無限空想世界の幻想的な物語~悪夢~ 第18話 「ハート高鳴り舞い踊れ」
「・・なあ、ハート・・やる気は・・あるか?」
「あ、あります!ありまくりです!」
「そうか・・で、現在121戦中全勝なわけだが・・」
「きっと、まだ私ジョインしてないから・・ほら私まだAIが本気出してないだけで・・」
「AIも関係ないしお前はどれだけジョインジョインしようとも座っても勝てないわボケ!」
「ひ、ひどぅぃ・・」
開幕早々何故こんなカオスな会話が繰り広げられているか。
話せばあれから数時間、僕らは同じバトル形式で戦っていた最中だった。
何度も何度もやってもハートの本気が見れずじまいで。
ある意味では悪戦苦闘である。
僕やハートはいいかもしれないが、イマイチ盛り上がりに欠ける様だ。
特に見ている側であったニアが段々寂しそうにこちらを見始める。
「にゅ・・にゅぅ・・」
「(このままではニアを喜ばせる事は叶いそうにない・・それどころか悲しみの目だ)」
「に、ニアちゃん・・」
ハートが不安の表情でニアを見る。
そりゃあ期待をさせておいてあんな悲しみの目で見られた。
誰だってショックはあるだろうよ、ハートさんよ。
いつまでも四つん這いになってショックを受けている様ではな。
「そろそろ・・本気になってやってみる気はありますか?」
「ほ、本気だもん!いつの時も・・どんな時でも私は本気でやってるもん!」
立ち上がってこちらにその意思を見せるように力強く言う。
胸に手をグッと当てて覚悟を見せる。
「・・そこまで言うならあと1回・・同じ種目でやろう・・それでダメならニアと共にここを去る」
「うん、いいよ・・私が本気出したらすごいことを教えてあげるんだから!」
「まあ、精々・・デタラメエンターテイナーだけは・・やめてくれよ」
「もちろんですとも!」
大丈夫だろうか?
とても不安の募る中幕を開ける・・もはや何回目だっけ?
とりあえず数百回目のバトルショーである。
「くぅばーの・・3!」
「(クローバーの3・・アレか)」
「セイハァッ!」
シュバァッ!
研ぎ澄まされる黒の一線の針の様に素早く神速に加速しトランプを貫く。
ハートが腕を横に振り、それは目では捉えられないほどの振り。
だが、違う・・早ければ当たると言う物ではない。
バァァンッ!
僕はその針が放たれた後に冷静に空中のクローバーの3へと放つ。
僕はいつものように銃を構えて銃弾を放つ。
そして撃ち落としたトランプを静かに拾いに行く。
「ど・・どうして・・」
「決まっているだろ・・ハート・・意外性ならおそらく君に劣る物はないのだろう・・だがよく考えてみてよ・・がむしゃらにやって何もかもが上手く行くとおもうかい?」
「・・おもわないけど・・思った事・・そして発想できた事はすぐに行動に移すんだもん・・今までそれで上手く行ってたから・・」
「それは・・君だけならの話さ・・今回は君以外にも参加している者がいる・・参加者が一人しか見れないのなら・・最初から周りなんて見るなよ」
「あ・・・そ、そっか・・そうか!そういう事か!」
「?」
テンションが下がりきったと思ったら突然上がりだす。
一体なんだと言うんだ。
さきほどまで完全に論破されていて何も言えずじまいだったのに。
「私・・焦ってたんだ・・見てる人を楽しませなきゃって・・」
「・・ようやく気付いたか」
「うん!もう大丈夫・・本気の本気の・・さらに本気を見せてあげるよ!」
「よし・・じゃあ次・・ニア!」
「う・・にゅぃ!」
互いに定位置に付く、距離を取ってこの白い部屋の中。
覚悟を決める、もう迷いはない。
それはお互いに分かった事だ。
ニアの声と共にその真の戦いは始まった。
「すへーどの・・ひゃっく!!」
掛け声とともにトランプがばら撒かれた。
僕はばら撒かれたトランプに惑わされず開始数秒でジャックを見つけ出す。
「ジャックッ!そこかッ!!」
目を研ぎ澄まして銃を向ける。
だが、僕が引き金を引いて打ち当てようとしたその一瞬の差だった。
スパァンッ!
