7 勢力急成長
日間10位に入りました! ありがとうございました! 今回から領地を広げていきます。
「まずは、お前の職業をバカにしたことを素直に謝罪しよう……。職業による力の上昇などなくても、お前は立派に役目を果たした。ま、間違いなく一門の中でも最高の功績だ……す、素晴らしい……」
ネイヴル城で再会した兄ガイゼルはやっぱり顔は笑ってはいなかった。ずっと、いびっていた相手が功績をあげすぎたせいだろう。
それは結果的に愚かでない者をバカにしていた自分に見る目がないということになる。つまり、ガイゼルのプライドが傷つけられたのだ。ざまあみろと思う。
ここでガイゼルを怒らせるメリットは全くないので、一応下手に出ておくが。
「危急の砦に領主の弟を派遣するという手を打たれたのは、領主たる兄上。これは兄上の計算が見事に当たったものです。亡くなった父上もきっと称賛されているに違いありません」
「そ、そうか……。まあ、そういうことになるな……」
あっさりガイゼルは喜んでくれた。こうも単純だと佞臣もさぞ、扱いやすくて楽だろうな。
「さて、お前の功績に対して、褒美を与えねばならん。これまではハルト村という小さな村の半分ほどしか所領を与えてなかった。その村全部と両隣の村もやる。都合三村の領主だ。それと男爵位もやろう。村の名をとって、ハルト男爵と名乗るがいい」
「ありがたき幸せ。なお、いっそうネイヴルのために戦う所存です」
男爵の位は子爵と違って世襲できない。なので、ぽんぽん褒賞としてあげても問題ないのだ。あと、どのみち、小領主のうちは子爵だから、子爵の位を分与する権利を持ってない。
それにネイヴル子爵自体が土地として一郡ともう半郡を領している程度の小領主でしかないのだ。
サーウィル王国は、各地域を県という行政単位で区切っている。その県の中にだいたい十前後の郡がある。
基本的に、県の半分以上程度の土地を有している領主が伯爵位を持っていて、一郡程度の土地しか持っていない領主は子爵位でとどまっている。
なので、ネイヴル子爵家なんてのは、吹けば飛ぶとまでは言わないが、いつ滅ぼされてもわからない勢力なのだ。
本音を言えば、兄をとっとと追放して、自分が子爵の地位を継ぎたい。兄が嫌いというのもあるが、単純に凡庸な人間を領主にしていると、砦の死守みたいな命令を持ちこまれて、こっちの命が危うくなるからだ。
しかし、すぐに反乱を起こして勝つのはいくらなんでも無理がある。それに大義名分がない。
――焦ることはないぞ。覇王となるにも、まずは下地を作らねばならんからな。最初の県を手に入れることは骨が折れるが、五県を十県にすることはたやすい。いずれ、時が訪れよう。覇王も尾張全土を手中にするのは今川義元を倒したさらに後だった。
心の声もそう言ってきたので、それを信じることにしよう。固有名詞の意味はよくわからないけど。
けど、こいつ、本当に無害なんだろうな。なんか、こういう囁いてくる悪魔の話を子供の頃に読んだ気がするぞ……。
――残念だが、そういう力を持ってはおらんのだ。せいぜい、お前が覇王になるのを見て楽しむことぐらいしかできぬ。
どうも、人を露骨に騙すようなことはしなさそうなので、そこは大丈夫か。
俺は兄との会見を終えて、新たに手に入った土地の支配に乗り出すことにした。
村三つといっても、領主としては知れているが、これまでよりはまともな扱いを受けたので、よしとしよう。
自分の屋敷に戻った俺は、まず妹のアルティアの元を訪ねた。
「お兄様、まさか、また出会えるとは思ってなかったよ……」
妹に会ったらすぐに号泣された。
「おいおい、俺のこと、信用してないのかよ」
「だって、とても助からない作戦だったから……」
アルティアの態度は大げさなのじゃなくて、まったく妥当なものだった。それぐらい、俺は危ない橋を渡って、渡りきった。
「これからはもう少しお前を安心させてやれると思うよ」
「はい……お兄様……」
病気がちな妹のためにも、もっと風通しのよいところに引っ越したいな。
そうか、その手があるな。
俺は表向き、妹の療養を兼ねてという届け出をして、屋敷を村の高台に変えた。
地元での俺の評判もかなり上がっていたので、工事はすこぶる順調に進んだ。
妹のためを思ってというのは事実だけど、同時に高台にすることで防衛機能を大幅に高めることができた。いざとなれば、ここに立てこもれば、戦うこともできる。
新しい建物は乾いたすがすがしい風が吹いて、アルティアも喜んでくれた。体調も以前よりよくなっているように思う。
それと、建物が完成した頃、もう一つ朗報が届いた。
砦をともに守り抜いた老将シヴィークが俺の屋敷にやってきた。
「砦が安定してきたので、ほかの者と交代して戻ってまいりました」
「久しぶりだな。また再会できてうれしいぞ」
「それで、もしかないますならば、アルスロッド様の与力として仕えたいのですが」
あくまでもシヴィークは領主に仕える身だ。厳密な意味では領主のその家臣である俺に仕えることはできない。なので、与力という形で、家臣の俺を補佐する役目につきたいというのだ。有力な家臣にはこういった与力がいてもなんらおかしくない。
「わかった。俺のほうは問題ない。兄上にお前から申し出てくれ」
「ははっ! ありがたき幸せであります! この老骨シヴィーク、アルスロッド様のために死ぬ覚悟です!」
許可は無事に降りて、シヴィークが実質的な俺の家臣となった。それはさらに俺の評判を高めてくれた。シヴィークも長らく砦を守り抜いていて、人望が厚かったのだ。
シヴィークとともに長らく戦っていた者たち数人も、俺のところに来てくれた。武勇を好む者にとって、今の俺に仕えることは価値あることと映ったようだ。
周辺に住む剣士の中には、俺の家臣になりたいという者も増えてきた。領主と直接の主従関係がない者は問題なく、自分の家臣に組み込むこともできる。
また、ラヴィアラのツテで、ラヴィアラの親戚などが俺の与力として仕えることになった。俺の活躍を聞いて、彼らも俺を頼ろうと思うようになったらしい。
とくにラヴィアラの母方に当たるエルフ一族が俺を支持してくれたのが大きい。ほかのエルフもそれに続いてくれて、郡内のエルフの勢力はほぼ俺の下についたようなものだ。
そういったことが重なったせいで、俺の勢力はこのネイヴル領において、領主の兄ガイゼルの次点と言えるまでに大きくなった。
もともと、中小の領主に仕える家臣だからな。村を三つ持っていればかなり大きいほうだ。そこに複数の同輩が家臣のようにやってきたのだから、俺の影響力が強くなったのは当然だった。
次回は夜の更新予定です! よろしくお願いします!