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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
天下統一へ

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163 故地に合流

 説明が足りなかったせいか、まだ飲み込めてない者がいるようだった。たしかに今、俺が語ったのは計画というよりは、目標といった次元のものだ。


「このヤグムーリ城から王都まで攻めるとしたら、ひたすら東に街道を進むのが早い。マウスト城に向かうなら途中で北に進路を変える。そこで――」


 俺は地図のマウスト城に手を置く。


「全国の領主に王の名の下にこう命じる。マウスト城に集まれってな。ふくれ上がったこの軍隊で、敵の包囲はおおかた自壊するだろう。どうせ、士気だって高くない連中だ。そのうえで、この軍隊を王都に向ける。途中に立ちはだかる奴がいたら、強引に踏みつぶす。それができるだけの兵力になっているはずだ」


 そこで、俺はルーミーのほうを向いた。

「この軍には陛下も同行していただきます。同時に、王都への凱旋をやっていただきたい。サーウィル王国の王は王都にいるべきですから」

 ルーミーは瞳を輝かせていた。


「はい! あなたと一緒に旅ができるなら喜んで参ります! すべてが片付いてから王都に入るだなんてのは寂しいですから」

 そういえば、長らく妻をほったらかしにしてしまっていた。戦争が続いていたからとはいえ、夫として褒められたことじゃない。


「それに兄の処遇もわたくしが直接立ち会って決めたいですし。王がこんな西に寄ったところにいたのでは、そのあたりの連携も悪いでしょう」

「ですね。陛下がご聖断を下していただければと思います」


「それでは、早速、各地の領主にマウストへ駆けつけるように親書を書きましょう。せっかくですし、わたくしの直筆にいたしましょう。修道院で文字は嫌というほどに書きましたから、なかなか達筆ですよ」

 俺はルーミーに丁重に礼をした。

「ご配慮ありがとうございます」

 そして、こう付け加えた。


「サーウィル王国が全土に権益を取り戻すまでもう一息です」


 この百年ほどの間、王国は各地の領主の放縦を許していた。いわゆる『百年内乱』と言われているこの時代は、国がそれこそ数えられないほどの数に分裂していた。

 やっと王権が一つになる。王に断りなく、国土のどこかで戦争が起こっているという異常事態が終わる。


「軍を動かすまでの間、まだ時間はあるでしょう。皆さん、ゆっくりと体を休めてください。混沌の時代の終焉を生きてその目で見るためにも」

 ルーミーの態度は実に堂々としていて、どこからどう見てもこの国の王だった。



 そして、ルーミーは約束どおり、手が疲れるほどの親書を書いては各地の領主に送った。そこには従軍した場合にどこそこの所領を安堵するとか、ここの領主が敵対していた場合はその土地を加増分として与えるとか、実に細かく書かれていた。


 それだけのことができたのはケララが全国の領主を知悉していたからだ。どの領主がどこを先祖伝来の土地として重要視しているかも、ケララは故実として学んでいた。


 俺は出兵までの間、マウスト城のことだけが気がかりだったが、敵の領主の中には離脱する者も出ているありさまで、とくに心配するほどのこともなさそうだった。

 もう、国が変わると多くの者が感じはじめている。


 十分に巨島部での戦いの疲れが癒えただろう、ヤグムーリ入城から一月半後。

 俺は全軍をマウスト城の西、フォードネリア県のネイヴル郡へと向けて出発した。


 どうせなら、一族発祥の地を通りたいと思ったからだ。それに兵を集めるのに、敵が残っているマウストのすぐそばというわけにはいかない。ネイヴル郡はちょうどよかった。


 敵による妨害はまったくないと言ってよかった。数が違いすぎる。それに王国でも西側の領主は多くがもう俺の側についている。俺が巨島部を従えたことを知らない者は一人もいない。


 俺たちが着いた時には、ネイヴル郡ではすでに多くの軍勢が集まっていた。

 まず、同盟者として長らく活躍してくれたソルティス・ニストニア。

 ネイヴル郡は遠いだろうに、わざわざやってきてくれたようだ。

 そして、マチャール辺境伯のタルシャ・マチャール。

 事実上の王国北部の支配者だ。タルシャがいるということは、もう王国北部はルーミー一世を王として支持すると言っているようなものだ。


「達者でやっているようだな、摂政」

 現れたタルシャは赤子を抱いていた。

「もう、出産の疲れは取れたのか? いや、聞くまでもないか」

 やはりタケダシンゲンという職業を持つせいなのか、タルシャの肌は張っていて、早く戦場に出たいと主張しているように見えた。


「時代が休むことを許してくれないのでな。心配しなくとも、お前との子供がマチャール家を継げる年になるまで引退する気はない」

「協力、心から感謝する。平和が戻ったら、やれるだけのことをやって功労に報いる」

「それでは、先にもらっておきたいものがある」

 タルシャは俺のほうに体をひっつけてきた。


「我の子だから丈夫に育つとは思うが、子供というものはいつ死ぬかわからないものだ。まだ、子種がほしい。できればお前の種がいい」

 よくもまあ、こんなことを堂々と言うなと思った。領主に恥じらいなど不要なのだ。跡継ぎを作ることをも領主の仕事だ。


「わかった……。今日はこの地にとどまるし……相手をしよう……」

「ああ、枯れるまで相手をしてもらう」

 タルシャの目は本気だった。

 これはマウスト城解放前にとんでもない奴に捕まったかもしれない……。



 ネイヴル郡とその周辺に集まったルーミー一世方の兵力は実に六万に迫る数だった。

 このうち、一万五千はタルシャが北を中心にかき集めてきた。タルシャの活躍はまさに殊勲と言っていいもので、俺もそれにはできるだけこたえるしかなかった。


 俺は出発前に一族の墓地を訪れた。

 ルーミー一世のために、死力を尽くして戦うということをそこで誓った。

 あくまでもデモンストレーションだが、やらないよりはやったほうがいい。創業の歴史は必ず国が生まれる前から語りはじめられる。


 俺は全軍を三方向に分けて、マウスト城のほうに向けて進発させた。


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