1章 3 拒絶と我慢
案の定、とでもいうべきか。
セアリーネは人気者だった。それも大がつくほど。いつだって周りには人がいた。
そして、レイドは再び味わうことになった。このリーレス魔術学院の闇を。
この学校はセアリーネ王女様が通う。ということは、言わずもがな超一流の貴族の子供しか通わないということだ。稀に昔のレイドの様に貴族の子でなくとも通えることはあるが、珍しい。
つまりそういうことだ。貴族でないなら迫害される。とてつもなく簡単なことだ。
これはレイド自身もこうなるだろう予想していたし、夜影もわかっていた。しかしレイドが夜影に所属していること、まず夜影の存在自体が周りにバレるようなことはぜったいにするなと言われている。なにかされてもそいつにやり返すようなことは絶対にするな、と。無論レイドもそんなことをする気は無い。
「ヴェイクートぉ?聞いたことないんですけどー(笑)」
1人の生徒がそういうとそれが周りに異様な速さで伝染する。
「だっよな!そんな底辺のやつがなんでセアリーネ王女様の護衛なんかしてんだよ!」
「どうせお情けだろ!国王様もこんなの護衛として選ぶなんて優しすぎだろー(笑)」
「あたしの家の者が護衛についた方がよろしいのではなくて?(笑)」
「あ、そんならうちのもー(笑)こんなのに任せらんないしねー!」
まるで物語の中のような卑下の仕方だな、とレイドは思う。見ていて哀れだ。名前で全てを語れるなんてさぞ生きやすいことだろう。こいつらの過剰な程の自信、一瞬で叩き壊してやりたいと思うがそれは禁じられている。
だがもっと気になっているのは─────さっきからセアリーネが苦痛な顔をしていることだ。震えてもいる。正直ここまで優しい子だとは思ってなかった。
「な?セアリーネ王女様もこんなやつ嫌だろ?(笑)」
1人の生徒がそういう。
「い、いえ…わ、私、は…まぁ…その…」
とまどいがちに答えるセアリーネ。
「うっわセアリーネ王女様優しすぎ!」
セアリーネはどこからどう見ても困っている。そんなことも分からないなんて、きっととても素晴らしい脳みそをお持ちなんだろうとレイドは思う。
するとさきほど登校してきた1人の少女が状況を理解してみんなに声をかける。
「ちょ、ちょっとあんた達なにやってんの!?てか、早く席につきなさい!授業はじまるわよ?」
ほう、と感心するレイド。この空気に流されない少女もいたようだ。
「セ、セアリーネ!行くわよ!あと、護衛さんも来て!」
「う、うん!」
「承りました」
どこに行くのかはわからないがさっそうとレイド達を導く少女。とても誇らしさで溢れた顔をしている。しかし教室の出口のなにもないとこで転びクラスメイトから笑われる。ドジっ子のようだ。
「だ、大丈夫だった…?」
少女は心配そうに聞く。
「わ、私は…でもレイドさんが…!」
「セアリーネ王女様、俺は大丈夫ですよ。こうなることも予想はしていましたし。俺がここに通っていた時もこのような扱いでしたので…」
「でも…っ!あんな言い方…っ」
「セアリーネ王女様は優しいのですね。ありがとうございます。でも本当に俺は大丈夫ですよ。俺がここにいた時も、こんな感じでしたしね」
「だ…だめです!そんなの…許せませんっ!あんなの…人のことをバカにして…みんな普段はもっと優しいのに…」
「人間というものは自分と違う存在を嫌いますからね。こわいんですよ、違うものを受け入れるのが。拒絶が、恐怖心が、彼らをあんな風にするんです」
「そ、そんな…」
「解決策はあとから考えましょう。下手なことをしてセアリーネ王女様まで『違うもの』として認識されてしまっては元も子もありませんから。俺も我慢します。だからセアリーネ王女様も我慢してください。俺はここにいた3年間ずっと我慢してたんですよ?このくらい朝飯前です」
(本当は夜影のせいで日数だけなら3年行ってないけど…)
それでも。
「わ、わかりました…私、も我慢します!でも、辛くなったら言ってくださいね?」
セアリーネはいつもの優しい笑顔でそう言ってくれるのだ。
「ありがとうございます、本当に。」
「わ、私にも手伝えること…ないの、セア?」
連れ出してくれた少女がセアリーネに問う。
「あそこから連れ出してくれただけでも本当に感謝だよ、ユキ。あ、この子はユキシア=ハーヴィオって言って私の親友なんです!」
このユキシアという子はどうやら普段からセアリーネと仲がいいようだ。
「俺からもお礼を。ありがとうございました」
「い、いいって!顔上げてよ!」
ユキシアは顔を赤らめてそういう。すごい子だな、とレイドは心から思うのであった。
ごめんなさい前の投稿から結構間が開きました…