無限空想世界の幻想的な物語~悪夢~ 第14話 「運命の賽子」
苦しみの涙は少しだけ収まった。
違う、もう出ないのだ。
耳に響く妬ましいほどの見知らぬ思いが私の心を痛め付けた。
知らぬ感情の残響と囁きが私の体に傷を付ける。
私は苦しみ、泣いた、苦しみそしてまた泣いた。
もう嫌だ、これ以上苦しみたくない。
そう願っていた時もあった、徐々にそれは無くなった。
この牢獄から見える青い青い月が照らす私はすでにどうでもよくなっていたのだろう。
もはや幸せなんてどうでもよかった。
どうもでよかった。
どうでもよかったはずだ。
ふと、意識を取り戻した私は青い月を見た。
するとどうだろう。
ああ・・何故だか蘇る。
憎い兄の記憶が蘇る。
裏切った兄はもういないはずなのに。
愛した姉はあの日死んだはずなのに。
分かっているはずだ、なのにどうしてまたそうやって再生する。
そこから何故あの記憶と声が私を傷つける。
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ
許して、許してよ。
私が何をした。
貴方に一体何をした。
ああ、また苦しみが来た。
でももう痛みも苦しみもどうでもいい。
だって私の体は壊れているから、もうそれすら感じられないから。
もう全てがどうでもいいから。
狂いもがいた私の体いつしか耳をふさいだ絶望の器と化していた。
私は全てをふさいだ。
心も身も全て塞いだ。
何ももう感じたくない。
何ももう見たくない。
この場所にずっといよう。
そうすればきっともう何もしなくて済む。
そのはずなんだ。
◆
僕達のタワーを上る旅はまだまだ続く。
あの後無事にクローバーに勝利した僕たちは。
「白のニアちゃんは銀君を素敵と評価したのでチャレンジャーさんの勝ちです!」
と言う認定をもらって難なくまた上へと上る。
白のニアの手をギュっとしっかり手をつないでまだまだ続く。
段々この階段を上ることに苦を感じなくなって来た。
ニアがいると苦させえも楽に感じてしまうだろう。
信頼できてなおかつ安心できる者がいるというのはいい事だ。
それに会話がちょっとできる様にもなった。
「ギィん・・あぃ・・が・・てぅは・・?」
「ん?ありがとう・・は?ああ・・そういう事ね」
この様にもし白のニアが○○は?
と聞いて来た時は「これはどういう意味?」と言う事ぽい。
先ほどまで「あくぃばっくは?」とか「ばぁぃばぅぃは?」と聞いてくる。
丁寧に優しく教えてあげるととてもうれしそうにするあたりを見ると。
意味を知りたかったのだろう。
「ありがとうは感謝の気持ちだね、何かうれしいとか・・こう心から晴れた時に使うとか?」
「にゅぅ?」
「あーごめん!難しかったね!えーと・・つまり・・心がハレヤカーなんだよ!」
「ぅぁ!ハリィヤカ・・ハリィヤカー!」
「そうそう!ハレヤカー!」
「ああし・・ハりぃヤカー!ギィん・・あぃがぁ・・てぅ!」
「こちらこそ~!その調子でどんどん言葉覚えちゃおうか!」
「にゅぃ!」
まだまだ表情は変わらないがとてもうれしそうだ。
語源をとても楽しそうに使う為、なんだかこっちまで楽しい。
これが「ありがとう」と言う気持ちだと理解してくれる辺りも含めて。
とてもうれしい、とても喜ばしい。
こんな楽しい会話を続けていたらあっという間に次の間へ到着する。
なんだ前までの扉と打って変わって黒いオーラを放つ黒の扉だ。
「いよいよ三層目なのか・・気合の入り方が違うね~・・」
「にゅぅ・・」
「ニア?」
「・・ぅぅ・・ぁぁ・・」
ニアが心なしかとてもおどおどしている。
これはおそらく怖いのだろう。
ニアが感じるほどの恐怖とはどれほどまでなのか。
僕はつばをゴクリと飲みいざ中へと入る。
ガチャリとまた一つの扉を開けて中へ入ったその先にあった物は。
今度は今までの世界と打って変わる部屋だったのだった。
そこはまるでホラーをかたどる世界。
中央にはとても目立つモノクロの舞台、そしてそこに立つのは黒き少女だった。
紫の瞳に黒いシルクハット前髪は長くふんわりと胸までかかる。
とても長いふわふわのツンイテール、チェック柄は赤と黒にとても暗い色。
フリルのあるソックスヲ履いて赤いブーツを履く。
肩にはふわふわとしたマントの様な物、手には黒いヴェールをして。
