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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
大聖堂との戦い

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80 面白き世

 大聖堂の使者に対するイヤガラセが終わったあと、俺はヤーンハーンの屋敷に行って、例の茶式というものをやった。


 極小と言っていいほどに狭い部屋に入り、そこでテーブル越しにヤーンハーンから渡された緑色の茶を飲む。言ってみればそれだけなのだが、茶会とはまったく違う、不思議な緊張感がある。あるいはヤーンハーンは宗教の秘儀をヒントにしたのかもしれない。


 前回はいつのまにかオダノブナガとの対面なんてことになったんだよな。あれがどうして起こったのかよくわからないけど。


「いかがでしょうか?」

 茶式の時のヤーンハーンはずっと大人びた雰囲気をまとわせている。艶美な妖しさではなく、むしろ聖女のような高潔さに近い。


「前回よりおいしいと感じるようになった。口の中に残っていた垢を腹に流し込んできれいにしてくれるような気がする」

「それはよかったです。接待側としてもうれしいですね」


 一息ついて、やっと本題に入ることになる。


「今日の仕事を見て思った。お前は趣味人の商人で終わるには惜しい。俺の覇業の手伝いをしてくれ」

 この異国出身の女は必ず、役に立つ。


「はい、そのつもりで試験も受けたわけですから」

 ヤーンハーンも自分がれたお茶を飲む。やけに様になっているように見えるのは、センノリキュウという職業が関係しているのだろうか。


 王都に来て、はっきりわかったことがある。

 類例がない特殊な職業を持っている人間はたいてい、有益な、それも常識外れの力を持っている。

 クニトモシュウという職業を持っていたドワーフのオルトンバ、アケチミツヒデという職業のケララ。こういう連中をもっと集めていきたい。


「私は面白い世を見てみたいのですぅ。だから、この国に渡ってきました。一言で言えば、この国が荒れていたからです」

「物好きだな」

 俺の目までは笑っていなかっただろう。なにせ、俺の考えとまったく同じだったからだ。


 きっと、俺もこの世界に退屈していたのだ。いつ滅ぶとも知れない小領主の一族に生まれて、戦々恐々と一生を過ごすのがバカらしかった。それは農民よりは夢があるかもしれないが、とても面白いとは言えない。


 それなら、危険があろうと、王の地位を目指しにいってもいいだろう、そう思って生きてきた。

 薬商のヤーンハーンが王になろうとはしないだろうが、考えは似ているはずだ。


「今、この国で最も世を面白くしてくれる人物は、アルスロッド・ネイヴルだと考えたので、ここに参った次第です。あなたの目指す道はほかの誰とも違っていますので」

 二人しかいない空間だからこそ、ヤーンハーンは俺を摂政とは呼ばない。ここでは対外的な地位などは不要になる。


「よくわかっているじゃないか。少なくとも、だらだらと傀儡と権力者が移り変わるだけのゲームは終わらせるつもりだ。厳密にはそこから先のプランはできてないけど、まあ、俺が王になっただけでもこの国は変わるだろ。ああ、『この国』はその時、もう滅んでるな」

「はい。そして、茶式はそんな新しい世界にこそ合うものです。これは古い何かの真似事ではありませんので」


 ヤーンハーンはよその土地からこの国に移ってきたと言った。

 つまり、本質的に過去に興味がない人種だ。

 何かを成し遂げる時、そういう者のほうが信頼がおける。俺は過去をつぶしていくことになるだろうから、過去にこだわる者は必ず恐怖する。


「ヤーンハーン、お前は政治がわかるか?」

「わかるかと問われると返事に困りますがぁ、外から来た者なので、外側から動きが見えると言えば見えます」

 よし、合格だ。


「お前を本格的に重用すると思う。お前を見つけ出せた試験はやっぱり意味のあるものだった」

「はい、褒美にはぜひ茶式を広めることにご協力を」

「お安い御用だ」


 そのあと、新たに俺に従属した都市や、俺がつぶした領主の土地に対して誰を派遣するかといった話をした。

 ヤーンハーンは役人の名前をいくつも出して、案を出した。なかにはつい先日、試験に受かったばかりの者も多い。非公開の情報ではないが、どうしてそれだけのことがわかるのかと聞いた。


「王都で商人を営み、茶式というサロンを開いておりましたら、人脈はできますからねぇ。これぐらいであれば、どうということはないです」


 俺はいよいよヤーンハーンがほしくなった。


「なあ、お前には夫はいないのか?」

「そうですねぇ。まずは商人としての仕事を楽しもうと思っていましたので、惚れた惚れられたという話はないままですねぇ」

「俺の妻になるか?」


 もし、ヤーンハーンが「後宮」にいたら、円滑にその場を取り仕切ってくれるのではと思った。セラフィーナは賢い女だが、性格のゆえか少し強引なところがある。一言で言うと、危なっかしいのだ。


「うれしいお話ですが、そうなると商人のほうをできなくなってしまいますからねぇ」

 やんわりと断られてしまった。冗談の一つとでも受け入れられてしまった。


「ただ、愛人と言うのであれば、それはその時の空気次第ということになるかと」

 表情を変えずにひょうひょうとした態度でヤーンハーンは言う。


「食えない女だな」

「お茶は飲むものですからねぇ」


 ヤーンハーンとはねやでも、いくつか政治的な質問をした。茶式での質問が具体的で差し迫ったものだとしたら、そこでの話はもっと長い目で見た問題だ。


「数年はゆっくりとするべきだと思いますよぅ。権力というのは固めるのに数年はかかりますから」


「お前の言うとおりだ。参考にする」

 すぐに大軍でどこかを攻めねばならないということもないし、三年ほど、様子を見てみるとするか。


 もっとも、休むわけじゃない。

 次の種をしっかりと撒くのだ。

 収穫の時期が今から楽しみだ。

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