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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
巨島部侵攻編

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161 ヤグムーリ城凱旋

 元王パッフス六世が死に、戦争は一段落した。


 俺はすぐにサミュー伯サルホーズ・サミューに降伏勧告を行った。

 内容はもう王を僭称する者に仕える必要はなくなったので、今の王であるルーミー一世に従えというもの。当然、それを呑まないなら、全軍でサミュー城を攻め、一族もろとも処刑することになると脅しも付け加えた。


 サルホーズ・サミューからの返事が来る前に俺はサミュ伯領の県の都市を支配下に置いていった。人質を出せば、略奪を行うことはないと言われれば、連中は応じるしかない。どうせ立ち向かえる武力など、どこにもない。


 本音を言えば、とっとと負けを認めてくれという気持ちでいた。もしも徹底抗戦を選ばれると、最終的に勝てはするものの鎮圧に時間がかかる。となると、巨島部にしばらく残る羽目になる。


 ヤグムーリ城の状況は事細かに伝えられてきていた。こちらがすぐに落ちることはなさそうだったが、もしもということもある。ルーミーの健康状態だって心配ではあった。籠城中に疫病が流行ることもある。


 それにマウスト城はハッセが全力を挙げて落としにかかることもわかっていた。こちらも落城するとは思っていないが、妻も多くいる。救援に早く出向きたい。


 一応、サルホーズ・サミューがパッフス六世の遺児を次の王だと主張して立ち向かってくるという「最悪のケース」も想定して策を検討していた。


 その場合、タルムード伯アブシー・ハニストラに攻撃の主な部分を任せる。タルムード伯とサミュー伯は因縁の相手だ。これの息の根を止めようと動いてくれる可能性は高かった。サミュ伯の土地を奪えば、それだけタルムード伯の利益にもなる。


 サミュー伯への攻撃が巨島部の勢力によって行われている間に俺はヤグムーリ城に戻る。

 そこで状況確認を行った後にマウスト城を救援するか、王都に攻め入るかを決める。


 巨島部南側の支配者は俺の軍門に降ることを決めた。

 人質として自分の子供三人と、息子の子供たちまで、実に一族を十人以上も人質として預けてくることを誓った。


 最終的な確認のための会見は俺が制圧している都市で行われた。

 そこに現れたサルホーズ・サミューは白髪が目立つものの、まだまだ戦場を駆けまわれそうな偉丈夫だが、それには不似合いな神官姿だった。


「今日を境に、サミュー伯の地位は息子に任せて、神に仕えることといたします」

 サルホーズ・サミューは疲れ果てたという顔をして言った。

「我らの王を守ることができなかった時点で、自分は面目を失いました。もはやサミュー伯を続けても誰もついてきてはくれぬでしょう」

 悔しさが顔からにじみ出ている。長らく、ここまでの服従を強いられることはサミュー伯にはなかった。家を守ることと、プライドをはかりにかけて、この決断を下したのだろう。


 オダノブナガがキュウシュウ平定だなと言った。これで国の西はすべてこちらの手に入った。


「偽王と共に戦った罪は偽王が死んだ時点で消えた。これからは正統な王のために仕えてくれればいい」

「正統な王、ですか」

 俺の顔を、サルホーズ・サミューは慎重に値踏みするように見ていた。心から従っているわけじゃないのはすぐにわかった。もっとも、侮っているのとも違う。


「どうか、正統な王が変わらぬようにお願い申し上げます。中央に振り回されるのは、やめにしたいのです」

「心配はいりません。我が妻でもあるルーミー一世には国を治める道理があります。それになによりも――」


 俺は前に突き出した右手をゆっくりと強く握り締めた。


「――力があります。王国を統一するに足る力が。ハッセ殿にはその力がありません。それではハッセ殿がどんな聖人であろうと王であるには悪です」

 俺の顔をサルホーズ・サミューは怯えるように見つめていた。

 あまりにも野心が外に隠れずに出ていて、不気味に思っただろうか。


「ハッセ殿が万一勝利したところで、この国は平和になどなりません。平和のためにハッセ殿を消すためにご協力ください」


「承知した。やるからには徹底してやってくださればいい」

 これで巨島部は俺の、いや、ルーミー一世の監督下に入った。



 オルダナ・ニストニアに船団に乗って、俺は巨島部を後にした。

 厳密には巨島部で一切の争乱がなくなったわけではない。まだ、俺への抵抗を試みる者、タルムード伯といがみあっていた者、サミュー伯の屈服に納得がいっていないサミュー家の一族などが残っている。


 だが、それは巨島部の中で解決してもらう問題だ。俺が目指すのはヤグムーリ城だ。


 ヤグムーリ城周辺では反乱の火の手自体はいくつか上がっていた。決して平穏と言える状況ではなかった。長年、その土地を守っていた領主からすれば、俺がやってきて、席巻していったことが気に入らないのだろう。

 ただ、どれも小さな火にすぎない。


 小領主が腹を立てたところでヤグムーリ城は絶対に落ちない。

 そして、彼らの中に指導者になりうるような者はいない。


 ハッセの名代として王族の将が来てはいたが、巨大な要塞を前に何もできていなかった。城内に入る方法がまったく思いつかないので、形だけの兵糧攻めをしているという様子だった。


 どうせだから、きれいに城に戻ろうか。

 俺はヤドリギを使者にしてヤグムーリ城に送った。


 三日後、ヤグムーリ城からケララ率いる部隊がハッセの名代に攻撃を仕掛けた。

 将としての技量はケララが圧倒している。これなら守る必要もない。


 一方で俺は名代の後背の拠点を制圧して挟み撃ちに向かった。


 ハッセ側の軍は完全にこれで壊滅した。名代が戦死したところで、それは決定的になった。



 俺は服装をただしてから、ゆっくりとヤグムーリ城に凱旋する。


 広く深い濠をに架かる橋を渡ったところにルーミーが待っている。


 俺はルーミーの前でひざまずいて、その手にキスをした。

「陛下、無事に帰還いたしました」

「お待ちしていました、摂政殿」

 それから、くすくすと笑みを浮かべた。


「いえ、あなたと言ったほうがいいですね」

次回から新展開です!

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