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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
天下統一への道

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98 鉄砲の真価

「大元を絶たないとダメだな」

「ラヴィアラがやりますよ、アルスロッド様」


 ラヴィアラの弓矢はまた後方の敵兵を落馬させた。

 しかし、今度の敵兵は数が多い。一時的な攻撃では、その動きを弱めるのも難しそうだ。


「俺が出れば三十人は斬り殺せると思うけど」

「危険です! それに矢が撃てなくなります!」

 ラヴィアラに止められた。そうなんだよな。飛び道具を使う以上、俺が最前線に立つわけにはいかない。


 じゃあ、俺の役割は何かというと、仲間の士気高揚だ。

 すでにオルクス隊から、オルクスの「ここは死んでも退かんぞ! 退いたら一生の恥だ!」という野太い声が聞こえてきた。俺が来たことが伝わったのだろう。ものすごくわかりやすい奴だ。


 ――まったく、無茶をしおって。こんな危ない戦場に自分から来るとか……。どうなっても知らんからな。いや、絶対に討ち死にするなよ。

 覇王の言うことももっともだけど、一度も前に出ないのは俺らしくないんだ。


 ラヴィアラの攻撃はそれなりに効いてはいた。付近の敵を率いていた辺境伯側の将も、多くの兵が斜めからの弓矢で倒れたことを認識しただろう。


 ただ、今後は攻撃を分散できる程度に敵に数があった。

 敵の将が「あの弓兵部隊にかかるぞ!」という命令をしたようだ。とはいえ、実のところ、北方言語でほとんど聞き取れなかった。おそらく辺境伯などの一部の高官を除けば、王都語をしゃべることもできないと思う。


 敵の数は百五十ぐらいか。たしかに将は騎馬で突っ込んできて、それに歩兵が追従するという形だ。

「あっ! 皆さん! 敵の武将を狙ってください!」

 ラヴィアラもこれには焦った。矢を射かけるが、敵将も極端に頭を下げて、これをしのぐ。かなりのやり手らしい。


「まずいな……。完全に突っ込んでくるぞ……」

 俺も剣の鞘に手をかける。白兵戦は多少危険はあるが、それで切り抜けるしかないか。


 しかし、俺の前にオルトンバが進み出た。

 すでに手には鉄砲がある。雨にぬらさないように体を大きく前に傾けていた。


「これだけ距離が近づいているならやれます。敵将がどれかもわかりましたし。私がやりますよ」

 たしかに性能を試すには絶好の機会だ。


「わかった。やってみろ。真横で見守っていてやる」

「アルスロッド様、あまり過信しないでくださいね!? はずしたら敵が来ますから!」

 ラヴィアラが注意する。その言葉ももっともだ。まあ、その時はその時だ。存分に戦ってやるさ。


「こんな無理な姿勢の撃ち方でも私はできますんで」


 そして、耳を圧するような轟音が響いた。


 あまりにもとんでもない音なので、自分が死にでもしたのかと勘違いするほどだったが、まったくそんなことはなかった。

 敵将が落馬して、すぐに動かなくなった。


 鉄砲が一発で仕留めたのだ。


 何か敵軍がわめき出した。自分の大将が死んだのだから、それもしょうがないだろう。どうやら、まだ何が起きたのかよくわかっていないらしい。


「そうだ……皆さん、一気に撃ってください!」

 ラヴィアラたちの弓がそこでまた射かけられる。前にいた敵兵がばたばた倒れる。


 形勢が逆転する瞬間というものをたまに戦場で見る時があるが、まさしくそれだった。

 鉄砲一本、大きく流れが変わった。

 攻撃する兵士を供給していた敵部隊の大元がこれで崩れ、オルクス部隊もだんだんと状況を好転させつつあった。


 ひとまず、俺が来た意味はあったというわけだな。


 それから先、三回ほどオルトンバは鉄砲を放ち、それぞれ雑兵ではないと思われる兵士を射殺していた。弓矢よりはるかに遠方までその弾は届く。

「やはり、雨のせいで点火に時間がかかりますね。一斉に使うには晴れた日でないと不向きです」

「それでも、手練れの者なら使えなくもないとわかった時点で十分だ」


 オルクスが一度敵兵を追い払ったようなので、雨がやむまでしのげと伝令を残して、俺たちは再び、あの冷たい川を渡った。


 その後、夕暮れになって、敵兵が一度、兵を陣まで退いたという連絡と、それに合わせてオルクス隊たち前線に出た部隊もこちら側に戻ってくるという連絡が同時に来た。ひとまず、初日は食い止めた。


 もう一つ、大きな変化があった。

 雨が夜になる前に上がったのだ。かなり強い雨だったから、その分雲が過ぎ去るのも早かったのか。


「明日の朝には、もう晴れていると思います」

 そうラヴィアラが胸を張って言ってくれた。


「わかった。明日はいよいよ鉄砲の真価を見せる時だな」


 オルクスたち前線部隊が戻ってくると、俺は連中をねぎらってから、後方に下がらせることにした。

「本当はあっちで夜営するぐらいの気持ちでいたんですけど、ちょっと兵の疲れ具合からして、それは無理だなと判断しました。明日、また敵が攻めてくるまでしのぎたかったんですが」

「もし、それをやるとしても、被害も大きくなるからな。敵が退いたうちに戻るなら問題ない。明日、敵が川のこちら側にうかうかやってきてくれれば、それでいい」


「けど、あっさり来ますかね? 敵も怖さは今日のことで、よく知ったはずですぜ」

「そこは上手く餌を撒く。マチャール辺境伯も今回の戦をわかりやすく勝ったことにしたいはずだ。現状だと、向こうに従ってる諸侯たちも大丈夫かといぶかしんでるだろうしな」


 俺は夜のうちに川よりかなり手前のところで防衛線を張る。それも意図的にかなり脆そうな防衛線だ。

 これなら、一気に突破して俺の首を狙える、そう思わせないと意味がない。

 

 もしも、誘いに乗らないなら、相手をおびき寄せるためだけの部隊に川に渡らせて、引っ込ませる。


 少なくとも、俺たちは負けてない。敵の実力もおおかたわかったし、次で決めればいいさ。


 そして、長い夜が明けた。

 辺境伯の軍、待ってるぞ。

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