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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
巨島部侵攻編

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154/170

154 巨島部上陸

 すでにヤグムーリ城のあるナルグスト県自体の征服は小シヴィークとマイセル・ウージュの部隊がそれぞれ兵を出してほぼ完了させていた。

 もっとも王都への連絡のほうは、なかなか進まず難航していることになっていた。そうでもしないと、ヤグムーリ城を作る時間がとれないからだ。


 ケララは予定よりずいぶん早くヤグムーリ城に戻ってきた。おそらく、速い馬を使ったのだろう。

「ケララ、しばらくこの城はお前に預ける。好きなように使え」

 丁重にケララは俺に礼を行った。

「謹んで拝命いたします。必ず、この城を守り抜いてみせますので」

「お前がどれだけ凡愚でもここは落ちないさ。お前の最大の仕事はルーミーの世話かもしれんな」

「奥方のことも万事承りました」

 なかなか冗談が通じない女だと俺は苦笑した。だからこそ、ケララに任せたわけでもあるから、俺の咎でもあるのだろうか。


「次に俺がここに戻ってくる時はきっと凱旋だ」

「だと信じております」

 そこでケララは俺に近づいて小声でこう耳打ちした。

「陛下ご謀反の報が届いた場合はすぐに連絡をいたします」

「わかった。お前を信じる」


 巨島部へ向けての出発前に俺は改めてヤグムーリ城を外側から見た。

 そこにあるのは前代未聞の巨大な要塞だった。

 おそらくこれほど広い水濠がある城はこの国のどこにもないだろう。王城といえどもこれほどではないはずだ。


「この城は何があろうと落ちない。巨島部で苦戦するようなことがあれば、ここまで戻ってくればいい」

「巨島部へは船に乗らないといけないんですよね……。ラヴィアラは船は苦手です……」

 森の民であるエルフの血を引く者にとって、どうも海へと出るのは抵抗があるらしい。


「不安なら船に乗ってすぐに寝ていろ。サナド海峡なんて昼寝している間に渡れるさ」

「沈没したりしませんよね……?」

 大地に根を下ろしていると、揺れ動く船上というのはダメになるようだ。


「もし沈んだら、ほかの船に拾ってもらえ。全部の船が沈まないかぎり、どうとでもなる。全部沈んだら泳げ」


 俺はナルグスト県の西端である「大地の鼻」という港まで軍を進めた。

 ここで小シヴィークとマイセル・ウージュの部隊と合流する。


 この「大地の鼻」にはすでに無数の船団が控えている。そのうち一部はソルティス・ニストニアの所有する船団だ。このために先に船を集結させてもらっていた。


 ソルティス・ニストニア自体はこの戦いには参加しないが、その弟のオルダナという男が部隊を率いていた。

 俺はオルダナとあいさつを交わす。ソルティスと比べると、オルダナはいかにも海の男というように日焼けをしていた。


「すでに海兵たちも仕上がっております。この土地にしばらく留まっていたので、潮の流れも学べるだけ学びました。どうぞ、ご安心くださいませ」

「あなたはいかにも海賊といった風情の方だ。青白い商人の船よりよほど信頼できる」

「家を継がずにすんだ分、海の男をまとめる役を仰せつかっていたので。みんな、巨島部の連中に負けては恥だと気合いが入っています。なんなら、上陸せずにそのまま前王の本拠地のあたりまで迎えますが」


「悪くはない手だが、前王は内陸部に拠点を置いているからな。まずは堅実に手前のほうから奪っていくとしよう。こちらの兵は長い船旅に不慣れな者が多いんだ」


 前王パッフスは巨島部の二大領主、タルムード伯・サミュー伯の領地のちょうど境目のソフェリという街に「遷都」している。二大領主の両方に気をつかった結果だろう。両者の間で戦争状態になったら、前王としては最悪だからな。巨島部の者すべての力を結集しないと、とても王都を奪還することはできない。



 俺たちはサナド海峡に向け軍船を動かした。

 航海自体は平穏だった。なにせ海峡の向こう岸は目に見えていた。

 すでに敵のタルムード伯領のどの砦が抗戦の構えをとっているかはわかっている。


 タルムード伯アブシー・ハニストラは巨島部の北部三県を支配する大領主だ。大昔の軍事貴族の血を引く貴種であり、しかも代々、外国との貿易も行っており、経済的にも富裕だった。


 そんなタルムード伯が天下をとれなかったのはひとえに巨島部が王都から見て僻遠の地だったからだ。

 一時期、摂政のようなことをした当主もいたはずだが、そうやって自身の本拠から離れている間に反乱を起こされて、あわてて戻る羽目になった歴史がある。だから、あまり自分の土地を離れるのは好ましくは思っていない。


 それに、巨島部の大領主にとってみれば、自分たちの土地のほうが本来、文化的に進んだところだという自負がある。いっそ、この島ごとサーウィル王国から独立してはどうかと進言した家臣も過去にいたという。実際、かつては別の国だったこともある。


 だから、前王パッフスを迎え入れることに関しては抵抗はなかっただろう。


 ――ふん、タルムード伯というのが大友か大内にあたるのかは知らんが、どちらにしろ守護の生き残りだ。どうということはない。


 船上のオダノブナガはどこかいつも以上に意気盛んだった。


 ――実を言うとな、ワシも九州の地に踏み入ることはなかったのだ。その前に命脈が尽きたからな。なので、どことなく舞い上がっているところもある。


 そのキュウシュウじゃないけどな。でも、やることは同じだ。

 幸い、この時期の巨島部はよく晴れている日が多い。乗り込むにはちょうどよかった。


 嵐が怖いんじゃない。こちらの本領が発揮できなくなるのが怖い。


 ――本来なら、鉄砲は種子島から伝わるはずなのにな。鉄砲を知らん敵はかわいそうだ。


 絶対にかわいそうだなんて思ってないだろ。


 敵は小さな砦でこちらの足止めを図りつつ、平原でこちらを撃破する作戦に出るはずだ。

 そこで鉄砲の威力を見せつける。

 無事に俺の軍は巨島部に上陸した。

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