85 残党狩り
今回から新展開です。なにとぞよろしくお願いします! 天下統一を目指します!
俺がオルセント大聖堂を破った日からちょうど五年後のその日――
俺は王国西部に逃げていたサンティラ家の残党と交戦していた。
もちろん、縁起のいいその日に戦闘を終わらせるように仕向けたのだ。すでに連中がどこで命脈を保っていたかはとっくに知れていた。
自分が出るまでもないが、せっかくだし前に行くか。
「赤熊隊・白鷲隊は俺に続け! オルクスとレイオン、準備はいいな?」
「もちろんですぜ!」と赤熊隊の隊長、オルクス・ブライトが叫んで俺の馬の左に並ぶ。腕はますます太くなって、振るう剣ももはや剣なのか斧なのかよくわからないほどだ。
「すでに白鷲隊も体を温めております!」
右からは白鷲隊の隊長、レイオン・ミルコライアがやってくる。エルフ出身のこの軍人はオルクスと対照的な理知的な風貌だ。
しかし、そのせいで変な話もよく聞く。
「なあ、レイオン」
「はい、どういたしました?」
「お前は最近、宮廷の女官とずいぶん浮名を流しているという噂だが、あれは本当なのか?」
「あ、あれは……その……」
明らかにレイオンは言いづらそうだ。
「どうやら図星か。お前はあまりそういう趣味はないと思っていたが。別にそんなことで罰したりはせん。ただし、陛下の娘を惚れさせるようなことはするなよ。十二だったか、十三だったか、ちょうど恋に焦がれる年頃だ」
「申し訳ありません……。その……自分は言い寄られるとどう断ってよいかわからず……」
だいたい察しはついた。
平時の際は白鷲隊は宮廷の警護などに当たっているからな。それで女官に声をかけられているんだろう。レイオンはもう六十歳近いはずだが、エルフであるせいで青年の美貌を保っている。
それと傭兵上がりで死地を何度もかいくぐっているから、目つきもそこらの放蕩息子とは違う輝きがある。
もっとも、老いてないという点なら俺も似たようなものだけどな。
職業オダノブナガの特殊能力の一つに【覇王の霊気】というのがある。
この職業を持っている者が居城で、覇王として振る舞っている間、その親族も含めて老化が遅くなるというものだ。俺は王ではなくて摂政だが、これの恩恵を授かっているらしい。
「レイオン、お前が言い寄られる理由の一つは結婚してないからだ。いいかげんミルコライア家を継ぐ人間のことを考えろ」
「大昔、自分の暮らしていた集落の娘と結婚したのですが、死別しました。それ以降……傭兵として土地を転々としたので、再婚もしておりません……」
身軽なほうがいいというのはわかるけどな。それでも隊長格には全員子爵の位までは与えている。別に名誉職ではないのだから、そこのところも真面目にやってくれ。
「オルクス、お前には子供は何人いる?」
逆側にいる赤熊隊の隊長に声をかけた。
「十二人おりますぜ。長男と次男は赤熊隊の中で大活躍でさあ!」
「ということだ。これに関してはオルクスのほうが偉い」
いつもオルクスにめくじらを立てているレイオンが恥じ入った顔になった。
「も、申し訳ありません……」
「お前らも一端の領主なのだ。ちゃんと結婚しろ」
「養子候補であれば何人かおりまして、家は存続できるような形になっておりまして……」
「バカか。お前のことを好いている女官が何人もいるんだから、その中から選べ。異様に相手の家の身分が高いのでなければどうにかしてやる。いつまでも傭兵の気分でいるな」
「御意であります……」
力なくそう言ったレイオンをオルクスが笑い飛ばした。
「よし、レイオン。サンティラ家当主の首を獲れ。敵の左翼から攻めろ。こちらは逆から進む」
「はっ! しかし、城南県で覇権を握った一族も最期はせいぜい千五百の兵しか率いて戦えないというのも無常なことですね」
俺が答えようとする前に頭の中の職業オダノブナガが何か語ってきた。
――いつの世も次代の趨勢を理解できぬ者というのは一定数いるのだ。俺に従う以外の未来などどこにもないのに、あえて死ぬまで無意味な反骨を貫く。当然、一族は滅んで路頭に迷う。何に対して筋を通しているのかさっぱりわからん。
でもさ、オダノブナガ、尻軽にすぐに主を替える奴よりはマシだったりするんじゃないか?
――場合による。滅ぶ直前に主を替えるなら信用などできるわけがないが、ずっと流れを見誤っている、いや、流れを見ようともせん奴はタダの無能である。それは忠節を尽くしているとかそういう次元ではない。
それには同意する。このサンティラって家もバカすぎてどうしようもない手合いだ。ぺこぺこ頭を下げていれば、猫の額ぐらいの土地は与えてやったのに。
「レイオン、サンティラのバカ共が死ぬ前にどういう態度をとるかよく見ておけ。そこでも武人の顔をしているか、びくびくふるえて降伏するかどうかで、そいつの格がわかる」
「心得ました。ということは生け捕りにしたほうがよろしいですか?」
「命乞いをしているようなら、一応連れてこい」
「承知つかまつりました!」
レイオンの白鷲隊が敵のいる小高い丘に突っ込んでいく。乱戦に及ぶ中では敵の布陣は悪くないが、多勢に無勢だし、そもそも多少の地の利でどうこうできる戦いじゃない。
「オルクス、俺たちも行くぞ」
「手柄立てまくりますよ!」
そろそろ背後から黒犬隊が攻撃を仕掛けているだろう。そこに突っ込む。
ちょうど俺たちがぶつかる少し前から敵の右翼が混乱しはじめた。
猟犬たちが咆哮を上げながら敵兵を噛み殺している。
「ワーウルフ部隊はきっちり効いたな」
あれは黒犬隊ドールボーの部隊だ。攻撃はとにかく粗野だが、こういう時には使い勝手がいい。
「この勝負、完全に決着はついた。敵の連中は最悪、まだ退けると思っていただろうけど、もう退路なんてないんだ」
ここから先は狩りだな。




