57 銃を作った男
「私が作った武器を使えば、戦争に勝てます。狩りも便利にできます」
ひげ面で目のらんらんとした中年男だった。
学者というより技術者といった顔つきだ。新しい攻城武器を誰かが考えたとしても、おかしくはない。
あらためて、名前を確認した。
オルトンバという名前だ。変な名前だなと思ったら、ドワーフか。そういえばかなり背が小さい。ドワーフは大人でも背が低い者が多い。ケララはいろんな血が入っているからなのか、かなり長身だが。
「それは、どのようなものだ?」
「はい、名前は銃と申します。火薬の力で金属の筒から、硬い小さなボールを飛ばして、敵を撃ちます」
「弓矢とはどのように違う?」
「まったく違います。風の影響も受けづらいですし、殺傷能力も高いです。それに熟練者になるまでの時間も、弓矢よりはるかに短いかと。ただし湿ってしまうと着火しないので、雨に弱いのですが」
ファンネリアの犬耳が少し動いた。金になるとでも商人の嗅覚で気づいたのだろうか。
「わたくしはファンネリアと申します。その武器、どうして作ろうと思ったのですかな?」
「私んとこのドワーフ集落は、よく山賊の略奪を受けることがありましてね、だいたい撃退してやるんですが、男衆だけで夜も見張りをするのは大変です。そこで、女衆や子供でも戦えるような武器を作れぬかと考えました」
オルトンバは話を続けていく。
「私の本職は鍛冶なんですが、集落では昔から火薬を使った威嚇や攻撃は行っていました。山仕事で火薬は割合よく使っていましたので。それで、これを使って、何かできないかと考えたのです」
俺も俄然、興味が湧いてきた。
「最初は全然上手くいきませんでした。暴発して死にかけたこともあります。しかし、どうも私の職業はがこれに向いてたらしくて、開発が大幅に進展しました」
職業という言葉を俺は聞き逃せなかった。
「待ってくれ。お前の職業はいったい何だ?」
「はい、かなり特殊なものなので、信じていただけないかもしれないのですが――クニトモシュウというものです。どうも、鍛冶に関する職業らしいです」
――国友だと!?
覇王が吠えた。
おい、ノブナガは何か知ってるのか?
――国友というと、鉄砲鍛冶の土地だ。つまりな、銃という武器を作っていた場所だな。
ノブナガの世界にその銃って武器があるのか。それは強いのか?
――強いも何も、その鉄砲でこの覇王は騎馬軍団を壊滅させたことがある。騎馬軍団は接近しなければ戦えぬ、そこを鉄砲で各個撃破していったわけよ。鎧すら貫いて敵は絶命した。大将首もいくつも取ったわ。
そんなものがあるなら、とっとと教えろよ……。俺の職業なんだろ……。
――教えたところで、覇王も作り方を一から指導できるほどには詳しくないぞ。だいたい口頭で言っても伝わりきらぬだろう。
それもそうか。俺だって、剣を自分で作れと言われたら、それは無理だと答えるだろう。
「わかった。オルトンバ、お前は採用とする。ただ、役人というよりその銃というものが気になる。それを俺たちに指南してくれ」
「御意です。では、この場でお願いするというのもおかしいのですが、私の集落の徴税管理人をもっとまともな奴にしてくれないでしょうか……? あまり素行のよくない奴で、税を取り立てに来た時には必ず宴会を開くことを要求して、それも別の税みたいに負担になっております……」
「それも心得た。お前の働き次第では、税を半分免除する集落にしてやってもいい。今度、鉄砲とやらを持ってきてくれ」
俺はオルトンバが出て行ったあと、にやにやしていた。
「さすが王都近辺は人口が多いだけあって、不思議な職業の者もいるな」
「そうですね、私もアケチミツヒデという面妖な職業だったので、他人事ではないというか、親近感は覚えます」
そういうケララは真顔だが、これは仕事の時の顔だろう。
面接は数日に分けて行われたので、翌日の面接後にオルトンバにもう一度来てもらった。
たしかにオルトンバの持っていたものは、金属の筒だった。
弓矢の的を用意してほしいと言うので、俺は早速屋外の弓の修練場に連れていった。
「今日はよく晴れていますし、上手く成功するかと思います」
「うん、どういうものか見せてくれ」
一般の弓兵の訓練と同じ距離をとらせた。オルトンバいわく、もっと遠方でも狙えると言っていたが、弓と同じ条件にしたほうが、違いもわかるというものだ。
「私はあくまで鍛冶なんで、狙いを定めるのはあまり得意じゃないんですが……それでも、これだけ近ければ、大丈夫だと思います」
後ろの縄に火をつけると、オルトンバは筒を的に向けた。
「ああ、そうそう、おっきな音がしますんで、耳はふさいでおいたほうがいいかもしれませ――」
――パアァァァン!
オルトンバが言い終わる前に甲高い音が鳴った。
耳の奥で音がキイイイインと変に響いている。神殿が悪魔の仕業だとがなりたてそうな代物だった。腰を抜かしている者までいた。
だが、大事なのは、その結果だ。
的の隅に親指ほどの穴が空いていた。
兵士が調べると、その奥の固めた土にとがった弾が刺さっていた。
「どうでしょうか? 今の倍、離れても十分に致命傷になる傷は負わせられます。なんなら、鎧を置いて試していただいてもけっこうです」
「オルトンバ、お前の集落の税、今年から半分でいい」
俺はその場で言い放った。
この武器が手に入ることと比べれば、安い買い物だ。
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