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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
大聖堂との戦い

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84 妹の決意

「私の命はお兄様がいなければ、もっと早く尽きていた。だから、お兄様の気持ちには沿いたい」


 ほっとするにはまだ早かった。アルティアの言葉は終わってはいない。


「けど、それでも夫がお兄様に逆らおうとするなら……その時は私なりに決断するから。私はナーハム家の女でもあるから」

 しっかりとアルティアは俺の瞳を見据えている。

 自分の言葉に一切のやましい点はないと主張しているような目だ。


 俺はついつい、声を出して笑ってしまった。

「もう! お兄様、そこで笑うのはおかしい」

 茶化されたと思って、アルティアはむくれてしまった。無理もないか。


「悪い、悪い。それでこそ、俺の妹だ。血は争えないな。俺の兄ももうちょっとこの気概があればよかったのに」

 摂政の俺を前にしても一歩も引かないか。

 そして、他家に嫁いだ人間の立場として、その受け答えが正解だ。それぐらいでないと、かえって適当なことを言っているように見えてしまう。


「アルティア、お前にははっきり言っておく。俺はこの国を統一する。それで一年の間に国のどこでも争いが起こらないような時代を築いてやる」


「夢みたいな話」

「俺が摂政になったのも夢みたいなものだろ」

 アルティアはそれは認めると思ったのか、こくんとうなずいた。


「そのためにはこのあたりの領主たちにも従ってもらわないダメなんだ。悪いようにはしない。少なくとも俺は自分のためについてくる奴を粗末に扱ったことはない。ブランドは俺の義理の弟だ。俺に尽くしてくれるなら三県ぐらいの所領は与えてやる。だから――」


 俺は自分の胸に手を当てて、言った。


「絶対に夫を俺についてこさせろ。それが信じられるように、俺はこれからも覇業を続けていく。十年後には俺は国の頂点に立ってる」


 アルティアは席を立ちあがった。


「摂政様、今日はご歓待、真にありがとうございました。このアルティア、光栄の至りです」

 かしこまった口調でアルティアはそんなことを言ったが、すぐに声をたてて笑った。


「お兄様はなんにも変わってない。いつもどおり身勝手で、いつもどおり乱暴で、でも、そんなお兄様が摂政になったということは、この国の歴史がそんなお兄様を望んでいたということ」


 アルティアは俺に近づくと、軽く頬にキスをしてきた。

 親族間なら、おかしくない範囲でのスキンシップではある。


「お兄様、王になって。その時に、私がどんな立場になっているか、そもそも生きているのかもわからないけれど、お兄様は王になるべきだと思う。お兄様は誰の下にいても窮屈だから」

「ああ、わかったよ」


 俺も立ち上がって、アルティアを抱き締めた。

 なんて無茶苦茶な兄妹の語らいだろう。ごく普通のよもやま話は到底かなわないらしい。


「お兄様は私にとっての自慢のお兄様だから。問題点は一つしかない」

「なんだ、その問題点って」

「女の人に手が早いこと」


 妹に言われると、けっこう威力があるな……。

「それはだな……ほら、世継ぎがいないとまずい立場だからだ……。別に俺が好色ってわけじゃない……」

「好色というのとはちょっと違うけど、能力のある女の人だと思ったら、すぐに惹かれるから」


 これ、どこまで知られてるんだろ……。

「ケララさんは確実だし、あと、連れてきてる部下に対する視線でもわかる。ヤーンハーンっていう人とはなんかあった」

「お前、それ、本当にわかってるのか? 間諜でも使ってるのか?」

「お兄様のことはよく知ってるから。昔は言い寄る立場にいなかっただけ。今は摂政だから容赦がない」

 妹の眼力が鋭すぎる。


「以後、気をつける……」

 実行できるかわからないけど、そう言うしかないだろう。


「お兄様、それともう一つお願いがあるんだけど」

「なんだ? 遠慮せずになんだって言ってくれ。お前が今更遠慮することもないだろうけど」

「ラヴィアラさんとも話がしたい。ラヴィアラさんはお姉ちゃんみたいなものだったから」


 なるほどな。それはごもっともな話だ。


「実はな、護衛役ということで、もう来てもらっているんだ」

 部屋のタンスがきぃーと音をたてて開いた。


 そこに涙目のラヴィアラが立っている。

「アルティア様、お久しぶりです! こんなに美しくなられて!」

 そして、すぐにラヴィアラはアルティアをぎゅっと抱きしめた。それはそれは強い力で。


「ラヴィアラさん、これからもお兄様を見守っていてあげてね」

「もちろんですとも! ラヴィアラ、一生をアルスロッド様に捧げますから!」

 横で聞いていると、どうにも変な気分だな。


「多分、お兄様はこれからも妻を増やしていくと思うけど我慢してね」

「え、あ……はい……そこは諦めてます」

 諦めるってどういう意味だ……。


「なあ、せっかくだし、酒を開けないか? こんな日だし、いいだろ」

 その後、俺たち三人は積もる話をした。その部屋だけ、すべてが昔に帰ったような気がした。


 きっと、こんな時間はもう二度と過ごせないだろう。全員が十年後も二十年後も幸せに集まれるなんて、奇跡のようなことが何度も起こらないと無理だろう。

 そんなことも忘れてしまえるように、俺たちは楽しくその時間を過ごした。


 今だけはみんな十年前に戻ろう。

今回で、摂政編は終了です。次回から新展開に入ります!

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