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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
新王擁立と摂政就任

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63 妻たち一堂に集まる

 フルールが遠慮がちに入ってきた。


「まさか、フルールまで来ていただなんて」

 産後、疲れてマウストに残っていたはずだった。王都までは遠いから当然の判断だ。


「はい、セラフィーナ様のお計らいで……」

 フルールは気丈な娘だが、その時も俺を出し抜く形になったようで、ちょっと戸惑った顔をしていた。夫に連絡しないというのは反則といえば、反則だからだ。


「黙って話を進めてごめんなさい」

「別に怒ったりしてないから気にしなくていい。どうせ、セラフィーナの悪巧みだろう」


「悪いことではないから悪巧みはおかしいわ。ただ、企てただけのことよ」

 セラフィーナは楽しそうに笑っていた。

 実のところ、こうやって俺を翻弄してくれるような妻がいて、ほっとする。


 身分が高くなればなるほど、こちらを恐ろしい者と考えて、距離をおくものが増えてくる。

 摂政にもなると、こっちが死刑執行官でもあるかのように怯えている者も珍しくない。こちらとしてはそんな態度をとられるほうがよほどイライラするのだが。


 俺はまず、長旅だっただろうフルールをそっと抱きとめ、あざやかなピンク色の髪をなでた。

「子供はどうだ? 元気にしているか?」

「はい、女の子でした。今は乳母に預けております。少しうるさいぐらいでマウストの乳母は手を焼いているようですが」


「そうか、マイセルにはまだ子供がいないようだけど、気が早いが、ウージュ家を将来的には継がせてもいいかもしれないな。もちろん摂政家の娘としても大切に育てるつもりだが」


「まさに気が早いですよ。まだまだ情勢は予断を許しませんから。前王の動きも気になりますし」

 そう言っていたけれど、フルールもほっとしたような顔をしていた。


「本音を言いますと、わたくしも王都に来たかったんです。だって、あなたがいるところで歴史がまわっているんですから。歴史が動くのを見ていたいんです」


「本当に、フルールは気丈だな。男だったら立派な武将になっていたのに」

 この子にもウージュ家の血が受け継がれている。みずからの領地を代々守り抜いてきた誇り高き血統だ。


「だったら今から戦士になる訓練を受けてもよろしいですよ。男しか戦士になれないなどという法はありませんから」

「戦死されると困る。それは勘弁してくれ」


 周囲から笑い声が起こった。


 さて、もうセラフィーナの悪巧みの目的がわかったぞ。


「こうやって、妻が一同に会する場を作りたかったというわけだな、セラフィーナ」

「ご明察ね。だって、ずいぶん、政治のほうにご執心で奥方を考える時間がとれなくなっていたようだから」


 くすくすとセラフィーナは笑う。その後ろからお菓子を持った女官たちが入ってきた。


「せっかくですし、後宮でサロンを開いてもいいんじゃないかなと思ったの。お姫様もほかの奥方にちゃんとごあいさつをされたいそうだし。かといって、ラヴィアラさんもケララさんも武官なので、なかなか時間もとれないし」


 ケララは名前を呼ばれて、少し照れ隠しのように顔をしかめた。ケララはまだ妻と厳密には定めていない。武官が妻というのは少しおかしなことだからだ。妻というより愛人と考えている者もいるかもしれない。

 現状、公式にはケララはヒララ家の当主の武官という扱いだ。完全に妻ということにすると、武官とバッティングしてしまうわけだ。


 ラヴィアラも似たところがあるのだけど、こちらは乳母子ということで、武官であり俺の一門というような立場なので、そのあたり、なあなあにしたところがある。


 あと、セラフィーナはわざと後宮と言ったが、それは王しか持たない者なので、本当は不敬に当たる表現だ。いくらなんでも妻の冗談を密告する者はいないだろう。


 ルーミーもあらたまったような顔をしていた。

「はい、わたくし、ぜひ皆様と仲良くしたいと思っておりますの。フルールさん、あなたのすぐれた洞察力はセラフィーナさんからもお聞きしておりますわ!」


 さっと、フルールの手をルーミーはとった。

 二人が並ぶとルーミーのほうが妹のように見える。


「はい、今後ともよろしくお願いいたしますね。お姫様とは身分が違いすぎて恥ずかしいですが」

「そういう話はなしにいたしましょう。摂政家を支える役目はみんな同じなのですから」

 ルーミーが天真爛漫な微笑をたたえた。


 その横で、ケララとラヴィアラが運ばれてきたお菓子をお皿に分けたりしていた。


 こうして、みんなが並んでいるのを見て、

 俺の妻はみんな頭が切れる人間ばかりだなとあらためて感心した。


 摂政家を支えてもらうというのも、言葉だけのものとは思っていない。妻同士が外交を行うことも有史、珍しくない。最低でも交渉の線が広がることはありがたいことだ。


「なかなか、感じ入っていらっしゃるようね。私のアイディアも悪くないでしょう?」

 セラフィーナはどうだといわんばかりの顔をしている。


「そうだな。たしかに政務ばかりに気をとられていたし、たまにはこういう時間もいい」

「お仕事は今日はとりやめにしてね。みんなでお菓子を食べながら、語らいましょう」


「まだ子供たちも小さいけれど、いずれ、ここに呼ぶことができたらいいな」

「そうね。本音を言うと、私の子供にあなたの跡を継いでほしいけれど、そこはなりゆきだわ。どうせ、もっと子供も増えるだろうし」


 牽制するように、セラフィーナが俺を上目づかいに見つめてきた。

「ま、まあ、成り行きだな。そういうのは……」


 それから、セラフィーナは背伸びをしてぼそぼそと耳打ちしてきた。

「お姫様との初夜はまだなのよね?」

 こんなところで言うな。


「まだだ。そういうのはもっと後でいい」

「だからって、あまり愛人を作ってややこしいことにしないでね」

「それはだいじょ――――ほどほどにする」


 ヤドリギのことがあった手前、強くは出られなかった……。

次回は1月1日の更新予定です。来年もよろしくお願いいたします!

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