51 新王の即位と新摂政
俺は抵抗勢力のいなくなった王都に一万三千の兵で入った。
先頭はシヴィークの部隊だ。
生まれながらの領主でもなんでもなかった俺には乳母子のラヴィアラしか、生え抜きの臣下というものがいなかった。それ以外で最も長く俺に仕えてくれたのがイヴィークだ。
なので、その栄誉にあずからせてやろうと思った。
そのあとに親衛隊の者たちが続いて、俺の馬の番になる。
――特殊能力【覇王の風格】獲得。覇王として多くの者に認識された場合に効果を得る。すべての能力が通常時の三倍に。さらに、目撃した者は畏敬の念か恐怖の念のどちらかを抱く。
能力が三倍!? いよいよ、無茶苦茶な強さになってきたな。そんな指揮官、どこの国にもいないだろう。
しかし、摂政となるからには、それぐらいのほうがいいのかもしれないな。
俺がこの国を動かしてやるぞ。
見物人が道の両側には集まっている。王都だけあって、その数も生半可なものではなかった。ひそひそと声が聞こえてくる。
「あれがアルスロッド・ネイヴル様か……」「なんとも精悍な若者だ」「戦争の天才らしいな」「いやいや、むしろ領地をおおいに富ませたというぞ」
評判は上々だ。入城にもそれなりに気をつかっているからな。
俺の後ろからは明らかに豪華で物々しい馬車がやってくる。
そこに皇太子ハッセと家族が入っている。あまり王族を庶民に見せるべきではないし、暗殺者が弓矢でも射ってきた場合、俺なら防げてもハッセは無理だ。だから、馬車に入れてしまうことにした。
王城では事前に確認をとっていたが、城に残っていた家臣たちが平伏して俺たちを迎え入れた。
どちらの王統にも強く結びついていない官僚や役人、貴族たちもいる。彼らは純粋にハッセを新しい王と認めたというわけだ。
それとパッフス六世ににらまれていて、隠れていたような連中もその中には含まれている。ハッセの父親だったグランドーラ三世の時代に活躍していた者も復権できると思って戻ってきているのだ。
ハッセはその日はなかば儀式的に城に入った。
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翌日、ハッセは朝から全国で最も権威のある王都のサーウィル大聖堂にて、即位式を行った。
扱いとしては、パッフス六世は王位を僭称していただけで王ではなく、父親グランドラー三世のあとを継いだということになる。
こうして、新王ハッセ一世が誕生した。
――やはり上洛するというのは楽しいものだな。覇王も京に入った時は実に得意だった。
オダノブナガもいつも以上に楽しそうだ。
だけど、お前は何度かピンチにもなってるんだろ。そうならないように気を付けたいとこだ。
――少なくとも、そう遠からずお前はハッセとかいう王と対立するだろう。王は王で権力を握りたいだろうからな。その時、どう対処するかでお前の命運も決まってくるぞ。
そりゃ、いつまでも蜜月が続くってこともないか。
――しかし、この覇王の時とは少し様子が違うところもあるな。パッフスとかいう前王が生きている。となると、ハッセという者はお前を頼らざるをえんだろう。覇王の場合は、義栄という前の将軍があっさり死んだからな。
そうか。俺がパッフス側につけば、それだけでハッセは危機というわけか。
そこは意識しておこう。カギになるかもしれない。
王の即位に関する祝賀会などが終わった翌日、俺は摂政に正式に任命された。
この地位は、王家が力を失ってからは王家をバックアップした有力者に与えられてきた。もちろん、ネイヴル家でそんな地位についたのは初だ。
「サーウィル王国の発展のために力を尽くします」
そこはウソは言ってない。
ただ、その発展した国をいつかはいただくというだけのことだ。
「摂政殿、望みがあればなんなりと言ってほしい。早く、王として願いをかなえてやりたいのだ」
新王は実に楽しそうだ。
「では、いくつかの都市を直轄領として賜りたいですね」
富を自分のところに集める。そうすれば、自然とほかの部分も上手くまわるはずだ。
「わかった。それと、新しい領主の任命についてなのだが、私の案を見てくれぬか?」
「はい、それこそ摂政のつとめですから」
思った以上にハッセと彼の親の代から仕えてきた者が交じっていた。
この男、自分の立場をわかってないな。
「陛下、もっと戦争や政務で長らくお仕えしてきた者を優遇すべきですね。今になって戻ってきた者は、もしも陛下が王都を追われるようなことがあった時、ついてくるでしょうか?」
「なるほど……。摂政殿の言うとおりであるな……。しかし、あまり摂政殿の臣にばかり土地を与えるわけにもいかぬのだ……」
「ですが、王都近辺に信頼できる者を配置せねば、パッフス殿が攻めてきた時、危険です。今は平和な時代ではありません。戦時体制ということをご理解ください」
「そ、そうか……。言われてみれば……。戦争に覚えのない者が近くにいても壁にもならぬな……」
新しい領主の配置はかなり俺に都合がいいように変えられそうだ。
ハッセを納得させるような言葉が自然と頭に浮かぶ。これも【覇王の風格】とかいう力のおかげかもしれない。
今、王都の民は多くが俺を覇王だと認識している。決してハッセじゃない。
ほかにも、いくつか重要な問題の諮問を受けた。俺はつらつらとそれに答えていった。
立場上、国政を無視することはできないので、しょうがない。自分の権益を強めることと上手く両立していかないとな。
しかし、その中に、少々意外なものが混じっていた。
「あなたのおかげで、私は王になれ、あなたを摂政にすることもできた。あらためて礼を言うぞ」
「いえいえ、最初からそれを目指してここまで来たのですから」
いったい何を言うつもりだ?
「なので、これで心置きなく縁談を口にすることができるようになった」
「縁談?」
「物ごころついた時には、もう流浪の日々を送ることになった私の妹がいてな。十三歳になる。この子を摂政殿の正室にしていただけないだろうか」
えええっ!?




