47 侯爵拝命とラッパの総帥
残りのシャーラ県内の抵抗勢力を駆逐して、俺はこの県も統一した。
この戦争の殊勲者は海上作戦を行ったソルティス・ニストニアだ。隣接する二郡と飛び地数か所にわたる所領を与えた。
俺はマウストに戻ると、シャーラ県を平定したことを皇太子ハッセに報告した。
「後は王都までに立ちふさがるのはメルヤ県と城南県のみです。メルヤ県はメルヤ家、城南県はサンティラ家を中心に有力な領主が集まっています。それでも、我々の敵かといえば、たいしたことはありません」
王都の周囲は東西南北、四つの県があって、王都と共に、王国でも有数の人口過密地帯となっている。
ただ、一つの勢力が県全体を支配しているということはなくて、たいていの場合、王家とかかわりの深い重臣層が所領を少しずつ与えられて、ばらばらに支配している。
昔は、大領主が大規模な反乱を起こすという前提がなかったので、重臣はそこまで多くの土地を与えられてなかったのだ。大領主の反乱はほかの大領主と王の直轄軍で倒すことができた。
だが、各地の領主がまったく王の言うことを聞かなくなり、直轄軍の将たちも自立傾向を示すようになると、王家の軍事力はほぼゼロになってしまった。
つまり、王家は有力などこかの領主に頼って、その体裁を保っている。
「でかした! 王都に入るのは時間の問題となってきたな!」
シャ-ラ県を統一したことで王都への道のりは大幅に近づいた。
「現在、城南県の各領主に味方につくよう働きかけております。これで味方が増えれば、一息に王都に入ることも可能でしょう」
王都は軍事的に守備がしづらいのだ。かつては城塞都市のようになっていたはずだが、人口増加とともに、その外側にも人が住むようになって、城塞の一部が破壊されたりしている。
かつても城塞の外側で守備をして、それで防げないなら、とっとと地方に逃げるというのが、これまでの数代の王のあり方だった。
もし仮に王城で徹底抗戦をしようものなら、王都は壊滅する。そのような判断をした者を王都に住む者は王とは認めないだろう。
「もはや、こちらが勝ったようなものだな。従兄弟のパッフスは王位を譲ってきたりせんものか。無駄に臣民の命を落とさせるべきではない」
すでに王になった気でいるな。だが、おそらく王になる分には問題はないだろう。
「今のところ、まだ王は全力でこちらの兵を防ぐつもりのようです」
「ふん、往生際の悪い奴め……」
「ですが、それはあくまでも王の意図でしかありません」
俺はいくつかの書状を王の前に出した。
「じわじわとこちら側に降ろうとしている者が増えています。こういった者が増えれば、やがて王も諦めて遠方の領主を頼って逃げるでしょう」
「うむ! よきかな、よきかな」
「ぜひとも、この流れが加速するように、褒美や所領安堵をちらつかせて、こちらに寝返るように仕向けましょう。一方で、王にも、ご譲位いただけるようにお願いをいたすつもりです」
「そうか、そうか!」
本当に上機嫌だな。王になることが現実になりつつあるからしょうがないか。
「だが、褒美であれば、まず、そなたに与えねばならんな」
「それはありがたきことです」
「もはや、これだけの県を支配している領主は辺境地帯以外ではそなた程度しかおらん。伯爵ではなく、いいかげん侯爵を名乗られよ」
たしかに、敵対する相手を威圧するためにも、侯爵になるのは効果的な方法かもしれない。
「わかりました。謹んで拝命いたします」
「それと、また、おめでただそうだな。側室殿がご懐妊されているとか。よいことだ」
フルールがおめでただと先日告げられた。
兄と姉のようにすくすく育ってくれればいいが。
「では、王家に伝わるままごと道具をやろう。木で緻密に作っているから、野菜も料理も本物を縮めたようだぞ」
「それも、ありがたくいただいておきますね」
俺はフォードネリア伯からフォードネリア侯という呼び名に変わった。城下などでは、水に囲まれた城に住んでいるから、水城侯などとも呼ばれているらしい。
あと、もう少しやらないといけないことはある。
俺が夜に城の裏庭に出ると、十匹を超えるオオカミが集まってきた。
別にペットではない。もっとも、子飼いと言えなくもないが。
ラッパの者たちだ。多用しているうちに、次第に数が増えてきた。今ではファンネリアから離れて俺の直轄の将となっている。
「シャーラ県の中小領主たちが俺に服従する気があるのか探ってこい」
オオカミの一匹、とくに毛並みのいいものが前に出してきた。
「いいぞ。しゃべってかまわない」
そう言うと、そのオオカミは獣人に姿を変えた。
まだ若い女のワーウルフだ。髪は邪魔だからか、肩に少しかかる程度のところで切り揃えている。
「なんだ、ヤドリギ?」
本名は俺も知らない。
「明らかに不要と判断できる者は始末してもかまいませんか?」
「ただし、二人までだ。いや、むしろ先に膿は出してしまったほうが安全か……。好きなようにやれ」
「御意」
ヤドリギは短く言った。
「おそらく、シャーラ県の者たちはまだ自分の置かれている立場を理解しておりません。もし、メルヤ県からの軍勢が来れば、そちらに従おうと思っているでしょう」
「だろうな。王都に入る前に沈静化させておきたいところだ。誰か治めるのによい者はいないか?」
「その県が最前線ということであれば、シヴィーク殿がよいかと」
「そうか、考えておく」
いつ、戦火が起こるかわからないところのほうがあいつの性にもあっているか。たしかに間違ってはいないし、シヴィークなら妬む者もいないだろう。
ヤドリギはオオカミに戻ると、各地に散っていった。
皇太子はすぐにでも王都に行きたいだろうが、マウストへの帰り道で反乱が起こってはまずいことになるからな。
その後、俺はシヴィークをシャーラ県五郡を有する子爵に任命した。
また、新キャラが出てきました。そろそろ王都を視野に入れて動きます!




