駄には出来ない、
無駄にしないためにもここで終止符を打たなければ、
だが聴くことは全部聴いといてやらなくてはな、
「・・所で最後に質問しておくが、エミリア様は・・」
「なんだッ・・質問されても答えはせんぞ・・」
「デビットについてどこまで繋がっている?」
「何故、奴の名を?」
「とぼけるなよ、デビット邸から見つかったと言う事はつまりお前は我が父と繋がっていたという事だ、すなわち風銀の殺し屋によって殺された母も父と結託して殺したと考えられる」
「・・・ッ!」
「だが、父は正確にはヴォルフの者、なんもつながりも無いあんたと協力するはずがない、そこで妻に見捨てられていた所を互いの目的を一致させることにより協力を承諾」
「だが、私は奴にこの日記と記事の全てを隠すとしても、一体奴と対等になる物があるのか?」
「・・・『固有空間』」
「ッ!?」
「やっぱりな、あの禍々しい杖はそういう事か、つもる所『冥府の杖』、ヴァンパイアの一族に伝わる最高の杖だ、あれは最後に選ばれたのがちょうどエミリアだ、母さんは受け継ぐ前に追い出したらしいからね」
「・・・そこまで知っていたのか?」
「ああ、復讐をする為だなんだって調べたさ、父を葬るためならその関係者全てを消し去ってやる」
「ふざけた真似を・・」
「ああ、ふざけてるさ、そして後はあんたに固有空間への入り口を教えてもらえれば俺の計画は成功に終わる、さあ、教えろ、どこにある?」
「言うとでも思ったか?貴様ごときに口を割ると思うなッ!馬鹿めッ!」
「あーそう、じゃあ・・死ねよ」
俺は腰にぶら下げていたナイフを取り出して、
大きく右手を振り上げる、
「あっ・・ああ!」
「もう用済みだ、あんたが割らなくても別に良い、割ったら命ぐらいなら見逃したかもしれないけど・・
まあ、別にどうでもいいや」
振り上げた右の手を思いっきり脳へと刺しに行く、
今までの恨みを混めて全力で突き刺しに行く、
さらばだ、裏切り者ッ!
とぅーびぃーこんてぃにゅー




