4 謎の職業大活躍
本当にウソのように体が動いた。
相手が革の鎧を着ていようと、鉄の鎧を着ていようと、隙間をめがけて、次々に刺し貫いていく。
その動きにまったくの無駄がない。
明らかに俺の意思で動いてるのに、俺の体じゃないみたいだ。
おそらくだけど、職業の持つスペックに俺の心が追いついていないんだろう。こんな戦闘体験、はじめてだからな。
立て続けに十人の兵士を斬り殺した。おかげで、その周辺は少しだけ安全になった。
「アルスロッド様、ここまで剣、上手くなっていたんですか……」
「俺も信じられないけど、とにかくこのまま突っ込んでいくからな! 最前線に出る!」
職業オダノブナガが魔法剣士に匹敵するものだと信じて、向かう。
こっちを攻め落とすのが目的なんだから、敵はいくらでもいた。けど、はっきり言って、どいつも動きが遅くて、とても当たるような気はしなかった。
――当然のこと。覇王を止められるのは覇王たる資格がある者のみ。織田信長を殺した明智光秀も三日天下とはいえ、天下を取ったのだから。
やっぱり内なる声がするな。職業に関係する声なのだろう。別に意識を乗っ取られる気配とかはないから、何でもいい。
多分、どっか異世界の英雄の名前か何かなんだろう。感覚的にわかってきた。
まあ、いい。今、必要なのはここから生きて帰ることだけ。
俺はラヴィアラのそばに行って、いたわるように肩を叩いた。
「ここで待ってろ。下まで降りてくる。絶対に戻ってくるからな」
「わ、わかりました……」
ラヴィアラは少しだけ戸惑っていたようだが、わかったと言った。多分、もっと俺のそばで戦いたかったんだろう。
さらに進撃。
門へと続く階段を駆け上がってくる連中に飛び込んで、次々に斬り捨てる。倒れた敵に当たって、その敵がまた倒れる。よし、上手く雪崩れみたいになってくれてるな。
すでに五十人は殺してるだろうな。あと、数倍殺せば敵も怖気づくだろう。このままじゃ無理だと思わせられればこちらの勝ちだ。
それぐらいなら、十二分にやれそうだ。体に疲れはまったくない。
「門に上がってくる奴らはこのアルスロッドがつぶす! お前たちは砦に入り込んだ者を皆殺しにしろ!」
その声に浮足立っていた兵士たちも生気を取り戻しだした。
「そうだ、やれるぞ!」「アルスロッド様がついておられる!」
よし、頼むぞ。敵の数が増えなければ、殲滅することもできるはずだ。
俺は門の前で敵を斬り殺す。
向こうは階段を上がってくるので、時には蹴り倒す。
「なんて、乱暴な戦い方をする奴だ!」
攻めきれない敵のほうが悪口を吐いた。
乱暴? 知るか。命懸けの戦いにルールも何もあるか。そっちだってこっちの兵士を裏切らせてただろ。
後ろの門が閉まる音が聞こえた。なんとか応急処置をして門を修理できたらしい。
あとは前方の連中を一掃すればひとまず状況は打開できる。
こっちから突っこんでいく。
俺の職業の力、見せてやる。
どこに剣を突けば殺せるかがよくわかる。
どけ、凡百たち。
俺はこれでも子爵の血を引く男――いや、覇王の力を受け継ぐ男だ。
敵の悲鳴が続く。とにかく、続く。
剣を振るうたびに血しぶきが飛び散る。
魔法で火の玉を飛ばそうとする奴のところには、その前に近づいて刺し殺した。
槍で突こうとする奴はその上に飛び乗って、そこからジャンプしながら首を斬った。
俺一人の力で、だんだんと戦況が変わっていく。
数えてないからわからないが、俺一人で百五十人は殺したと思う。
これで、敵を追い返すぐらいのことはできたんじゃないか。詳細はわからないが、確実に職業のおかげだろう。でないと、二十人も斬ったところで殺されていた。
砦のふもとまで来た。もう、ずいぶんと敵が逃げ腰になってきているから、ひとまずこれで砦に戻れそうだな。
しかし、そこで聴き慣れた声が耳に入った。
「ま、まだやれますからね……」
ラヴィアラが門の外に出て戦っていたのだ。
しかも、敵に囲まれて、服もずいぶん破れている。かなり無茶をしたらしい。弓矢が得意なのに、わざわざ接近戦を仕掛けている証拠だ。
「アルスロッド様のところまで参るんですから……」
バカ! 砦で待ってろって言ったのに! あいつも待ってるって言ったのに!
しょうがないか。
俺が産まれた時から、少しだけ大きな赤ん坊のあいつが隣にいたんだもんな。
俺は剣を持って、全力で突っ込んだ。
「ラヴィアラに手を出すなっ!」
こんなところでラヴィアラを失ってたまるか!
敵兵がラヴィアラに襲いかかろうとする前に――
俺は思い切り、剣を横に薙いだ。
――特殊能力【覇王の矜持】発動。自分の所有物を守ろうとした時、攻撃力が二倍に。
さらに二倍って……またチートな特殊能力が生まれてるな……。
それなりに剣を練習してきたけど、つまり通常の四倍の威力かよ……。
力の影響が強すぎるのか、振るった剣が赤く発光している――と思った時には、敵兵の体が胴体から半分になっていた。
背負うもののなくなった胴体から下が、ゆっくりと倒れていく。
「四倍って、やっぱりありえないよな……」
残っていた敵兵も露骨に恐怖を顔ににじませていた。その時点でこっちが勝ったようなものだが、ラヴィアラを守るために万全を期させてもらう。
「ひえぇ……ば、化け物がい――」
そのまま、残りも斬り殺した。斬れ味が少し鈍っていた。今の特殊能力は本当に一時的にしか効果がないらしい。一撃でも充分なものだけど。
「ラヴィアラ、大丈夫か?」
「アルスロッド様……すいません、どうしてもアルスロッド様を一人にするのが怖くて……」
「まあ、説教は後だ。よかったな、無事で」
そっと、ラヴィアラの背中に手を伸ばした。
あったかい。ちゃんと生きてる。ラヴィアラを守ることができた。
「よかった……アルスロッド様が生きてて……」
逆にラヴィアラに生きててよかったと泣かれた。
「おいおい、危なかったのはそっちだろ……」
「だって、一人で門の外に出て門閉めろって……もう、殺されちゃうんじゃないかって……不安で不安で……」
言われてみればそうか。普通に考えれば一人で出ていくだなんて自殺行為だもんな。
「悪かったよ。せっかくだし、落ち着いたら、回復魔法をかけてくれ」
ぽんぽんとラヴィアラの背中を叩く。
あれ、でもさっきの特殊能力、「自分の所有物を守ろうとした時」とか頭によぎったような……。
そっか、俺にとって、ラヴィアラは幼馴染であって、所有物なのか……。
妙に恥ずかしくなって、それを隠すようにさっきより強く抱き締めた。
「アルスロッド様、痛いですよ」
「ラヴィアラを失いたくない」
「ラヴィアラがどこにも行くわけないじゃないですか」
次回は昼過ぎに更新予定です。よろしくお願いします!