46 古い軍隊と新しい軍隊
状況が整ったので、皇太子のハッセに、シャーラ県および王都までの道沿いにある県の領主たちに、自分に供奉せよという命令を出させた。
シャーラ県の領主はアントワーニ家を含めて大半が、俺に侵略されてたまるかとこれを蹴ってきた。それでいい。この戦で、シャーラ県を統一してみせる。
親衛隊の人数もかなり増えてきていた。
赤熊隊と白鷲隊だけでは部隊がふくらみすぎているので、黒犬隊も増設した。
黒犬隊の隊長にはブランタール県出身の軍人、ドールボーを起用した。ライカンスロープの男で、槍術の道場をもともと開いていた。その後、白鷲隊に入って、三ジャーグ槍を誰よりも先に使いこなした。
「お前たちはオレの兵ではない。これから王になられるお方の兵だ。俺はあくまでも司令官だ。そのことを胸に刻んで戦うように」
「「おおっ!」」
よく揃った声だ。やはり、俺は戦場が好きらしい。さすがに最前線に出るわけにはいかなくなってきたが。
「皇太子に刃向かう者は血祭りに上げろ! 武功には必ず報いてやる!」
「「おおっ!」」
こちらが強兵ということがわかっているのか、シャーラ県側は小さな砦などを放棄して、アントワーニ家の本隊のところに合流させる手を取った。各個撃破されてはどうしようもないと判断したのだろう。
敵の中にはシャーラ県のほかにもほかの県から援軍が来ているそうだ。でないと、数が多すぎる。兵力はこちらが八千、向こうは六千五百。かなりの援軍が入っているだろう。
逆に言えば寄せ集めの軍隊ということだ。足並みを乱してやれ。
俺はすぐには仕掛けない。
数で劣っている相手も対陣する。
そうして、にらみ合いが起こっている間、敵の領主に対して、裏切った場合にその労に応える旨の書状をとにかく送った。
とくにアントワーニ家の重臣筋と、独立している中小領主だ。
本当に裏切るかどうかは、この際どうでもいい。疑心暗鬼に陥ってもらうのが目的だ。隣の連中が寝返るのではないかと考えながら戦えば、兵は自然と弱くなる。
「アルスロッド様、珍しく今回は待ちの姿勢なんですね」
ラヴィアラに不思議そうに訪ねられた。
「お前、俺が気が短いとでも思ってるのか?」
「少なくとも、籠城している敵をじっくり攻めることはしないでしょう?」
「俺たちが待っている間にほかの部隊は攻めてるから問題ない。相手はそのうち待てなくなる」
「あっ、そうでしたね。海からの攻撃もあるんでした」
そういうことだ。八千というのは陸路からの兵だ。
ソルティス・ニストニアがアントワーニ家の海上拠点、トービエを攻めている。
トービエを落とせば、そこを拠点に北上して、アントワーニ家の居城である俗称、県中城に迫ることができる。
海上作戦でニストニア海軍が負けることはまずないから、トービエを失陥させることまではほぼ確実にできる。
そしたら、アントワーニ家は居城に戻るしかなくなる。
だが、こちらの大軍を前に全軍撤退なんてことはできない。
一度、正面からぶつかって、こちらを退かせるしかないと判断する。
そこを叩きつぶす。
にらみ合うこと四日目、トービエが落ちたことを伝令が伝えてきた。
俺はすぐに各将を集めて、軍議を開く。
「敵は攻める以外に手がなくなった。突撃を行うだろうから、まず弓兵は付け城から集中して敵に射かけろ。その後に精鋭部隊は槍でぶつかっていけ。この勝負、敵が戦力と兵力を同じものと考えている限り、負けることはない」
一般に、戦力は兵力が大きいほうが強い。
だが、兵士一人ひとりの能力を訓練と武器で高めていけば、兵力以上の戦力を生み出すことができる。
そして、兵力で劣るにもかかわらず、勝ち続けるなら、敵はこちらの軍を恐ろしい者とみなす。
――楽な戦だな。負ける要素などない。
オダノブナガが声をかけてきた。
はっきり言って、王都に入るまでの間に苦労するつもりはない。むしろ問題なのは王都に入ってからだ。敵だって、そこでやっと連携して攻めることを考えるだろう。
王都にたどりつくまでは、結局、どこの領主も、他人事なのだ。ほかの領主が王に近づいて初めてそれを除かねばならないと利害が一致する。
通路の敵を倒すだけなら、俺に勝てる者は残ってない。
――そうであるな。まあ、お前の部隊の強さを見せてやれ。
「敵が退いたら、そのまま蹂躙しろ。向こうの当主の首を取った者には三郡やろう」
威勢よく将たちは答えた。
●
そして、予想通り、敵は正面から攻め込んできた。
なんとか、俺たちが退却すれば
――敵は組織的な戦いを十分にやっていない。部将が個別に指揮をとって、ばらばらに動いているだけだ。あんなものではどうしようもあるまい。
オダノブナガが喝破していた。つまり、そういうことだ。
敵の軍隊は古い。だから、新しいものに敗れる。
高台にある付け城にいるラヴィアラが「全軍撃ちなさい!」と叫んでいた。
それと同時に赤い大きな旗を下す。
同時に矢が一斉に射かけられる。
遠方まで飛んだ矢が攻めこんでくる敵の数を削る。
それが三度ほど続いたら、槍隊が正面から突っ込む。
三ジャーグの長い槍が敵の脳天を破壊する。
仮に重い鉄兜をかぶっていようと、兜ごとへこませて、その場に転倒させる。
敵の勢いが止まれば、後は純粋に数が多いこちらが完全に有利になる。
戦局は一方的なものになっていた。
「ケララは小領主の部隊を意図的に狙ってるな」
そいつらが後ろに下がれば、ほかの敵兵も我先にと下がろうとする。指揮は利かなくなる。
ノエン・ラウッドやマイセル・ウージュの部隊も敵を順調に追いやっていた。
「さてと、敵の総大将の首、とれるかな」
――戦場にて、総大将が戦死する可能性は極めて低いものだ。あまり期待せんほうがいいぞ。
情報提供、ありがとうな。
結局、アントワーニ家率いる敵軍は完全に潰走して、居城に戻った
しかし、とても防備ができないということで、これも捨てて南の隣県を頼って、逃げていった。
残りのシャーラ県内の抵抗勢力を駆逐して、俺はこの県も統一した。
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