突如瞬間的に放たれた黒い一線の針。
ひらりゆらりと打ち抜かれたスペードのジャックが地上へと落ちる。
僕は突然の出来事で汗が出て目が見開いた。
この一瞬を見逃していなかったニアは歓喜していた。
静かに目をキラキラ輝かせ、先ほどまで悲しみに埋もれていたニアも。
この一瞬で心からドキドキとワクワクの楽しみの感情をよみがえらせた。
「・・スペードの・・ジャック・・もらったよ?」
「・・・ひゅぅ・・やるじゃん!」
「しゅ・・・しゅごぉぉぃ・・」
マジの目だ、まぎれもなくタダのキリッとした目ではない。
静かににやりとほくそ笑む様にトランプを叩き。
こちらにスペードのジャックを見せつけて振り返る。
「今のはマグレじゃない・・こっからはガチもガチ・・大ガチだよ!」
「ほぉ・・面白い・・んじゃあ・・次行こうじゃん!」
「うん・・でも次も・・私が取っちゃうけどねッ!」
「それはどうかな?ニアッ!頼むよ!」
「にゅい!ち・・ぢぎは・・7!くおーばーの・・なーな!!」
『(クローバーの7ッ!)』
シュパァンッ!カァァンッ!
ニアの声と共に再び始まる猛攻。
だが、それは一瞬にしてまたしても終わる。
しかし、終わったと思ったのは一瞬だけ。
なんと互いに投げられた瞬間場所を察知する。
しかし、投げたスピードも打ったスピードも同じ。
クローバーの7を直撃して2つの弾は相殺、カードに大穴を作った。
「・・引き分けか」
「そうだね・・私に追いつくなんて・・やるね・・」
「場数が違うんでね・・早さなら僕も負けてられんのよ」
「なるほど・・納得だよ!」
「ああ、ガンガン行こうぜ・・次の勝負へと!」
「ふああ・・ッ!!ふあいとも・・がんあれー!!」
僕は心の中でとても愉悦感でもはや自分が今この場で楽しんでいた。
久々のギリギリの駆け引き、一か八かの大勝負、負けるかもしれない緊張感。
このギャンブルの様な博打勝負に自らが楽しんでしまっていた。
ハートも気持ちは同じだったろう。
これこそ自分が追い求めるエンターテイナー道。
誰かを楽しませて、その中で自分さえも魅了されてしまうほどのショー。
もはや愉悦と愉楽で満たされた体は誰の手にも止められない。
本気になって遊んでしまっている自分を止められる者がいないと。
満足してしまっているのだ。
そんな二人の満足感をよそ眼にさらに満足してしまっている者がいた。
ニアだ、二人の晴れやかでそれでいて、こんなにも楽しそうにと。
自分の言った数字をただひたすらに当てるだけの簡単な遊びのはずなのに。
そこまで無邪気に取りに行けるかと、そんな自分にはない執念に歓喜していた。
いままさに白い部屋が自然と色鮮やかに彩られた世界へと変わった瞬間だ。
「はぁ・・はぁ・・互角の駆け引き・・互角の戦い・・これだよ・・こういうの待ってた!」
「ハァ・・ハァ・・だよね?運だけで乗り切ってた野郎にありがちな回答だ・・」
「うん・・はぁ・・でもそろそろ相打ちと相殺も飽きちゃったな・・そろそろ・・ラストだよ」
そうか、気づけばもう二対二の互角の戦い。
気づいてなかった自分だ、まさかもう二回も取っていたなんて。
一回目は覚えていたが二回目は無自覚、それほどまでに楽しんでいたのか。
だが、それもここまでとなると少し名残惜しいが。
遊びはいつかは終わってしまうものだ。
そしてもしそれが勝利した時最高の満足感の中、愉悦で満たされるだろう。
勝利に歓喜するニアを見る事も叶うだろう。
僕はその勝利の瞬間のイメージを捉えて、いま一度のこの瞬間に全てを賭けた。
「よし・・ラスト・・バトルッ!」
「うん・・望む・・ところ!」
「ひゃあ・・・ひ・・くよ!へー・・の!!はーとの・・」
そのニアの言葉が言い終わる瞬間にすでにトランプは投げられていた。
投げられるトランプの音を僕は聞き逃さなかった。
瞬間的に両者の体は声を聴いて目は空中に散らばるトランプを見ていた。
ニアの掛け声はまだ終わっていなかった。
まだこれから数字言うはずだったのに、両者の目も銃もトランプもまっすぐ。
たった一つの数字を描いていた赤い、あのハートのエースをめがけて放たれた。
シュパァンッ!
