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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
天下統一への道

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90 セラフィーナの迷い

 その日はルーミーと時間を過ごした後、夜にセラフィーナの部屋に行った。

 セラフィーナと初めて出会った時、彼女は十五、六だったかと思う。あれか何年も過ぎたけれど、彼女の見た目はほとんど変わっていない。

 オダノブナガという職業のおかげだ。妻がみんな美しいままでいてくれる。これは本当にオダノブナガに感謝しないといけない。


「あら、わたしでいいのかしら? 今夜は正室と過ごしたほうがいいんじゃない?」

 椅子に腰かけているセラフィーナにくすくすと笑われた。勝気な態度はいつになっても変わっていない。

 でも、俺がここに来た理由もきっとセラフィーナはおおかたわかっているだろう。


「セラフィーナ、俺は国家を統一するために戦うつもりだ。お前もそのことは理解してくれていると思う」

「当たり前でしょう? わたしは王となるような男と結婚したいと嫁ぐ時にも話していたはずよ」

 セラフィーナは俺のほうに寄りかかってくる。すぐに挑発的なこっちを試すような目つきになるところは、昔のままだ。


「そのために、お前の家も一族も滅ぼすことになっても、お前は納得してくれるか?」

 彼女から少し体を離して、俺は言った。


「お前の父親であるエイルズ・カルティスが俺に反旗を翻す可能性がある。その時は俺は全力でそれにあたる。ブランタール県がいつ裏切るかわからない状態では今後の計画も危うくなる。まして義父に裏切られたとなると、ほかの奴らも離反するかもしれない」


 セラフィーナの表情も少し硬くなった。

 すぐには言葉も出てこない。俺は辛抱強く待った。それにどういう返事が来ようと俺がすることは決まっているのだ。


 うっすらとセラフィーナの瞳に涙がたまった。

「不思議ね。昔はあなたが王になるなら、何を犠牲にしたってかまわないと思っていたのに、いざ、その時が来るととても怖くなるの。もしかすると、知っている人もみんな死んでしまうのかなって……」


 俺は黙って、セラフィーナを静に抱き締めた。


 それが俺のできる精一杯のことだとわかっていた。

 残念ながら、どんなにセラフィーナが悲しんだところで、裏切り者が出た場合の処遇をゆるめることはできない。だから、俺は何も言わないでいるしかなかった。


 しばらく、セラフィーナは俺にもたれるようにして泣いていたと思う。華奢な体つきなのは知っているけれど、それにしても軽い。まるで砂糖菓子のようで、このまま溶けていってしまいそうだ。


「あくまでも、義父が俺に矛を向けた時の話だからな。謀反の疑いをかけて殺すような真似は絶対にしないと誓おう」

 そんなことをしたら俺に従ってくれている連中まで、俺を信用できなくなる。その先は地獄だ。誰も俺についてきてくれなくなるだろう。


 自分に従う者を絶対に守る、その保証はあったほうが絶対にいい。


「いいえ。きっと、わたしの実家はあなたを攻撃するわ。あなたが作る新しい世界を受け入れられるほど柔軟じゃないの」

 セラフィーナは俺から離れると、部屋のカギのかかった化粧箱のほうに向かった。

 そこから出してきたのは、化粧道具などではなく、場違いな手紙だ。


「あなた、これを読んで」

 渡された手紙にすぐに目を通した。


「俺を家をあげて歓待したいと書いてあるな。だから、セラフィーナもその時には戻ってこいと」

「歓待するというのはカルティスの家の隠語で、打ち滅ぼすということよ。見つかった時のリスクを減らすための小細工ね」

 おおかた、見かけ上はなんでもない実家からの連絡に紛れ込ませていたんだろう。ほかのありふれた内容のものと一緒に入っていれば、まずばれることもない。


「情報を送れといった催促もわたしのところにいくつも来てるわ。きっと、本当にやる気だと思う」

「教えてくれてありがとう。やっぱり、お前は俺の一番の理解者だ」

 セラフィーナのくちびるにキスをした。


 それで少し、セラフィーナは心を決めたのか、椅子に腰を下ろした。


「あのね、どうせ答えはわかっているけど言うだけ言っておくわね」

「ああ、好きにしてくれ。君にはその権利がある」


 てっきり、実家を攻めないでくれとか、家族の命を助けてくれとかだと思っていた。

 でも、それは甘かった。もっとセラフィーナが情熱的な人間だということを忘れていた。


「わたしを内通のかどで殺して」

 微笑みながら、セラフィーナはそう言った。

「そしたら、旦那様も心置きなくカルティスの家を攻められるはず。わたしがいれば、あなたの判断が鈍るかもしれない」


 矛盾した感情に決着をつけるために、そんな方法をセラフィーナは思いついたらしい。


 俺はため息をついた苦笑した。怒る気にもなれない。


「君の職業は何だ?」

「聖女、だけど……」

 自分のそばにいる人間の幸運を三十パーセント引き上げる――それが聖女という職業の能力だ。


「そういうこと。君は俺にとっての聖女だ。自分を守護してくれている聖女を殺すような人間は救いようのないバカだ。俺はそこまで愚かに生きるつもりはない。人生は一回しかないからな」


「離縁して追い返したりもしないの……?」

「君ほど魅力的な人間と離縁するほど、俺は愚かじゃないんだ。これからも俺のものにしておきたい」

 なんで妻を本気で口説き落としているのだろうと思ったけれど、セラフィーナを失いたくないという気持ちにウソはなかった。


「わたしがたった一人の妻ならその説得力もあるのにね」

「同盟関係のために、ほかの側室を連れてきたのはセラフィーナのほうだろ。フルールを見繕ってきてくれてありがとうな」

 こんな軽口を叩ける程度に張り詰めた空気はゆるんでくれた。それとセラフィーナの言葉で一つ、策を思いつけた。


「セラフィーナ、悪いんだが、また一人妻を増やすことにしたい」

「はいはい。いったい、誰?」

「海軍を持つソルティス・ニストニアの娘が、ちょうど年頃のはずなんだ」

 大きな軍事作戦の前に、もう一つ地固めをしておくか。


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