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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
天下統一へ

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167 降伏受諾

 俺は王都の包囲をゆっくり、ゆっくりと狭めていた。

 まるで真綿で絞め殺すようなやり方で。


 ほどよい飢餓状態を王都に作り出すことが目的だった。戦意も起こらなくなるだろうし、なにより王都の民を守れていないということになれば、ハッセの立場はさらに悪くなる。


 民を守ることは王たる者の義務だ。国が無数の小国家に分裂している時代とはいえ、膝下の王都の民すら救えないのでは王失格ということになる。


 とはいえ、本気で多数の餓死者を出してしまっては外聞が悪い。だから一般市民の王都脱出は認めていた。ハッセとそれに連なる者が逃げていかないように監視は厳しくやっていたが。


 俺は、ルーミーの名でたび重なる降伏勧告を行った。ハッセが恃◆たの◆みとする東部の領主たちも降伏するか、滅ぼされている。ハッセに味方する勢力は存在しない。自前の武力だけでは何も変わらない。


 ついに城のすぐそばまで付け城を築いて、敵を監視することになった。

 ルーミーも、ここで戦闘をやめないと総攻撃に入るしかないと最後通牒を送りつけた。


 総攻撃をすぐに実行するかはともかく、脅しにはなる。


 それでもハッセは沈黙を守っていた。意固地になっているというより、現実を直視したくないのだろう。サーウィル王国中興の祖と呼ばれるという望みは最悪の形で絶たれようとしているのだから。


 ただ、ハッセの沈黙とは裏腹に、王国の関係者たちは次々に王都を脱出していた。

 とてもこちらが政権をとった時に使おうとも思えないが、ここで殺したりすると逆効果なので、命は取らないでいた。


 そして、王都の完全包囲から五日目。

 王都の一人の官吏が俺のところに面会を求めてきた。


 竜人のヤーンハーンだった。



 せっかくだし、俺も即席の茶室にて、ヤーンハーンと応対した。

「こうやって、お会いするのはいつ以来でしょうか」

 ヤーンハーンは王都がいつもどおり、何も変わってないと思っているような、のんびりとした態度でいた。


「お前は王都を脱出しなかったんだな。たしかに、厳密には摂政である俺の家臣ではなく、王国の官吏だが……」

 俺とつながりの深い官吏は大半が王都を出ていた。早い者ではハッセが俺を賊とみなした時点で逃げていた。

 それも当然のことで、残っていればスパイ容疑をかけられかねないし、そうでなくても身に危険が迫ることは十分考えられた。


「自分が王都にいないと、商売のほうができませんからね。それに――」

 口元を隠すようにヤーンハーンは微笑む。

「摂政閣下とのご関係はハッセ殿もご存じですから、こちらの命を奪うようなことはできませんよ」


 ここで愛人を殺せばいよいよ自分が助からないと考えたというわけか。

「それと、今日参ったのは、降伏の交渉です。ハッセ殿の使者として、私はここにいます」

「なるほど。ハッセ殿もその程度の頭はまわるらしいな」

 どうにか穏便に事を収めたいというハッセの必死な顔がヤーンハーンの奥に見え隠れする。


「以下の話はあくまでもハッセ殿のお考えですので、私にあたらないでくださいね」

 その前置きがあったので、予想はついたが、ハッセはこの期に及んでも都合のいいことを言い立てていた。


「こちらの『謀反』は『赦免』するので兵を引き上げてほしい、か。まだ自分が王だと信じて疑っていないようだな」

「まずはふっかけてみるのも交渉の基本といえば基本ですからね~。さて、どうなさいますか?」

「こちらの陛下は王都を占拠する前王を殺害することも検討していると伝えてくれ。暗殺者を送り込むぐらいのことは、いくらでもできる」

 ヤーンハーンは顔色も変えずに、ずっと穏やかに笑っていた。


「わかりました。使者として、そのように伝えます。ただ、ハッセ殿はおそらく身の安全を確認したいと思っているはずですので、そこがはっきりすれば話は早く進むかもしれません」

 そして、俺が何か言う前にヤーンハーンは俺のほうに体を近づけてきた。

「私のほうに、一つ策があるのですが」


 その策は悪くないものだった。ヤーンハーンがここに来てくれてよかった。ハッセの寵臣では絶対にできないことだった。


「よし、それでいこう。俺も陛下にはお伝えしておく」

「はい。なにとぞ、よろしくお願いいたします」

 いよいよ王都が陥落する日時が決まりそうだ。



 翌日、ハッセの側から降伏を受け入れる使者がやってきた。ハッセに気に入られて出世していた若い男だった。

 ハッセはルーミー一世に正式に譲位し、前王として隠居所として与えられた領地にて暮らす――それが降伏の条件だった。

 同時に、ハッセは正式に王家の冠をルーミーに渡す戴冠式を行う。それをもって、今回の内乱は平和的に解決したとする。


 国が統一されるのだからルーミーも断るわけがなかった。


 ついに『百年内乱』も終わる。間違いなく、新しい時代がここからはじまる。



 戴冠式までの数日、俺とルーミーは川で身を清めた。そのような伝統があるわけではなく、ルーミーの発案だった。


 今度の王位継承は、それまでのものとは質的にまったく異なる。それなりの責任と覚悟をもってのぞみたいとルーミーが言ったのだ。


「付き合わせてしまって申し訳ないですね。寒くないですか?」

 白い布を羽織ったルーミーが同じ布をまとっている俺に言った。

「この程度の苦痛、幼い頃になめた辛酸と比べたらどうってことはないさ」


 ふるえているルーミーを抱きしめたくなったが、それでは身を清める意味がなくなるかと思って、自重した。


物語もかなり天下統一に近づいてきましたが、3巻は3月発売予定です!

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