研ぎ澄まされた一瞬の出来事。
ニアの声はその一瞬を通ったトランプの風切りによってかき消される。
だが、ニアは目をつぶっていた目を開いた時。
キラキラの目を輝かせて目の前の床を見た。
そう、そこにはハートのエースが落ちいていた。
ただひっそりと一枚だけ、ハートのエースだけがニアの下に落ちいてた。
小さな小さな・・極小の穴をあけて・・夢を見ているかのような輝かしい目をした。
一人の少女の前に、一枚の夢を与えたトランプは落ちた。
「わぁ・・わぁぁぁぁ・・・ッ!!」
「私の・・勝ち・・だね!」
「・・負けた・・か・・」
パチンと僕に指を鳴らして勝利を宣言した瞬間だ。
僕は悔しい思いとやりきった体でバタリと床に倒れこむ。
僕は悔しい、だけどこの悔しさはある意味・・忘れたくない。
負けても次がある、負けたのなら次勝つための悔しさにすればいい。
次は負けないと、そう心に刻むのだった。
そんな悔しさを胸に抱いていた僕に誰かが近づいて来た、ニアだ。
ニアは近づいて手を伸ばしてこう言った。
「ぎぃ・・ん・・ああが・・と!」
「・・クスッ・・どういたしまして・・だな」
「う・・うにゅぃ!!」
差し出された手に答えるように僕も手を伸ばしてギュっと手を握る。
僕は勝負に負けたが、ニアを喜ばすことにはできただろうか。
しかし、最後に笑顔と夢を与えたのはハート。
ハートがいなければきっとここまで笑顔にはできなかった。
僕はハートに感謝しなければなと、心でそう思うのだった。
「・・さて、これで塔は終わりだよね?」
立ち上がり再びハートに話しかける。
ハートは嬉しそうに、満足そうにこちらに返した。
「うん!これで君の挑戦は全て終了・・たぶん団長ちゃんが上の方で待ってるよ!モニター越しで全て見ていただろうしね!」
「ああ・・やっぱり全部見られていたのね・・(たぶん黒ニアもだろう・・行くの怖いな・・)」
少し不安もあったが、僕は勇気を決めた。
とりあえずは前に進んでニアの下へと行かなければ。
僕は覚悟を決めたのだった。
「・・ねえ・・チャレンジャー・・」
「なんだい?」
「ありがとう・・君がいなければ・・きっと私たちは迷い続けていたかもしれない・・」
「・・そんな事・・ないさ・・君たちは常に夢を与えて夢をみさせる者・・僕がいなくても・・きっと悪夢から脱出していたさ」
「あえて・・控えめに言ってくれるんだね・・でも感謝の気持ちだけは・・受け取ってくれるよね?」
「ああ・・もちろんだとも!」
「うん!その笑顔・・忘れないぜ!・・チャレンジャー!」
ほどなくして敗北で終わった最後のショー。
だが終わってみればみんな笑顔、負けたのに楽しかった。
それは全ての者達が楽しめれるエンターテイナーショーだったからだろう。
僕は満足した表情で、最後の部屋を出ると同時に。
僕もこの愉悦を忘れない様に、ハートを見て振り返り。
笑顔で手を振って挨拶をした。
「じゃあな!ハート!また・・この種目で戦おう!」
「まあ・・ねー!!おえい・・さーん!!」
「うん!二人とも・・いつか・・私達のパレードでまた会おう!」
光り輝く最後の瞬間だった。
希望に満ち溢れた最後のあいさつですべての幕は閉じた。
ここからはいよいよあの団長に会って、ニアを取り戻すだけだ。
僕は全ての思いを強く決意させて、前と前進するのだった。
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