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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
天下統一へ

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166 セラフィーナとの約束

 こちらが進発する前にハッセが降伏するシナリオも頭に描いていたが、そういうことは起こらなかった。

 まだ勝てると思っているのか、引き際がわからないのか、どちらかは判然としないが、俺としてはあっけない幕切れになるよりはそのほうがいい。


 俺は城西県のオルセント大聖堂を目指して軍を動かした。

 途中、対峙してくるような勢力もない。仮に戦うとしてもハッセ側も王都とそれより西側の土地を想定しているだろう。前線の小規模な砦にこもって、こちらの軍の出血を狙うぐらいなら、後ろに下がって応戦したいだろう。


 オルセント大聖堂から小一時間の町で俺とカミト大僧正は久方ぶりの再会を果たした。人払いはして、一対一の密談の形にした。


「ルーミー一世陛下のためにご協力させていただく所存です」

 カミト大僧正はひどく年老いて見えた。といっても、俺と干戈を交えた頃から五年以上の歳月が流れている。職業の影響もあって、俺のほうが若々しすぎるせいかもしれない。


「ほかに聞いている者もいない。慇懃に応対することはないぞ。どれだけ本音をぶちまけてくれてもいいし、そのほうが話も早い」

「以前の戦いであなたを倒せなかったことが最大の失敗です」

 嘆息したように、大僧正は言った。

「あれで、あなたを抑え込む存在はもういなくなってしまった。こんなことなら、あそこは動かずにエイルズ・カルティスとブランド・ナーハムの同盟に参加しておくべきだった」


 ――ワシはそれをやられたからな。本願寺がいなければ、もっと早く天下をとれておったわ。


 オダノブナガは思うところがあるらしい。こいつは宗教嫌いというより、ホンガンジ嫌いといったほうがいいな。


「あなたのせいではない。俺が従来の王都に入ってきた人間より強かっただけのことだ。過去から学べば、あれでどうにかなると考えておかしくはない。そちらの要求は?」

 大僧正はあきれたように首を横に振った。


「もはや、こちらはあなたの新政権に従うほかない。大聖堂に火をかけると言われれば、必死に抵抗するが、それほどの愚者なら、とっくに死んでいただろう」

「わかった。そちらが大きな損はしないように取り計らう。そこは俺を信じてくれ」


 俺は大僧正に手を差し出した。

「あなたとこうして握手することになるとは……」

 大僧正の手はシワが刻まれて、やけに黄ばんでいた。

「ご病気か?」

「まあ、王国が統一されるのを見届けられるぐらいまでは生きていられる。気になさらなくていい」

 前時代の梟雄は、もう退くころ合いなのかもしれない。



 オルセント大聖堂を後方の拠点にして、俺たちの軍は王都を飛ばして東へと侵攻した。

 抵抗する者もこの土地まで来ると残っていたが、勝負にはならなかった。

 小競り合いを長く続けていただけのこの土地は城や砦のつくりからしても甘さが目立つ。まだまだ防御を固めることはできるだろうに、力攻めでも簡単に突破できる。


 東部の県の制圧はわずか一月半で終わった。


 あとは王都を残すだけだ。


 俺の率いる部隊は少しずつ、王都の外側の包囲を狭めていった。

 街道の監視も強めた。ハッセが脱出を試みる可能性はあった。ハッセの生死はともかく、完全に王でなくなる瞬間は見届けておく必要がある。

 ハッセという旧時代の遺物がどこかでうごめいていては、ルーミーと俺の治世の汚点になる。それに、どこかでハッセが潜伏しているかぎり、戦争状態は終わらないことになる。


 これにはオダノブナガも同意していた。王族というのは反乱を企てる者が担ぐのに便利なのだという。オダノブナガを討ったアケチミツヒデも、追放されていた前将軍を担ごうとしていたらしい。

 ハッセ自身に実力がなくても、道具としての価値は変わらない。だからこそ、しっかりと無害化しておく必要はある。


 少しずつ、終わりが見えてきていた。

 俺は自分の宿所の防備を今まで以上に固めた。そうオダノブナガに勧められた。こんなところで死んだら、あまりにも無念というものだ。


 その夜、俺はセラフィーナと二人でゆっくりと時間を過ごした。

 マウスト城を解放したあとも、何かと忙しくて、二人の時間をとれていなかった。


「もうすぐ、王になるのに思ったより質素な身なりね」

 セラフィーナは俺の服装を値踏みするように見て、そういたらずらっぽく笑った。俺と結婚した時とその態度も雰囲気もほとんど変わっていない。


「まだ戦時中だからな。派手にやるのは、もっと後でいい。それに酒はいいものを用意している」

 俺は葡萄酒をセラフィーナと自分のグラスに注いだ。


「毒が入っていたりはしないかしら?」

「すでに毒見役に飲ませている。問題はない」


「わたしの夢がもうすぐかなうのね」

 セラフィーナの葡萄酒にその顔が映った。セラフィーナもその自分の顔を見ているようだ。

 微笑んではいるが、もっといくつもの複雑な感情が混ざり合っている表情だ。


「セラフィーナにはつらい思いをさせたな」

 俺は敵対したカルティス家を滅ぼした。セラフィーナは帰るべき場所を失った。

「最後に勝ち残るのはたった一人。それにわたしの一族は選ばれなかっただけのことよ」

 そうは言ったものの、セラフィーナの瞳はうるんでいた。


「本当につまらないことをして、お父様はすべてを失ったわね。最後の最後で自分だけでなく、すべてを犠牲にするようなことをした。愚かな人間だわ……」

 それから、遠い目をしてこう言った。

「でも、あなたの娘は王の妻となったわ。祀るぐらいのことはしてあげられると思う」


「ああ、国が平和になったら、好きなだけ菩提を弔ってやってくれ」

 セラフィーナは席を立つと、俺の膝の上に乗ってきた。

 俺はセラフィーナの髪を軽く撫でただけで、あとはじっとしていた。


「セラフィーナ、俺も君もまだ若い。これからの人生のほうがきっと長い。だから、もっと幸せになってやろう」

 俺の手をセラフィーナがぎゅっと握る。

「ええ、約束よ」


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