小さな手で大きなサイコロをいくつもジャグリングをしていた。
「こりゃまた別の意味で濃い女の子な事で・・」
「にゅゥ・・」
なんとなくだがこの部屋の黒い雰囲気に見えない彼女の謎のオーラに確かに恐怖がある。
僕でさえ少し近寄りがたい雰囲気を醸し出す。
一体彼女は何者か、そんな疑問を抱いていると少女はジャグリングを止めて。
一気にサイコロ達を上へと投げた。
ガラゴロンゴロン・・
彼女はにやりと笑った。
まるでいつも通りと、何か予定通りの様な顔で余裕の笑みを見せる。
「ふふ・・今日も絶好調・・スリーシックスよ」
何かをぶつぶつとつぶやく少女。
よほど嬉しいのかとてもニヤニヤとしている。
いや、それよりも・・彼女は何者なんだ。
恐る恐る聞いてみるとしよう。
「あ・・あの・・」
「ん?何かしら?」
話しかけるとこちらへ聞こえる様に声が出る。
良かった、あの音程のまましゃべられたとてもじゃないけど聞き取れないからな。
「君が・・ここの層の人かい?」
「そう・・そうね・・アタシがここの層担当・・トランプガールズの一人【ダイヤ】」
「やっぱり・・そんなダイヤさんが今回のお相手なんですね?」
「んー・・そうね・・そうなるわね・・ダルイわ・・それはとても」
なんだこのやる気の無さは。
どんよりとじっとりとした雰囲気で話す彼女に中々自分のペースが発揮できない。
先ほどまでの二人と変わってなんだかやりづらい・・。
「では・・ダイヤさん・・どうかお相手よろしくおねがいします!」
「いいわよ~・・でもダイヤさんなんて良いわよ堅苦しい・・ダイヤちゃんと呼んで」
「えっと・・ダイヤ・・ちゃん?」
「そうそう・・さあ、来なさい・・私のフィールドへ・・私の世界へ・・」
やっぱりどこかつかみづらい子だ。
おっとりしている様でなんだか誘っている様な。
まるで黒のニアの読みづらい誘惑の様。
そんな感じだ。
僕は不安になりながらも誘われる黒い舞台へと上がる覚悟を決める。
が、その前に白のニアにちゃんと言っておかなきゃな。
「ニア・・僕、頑張って来るよ!応援してくれな!」
「ぉーぇん・・にゅん!ぉーぇん・・しゅ・・にゅ!」
「ありがとう!ニア!」
「にへへ・・にゅぃ!」
たとえこの表情が少しな笑みでも僕は構わない。
にっこりと完全になっていなくっても僕にはわかる。
それでいい、いつもの白のニアさえ見れれば僕は舞台に立てる。
いざ、黒い魅惑の舞台へ足を運ぶ。
「ふふ・・ようこそ・・運命の舞台へ・・」
ボッボッボッ!
僕が階段を上がると周りの六つのろうそくに火が灯される。
灯された火は色とりどりの惑わしの炎の様。
六角形の黒いステージが次のショーへといざなう。
「・・不気味・・だなやっぱり」
「あらそう?私は好きよ・・このわずかな灯に照らされるステージ」
「さっきまで明るすぎただけだとは思うけどな」
「まあ・・それもあるわよね・・それはともかく長い話は嫌いなの・・さっさと私の【ダイスバトル】・・それに付き合ってもらうわよ?」
「ダイスバトル・・まあそうだろうとは思ったけど」
「お察しの通りだけど・・ステージの上にあるサイコロが定期的に動くわ・・あのでかいサイコロの事ね・・あれが出た数字によって舞台に何かが起こる・・それに対して貴方と私はあの子を楽しませるの・・」
「基本的にはここまで同じだな・・ルーレットがダイスになっただけで・・」
僕が少し安らぎの表情をすると、まるで狙っていたかのように。
にやりと笑い毒を吐くダイヤだった。
「フフ・・そう・・けれども私は刺激がほしいの・・私の能力【黒稲妻】はね・・物質にこの黒いビリビリする雷が付属されるの・・」
「・・・ん!?」
嫌らしい手つきで親指と中指をピタリと合わせて少しずつ開き見せる。
そこからバチバチと黒い電流が走っていたのが分かった。
分かった・・が嫌な予感がする。
「まさか・・これは・・」
「ンふふ・・そう・・さっきの二人は傷つく傷つけられる事を抵抗していかもしれないけど・・私はそうはいかない・・ここからはアダルトに・・いやらしく・・たっぷりじっくり傷つけてあげる!」
そう来たか。
なんだか変な奴ばっか続くからこの子はどう変なのか気になっていたところだ。
この子はずばりドの付くほどS全開の少女!
おそらく絶対あの稲妻に殺傷能力は無い!
