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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
大聖堂との戦い

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82 居城に凱旋

 墓参りの後、領内を馬車で巡回すると、領民が沿道で俺を歓迎してくれた。

「セラフィーナ、これはお前が何か計画してたな」

「わたしではないわ。フルールの仕事よ」


 フルールがこくとうなずく。

「わたくしはしばらく王都のほうに赴くことがありませんでしたので。それで少しでもマウストやネイヴルのことを見ておこうと思ったのです」

「お前がそうやって目を行き届かせていてくれて、本当にありがたいよ」


 フルールが王都にすぐ来れなかったのは、出産があったからだが、それがいいように運んだらしい。


「あと、計画というほどのことではありません。ネイヴル郡では摂政様の故郷ということで税も安くなっていましたし、慕われるのも当然かと」


 元も子もないことを平然とフルールは言ったので、俺は笑った。

「そうだな。税を安くしてくれる領主ほど、素晴らしい領主はいないよな」


「無論、もともと摂政様の人気は高かったのもあります。あれだけ戦争に強い若い領主が信頼されないわけないでしょうから」

「フルールのいいところは必ず理由をつけてくれるところだな。ただのおべっかではないとよくわかる。マウストの留守もよく守ってくれていたな」


 俺がマウスト城を空けている間、その統治の一部はフルールにやらせていた。

 もちろん、公的書類の大半は、領主である俺の名前で出してはいるが、実務的な判断はフルールに任せていた部分もある。それだけフルールは聡明な人間だ。妻という立場でなければ、文官として使いたかった。


「託されたことはわたくしなりに力を尽くしましたが、そのせいで不満を持つ方も多くいたとは思います。女が政治をするなと思われている方も皆無ではないでしょうし」


 そう口にしているフルールの顔は笑ってはいない。あくまでも、すべては役人としての立場でフルールはしゃべっている。不快に思われていてつらいとか、そういう話ではない。


「そういうことを思う者は俺が直接やったところで、別の理由で文句を言ってくる。気にすることはない。だいたい、当主の不在時に妻が代行するのは昔からの習いだ。俺が決めたことではない」


「はい、そのとおりですね。少なくとも八百年前のサムルー辺境伯正室の事例までさかのぼれます。以降、ざっと年代記をめくってみても、十例以上見つかりました」

 一応、前例があるか確認していたのか。不遜かもしれないけど、俺の妻になって正解だったなと思う。小さな子爵の一族として生きても、その能力を発揮できる場がなかっただろう。


「ありがとう。マウスト城に戻るのが楽しみだ」

 ネイヴル家の本貫地を視察した後は、居城のマウスト城に行く予定だ。そこに各地の領主が集まって、俺を讃えることになっている。

 しばらく、王都のほうにかかりきりになってしまったから、その引き締めのためというのもある。


 かつて摂政になったものの、そのあと没落した有力者は地元のほうがおろそかになって足下をすくわれた例も多い。気持ちはわからなくもない。摂政といえば、家臣としての頂点と言っていい。権力だけならしばしば王を上回る。

 そのまま王都での生活にはまってしまって、自分の拠点のことを忘れてしまう。忘れていると、必ず地元で新たに何か企む者が出てくる。そういう時代だ。油断をして許されることなどない。


「マウスト城については変わりはないと思いますが――」

 フルールは少し言葉を選んでいるようだった。


「周辺の領主たちは摂政様に恐怖を感じている者も多いかと。誰もこのような強大な権力者に従うということを長らく経験しておりませんので」

「わかった。少し慎重にやらせてもらおう」



 ネイヴルの土地を後にすると、俺はマウスト城を目指した。


 マウスト城下での歓迎は言うまでもなく、こちらのほうが上だった。さすがにみすぼらしく入城するわけにはいかないから、式典のようにさせた。王都で活躍して帰ってきたわけだから、凱旋そのものだ。


「発展はしているけど、まだまだ王都ほどではないな」

 俺は城下を馬で歩きながら、つぶやく。

「いつか、このマウストを王都より発展した都市にしてみせる。そして、新しい王都、少なくとも副都ぐらいには」


「恐れながら、遷都を断行して国民の信頼を失い、そのまま滅びた政権もございます。あまりお勧めはいたしません」

 ケララがそう諫めてきた。

「言ってみただけだ。それにすべては陛下がお決めになることだしな」

「そうですね。もしも、陛下がマウストを王都にするとおっしゃった場合はまた一行いたしましょう」

 ケララも王のことを出したら、黙ってくれた。


 久方ぶりにマウスト城に入った俺は、予定の日を待った。

 主に周辺の領主たちが続々と俺のオルセント大聖堂への勝利を寿ぎに集まってくる。


 領主の数は小さいものも含めて四十人ほどだった。思ったよりも多い。

 とくに、妹のアルティアの夫であるブランド・ナーハム、セラフィーナの実家であるエイルズ・カルティスなどは、なかば俺の一門も同然の立場だ。それに見合うだけの地位も与えてきたと思う。

 あとはフルールの兄であるマイセル・ウージュも一門と言えば一門だ。こちらはあくまで俺の将にすぎないが。


「みんなにこのように戦勝を祝ってもらって、摂政としてこんなに光栄なことはない」

 領主たちが並ぶ前に出てきて、俺は席について、鷹揚にそう言った。

 ただ、どうも面白くない顔をしている者がいるのが目についた。


 それはブランドだった。どうして、アルティアの夫がそんな顔になる?


「義兄、このたびの輝かしい勝利は本当に偉大だとは思います。ですが……その……妙に椅子が高すぎるのではないでしょうか?」

「椅子? ああ、摂政になったから、その格に見合ったものに変えたんだ。俺も摂政として振る舞わないと、王権を軽んじていると見なされかねんからな」


 まだ、ブランドは納得していないらしい。

「はい。しかし、これでは……自分たちは義兄の同盟者ではなく、家臣ということに見えはしませんか……?」


 ああ、そういうことか。

 ブランドの言いたい意味がわかった。

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