20 親衛隊始動
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それでセラフィーナの案内を誰にさせるかという話に戻るのだが、やっぱりラヴィアラ以外のほうがいい。
愛人に妻の案内を頼むというのもおかしい気がするし、ラヴィアラは俺の腹心なわけで、俺が忙しいならラヴィアラだって忙しいに決まっている。
と、そこに適任者がやってきた。
「お兄様、案内ならこの私がやるから」
アルティアがゆっくりと歩いてきた。昔と比べるとかなり元気になっていて、今回の婚儀にも出席できたほどだ。俺が村半分の領主だった頃には考えられないほどの回復ぶりだ。
たしかにセラフィーナがネイヴル家に嫁いだと考えれば、アルティアとも親族同士だ。おかしなことはない。
「わかった。じゃあ、アルティアに頼もう。お願いするぞ」
「はい、お兄様、私もセラフィーナさんといろいろお話ししたかったし」
「よろしくね、アルティアさん」
セラフィーナも丁寧に頭を下げた。アルティアもそんなに友達が多いほうではないし、これでセラフィーナと仲良くできたらいいな。
「アルティアさん、子を授かるのに霊験のある聖者の廟はこのあたりにあるかしら?」
「えっ……子供……? ないことはないと思うけど……」
そのやりとりが聞こえてきて、また家臣の中で笑いが起こった。
はっきり言われると恥ずかしいな……。子供ができないのも困るんだけど……。
「き、気を、と、取り戻して、政務に参りましょう……」
ラヴィアラもちょっと動揺してるな。それを言うなら、気を取り直してだろ。取り戻してどうするんだ。
「そうだな。ラヴィアラの言うとおりだ」
それからラヴィアラは小声で俺にだけ聞こえるように言った。
「ラヴィアラも、アルスロッド様の赤ちゃんほしいんですが……」
「そのうち、できるさ。焦るのもおかしいだろ……」
たしかに伯爵の後継者がいないままというのは、あまりいいことじゃないのだ。でも、まあ、こればっかりはしょうがないんだよな。
政務に集中したのは本当だ。たまっていた仕事をこなして、夕方には次の攻撃対象を決める軍議を行った。ラヴァイラやシヴィークだけでなく、セラフィーナも同席させている。
俺はテーブルに地図を広げながら話をする。
「次に攻めるべきは南にある聖堂郡だな。ここはほかもう一郡を領している聖堂騎士団というのがいる。実質はそこの団長が世襲制になって、そいつが権益を握っている」
「聖堂郡――ああ、フォードネリア大聖堂がある郡ね」
そのセラフィーナの言葉で正解だ。
フォードネリア県の中でも最大の神殿である大聖堂があるため、そこは古くから聖堂郡と呼ばれていた。古来はそこがフォードネリア県の政治の中心でもあった。
「ここを取れば、フォードネリア県の統一も目前だ。絶対に屈服させてやる」
「こちらが動員できる兵力を考えればまったく問題ありません。そうラヴィアラは確信しています」
胸を張って、ラヴィアラが言った。
「私も老骨の経験からして、恐れることもないかと」
シヴィークも同意した。
――そのとおり。とっとと滅ぼしてやれ。そもそも、こちらがこれだけ巨大化しているのに、まともな外交努力を果たそうともしてないような奴が強いわけがない。大きな敵と戦うという発想を持っておらぬのだ。
オダノブナガの声も納得のいくものだった。
せめて、ほかと同盟して戦うなり、こちらと同盟を結ぼうと画策するなり、やるべきことがあるはずだ。大きな勢力と対峙するという意識がないままの連中なのだ。大聖堂を守っているという誇りだけで数百年続いているような者たちだ。
「数の上でも、戦力でもこちらが上だな。けれど、わずかに気がかりなことがある」
俺の言葉が不吉だったのか、みんながこちらを心配そうに見つめてきた。
「ああ、負けることは万に一つもない。しかし、勝ち方にも俺はこだわらないといけないんだ。俺は野火ではなくて、伯爵だからな。戦った後に何も残らないというのでは困る」
「土地の略奪はこれまでも兵に禁じてきたかと思いますが。ラヴィアラも配下のエルフに狼藉は働かせてきませんでしたよ」
「ああ、そういうことではないんだ。まあ、こちらにも対処策はある。俺はわずかな気がかりを消せるようにしておく。それで、こっちの完全勝利は確実だ」
俺はその軍議の後、ほかの人間と個人的に作戦の確認を行った。
これについては、あまり広まらないほうがいいので、極力隠しておく。
――なるほど、お前たちもラッパを使うのか。
心の声が変なことを言ってきた。
ラッパ? なんで楽器が出てくるんだよ。
――楽器ではない。ああいう連中をラッパというのだ。しっかりと用意をしておいたのは偉いぞ。手駒は多いほうがよいからな。
それについては否定はしない。
力押しで押し切ることは多くの問題も生んでしまう。今はもっと効率よく勢力を広げておきたかった。
俺はまず聖堂騎士団に、伯爵にあいさつに来るよう書状を送った。
連中も貴族階級という扱いだが、団長が子爵に準じるものとされている。だから、伯爵よりは下ということになる。服従を誓うなら、頭を下げにやってきて然るべきなのだ。
頭を下げるなどということは考えてなかったが。
聖堂騎士団は書状を無視した。成り上がりの伯爵をどう扱えばいいか、古臭い者たちにはわからなかったのだ。それにこちらに屈服すれば、フォードネリア大聖堂に関する権益も取り上げられる。とても認められないだろう。
俺は七百の兵で聖堂郡に進撃した。
今回の目的の一つに赤熊隊と白鷲隊がどれだけ働くかを見ることがあった。
よく統率のとれた部隊が、どういう活躍をするのか。そこを見極める。
結果は上々だった。
それぞれ五十人ずつからなる赤熊隊と白鷲隊は敵をほぼ壊滅させた。敵のほうが倍程度はいたはずなのに、乱雑な敵軍は手も足も出なかった。
陣の中、俺のそばに控えているラヴィアラも上機嫌で戦況報告を聞いていた。
「敵は連携がちっとも取れていませんね。昔ながらの一人ずつが武勇を誇るような戦い方ですが、その割には技量も未熟です」
「騎士団は実のところ、独立した弱小領主の連合体だからな。統率のとれた動きはできないんだ」
――なるほどな。伊賀の地侍みたいな手合いというわけか。
オダノブナガが何か言っているが、イガというのは地名なのだろうか。
さて、初戦はこちらの優勢だ。
このまま攻撃を続けさせてもらおう。