だって、電流を流してている指をぴちゃりぴちゃりと舐めて何か快感に溺れている。
Sだからこその・・余裕ってやつか・・。
「こりゃあ・・ニアが恐怖するわけだ・・」
「恐怖・・ね・・私を見て来た人はみな確かに恐怖していたわ・・けれども安心しなさい・・貴方も段々・・痛みの快楽と苦しみの愉楽しか考えられなくしてあげるから」
「悪いけど・・そーいうのノーセンキューでッ!」
僕は瞬間的に銃を構えて戦闘態勢へと移る。
ここからもうすでに戦闘のゴングは鳴ったも同然だ。
僕が能力を発動すれば当然向こうも行動するはず。
「ふふ・・始めましょうか・・地獄の大勝負・・大博打・・イッツア!ダイスロール!」
ガラガラガラゴロゴロッ!
突如この黒き舞台の中央で三つのダイスが宙に浮いて高速回転を始める。
回りめくるダイス、これからが運命の瞬間だ。
このダイスが地上に降り立った時、勝負の行き先が決定してしまう。
カランッ!
三つのダイスは一斉に地上へと解き放たれる。
果たして結果はッ?!
「出たわ・・【6・4・2】・・【十二の塔】ねッ!」
「十二の塔ッ?!」
ドドドドドドッ!
ステージ中央に現れるなぞの大量の黒椅子たち。
木材でできたこの大量の椅子は一体!?
「うふふ・・十二の塔は文字通り椅子を使って最後まで積み上げる単調の芸・・」
「なるほど・・お題もあるってわけね・・理解した」
「理解が早いのはいい事だけど・・ぼさっとしていると貴方・・負けるわよッ!!」
「な・・なんだ・・とッ?!」
ガコンッ!
足や手そして体を使って椅子を目でとらえられぬ速度で瞬間的に積み上げる。
宙返りさせたり、飛び上がってアクロバティックに見せつける。
さらになんとグラグラと揺れる椅子の合間合間にダイスを挟む芸当。
まさにエンターテイナー・・ッ!!
今までの奴らと格が違いすぎるッ?!
「はい、最後ッ!十二の塔が完成した時・・それが最後よッ!!」
パチンッ!
ステージ全体に鳴り響く指慣らしの音。
その音ともに流れる激しい電流の音が僕の耳に鳴り響く。
バチィィッ!!
「うぉぉぁぁぁぁぁッ!?」
「アハハッ!たーのし・・・・ッ!!」
体を刺激させられるとんでもない痛さの電流だ。
プスプスとまだ焼けた跡さえ残るこの電流。
やはりただ拷問させるための能力としか思えない。
痛みだけ味わさせる極めてやっかいな能力を前にして反撃ができなかったら。
それこそゲームオーバーまっしぐらだっつうのッ!
「こんな事で弱音は吐けない・・次行くぞ!」
「むう・・まだ余裕ね・・でもそのうち怒りを覚えてしまうかもね・・」
「こんなことに怒り?馬鹿言うなよ・・楽しくあそばせてもらうよッ!」
「言うわね・・なら精々あがいてもがくが良いわ!イッツア・・ダイスロールッ!」
ガランゴロンガランゴロンッ!
再びステージ中央でサイコロが回転を始める。
宙に浮いて高速の回転を見せる。
僕はそのダイスにただひたすらに良い目が出る事を祈るしかない。
カランッ!
しかし現実とはあまりにも非常だ。
こんな魔法と剣さえそろった世界ですら無慈悲な現実が突き刺さる。
「アハハッ!まーたまた【十二の塔】ッ!」
「ゲッ・・だけともうやることは分かってんだ・・同じ過ちは・・」
「ダメね~・・語る暇あるなら・・」
ドドドドドドッ!
スーテジに無数の椅子がまた現れる。
そしてもはや分かっていたように椅子が突如バチッと電流を浴びて。
ダイヤの後ろに次々と詰みあがる。
なんと現れる場所に自らのダイスを置いて雷の反動を利用し。
十二の塔を瞬間的に完成させたッ!?
「語る暇あったら・・運命でも先読みすることね?」
「な・・・なにぃッ!?」
にやりと笑う小悪魔の様な笑顔。
いや、もはやアレは悪魔そのものだ。
ニヤニヤとこちらをあざ笑う悪魔の笑顔。
そして僕が今こうしてその笑顔を見ている時にさえアレやってくる。
バチリィィィッ!!
「グァァァッ!!!」
「二発目~・・さっきより刺激強め・・いかがかしら?」
ドンドン苦しくなり電流の音も強くなる。
流石に息を荒くして自らが追い込まれていることに自覚する。
流石に次食らったやばい、それは僕が倒れる事じゃない。
これ以上ニアに心配をかけれない。
ここで不安を感じさせたら今までやって来た事が無駄になる。
僕は闘士を燃やしてもう一度立ち上がる。
「まだ・・まだ!」
「いいわね!・・いいわね・・でもそれもいつまで持つのかしら・・見ものね」
波乱すぎる第三の層の試練。
こんなにも強く激しい展開を予想していなかった僕は一体どうなってしまう。
ここから僕はどうすればいいのだろうか。
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