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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
征西へ

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142 ニストニア家を訪ねる

 俺はニストニア家の本拠であるシャーラ県のニストニア港を訪れた。横にはユッカも並んでいる。

 マウストから船に乗ってそのまま海伝いに行けば、さほど時間はかからない。潮に上手く乗ったせいもあって、その日の夜にはニストニア港に着くことができた。


「摂政閣下、長旅お疲れ様でした」

 伯爵のソルティス・ニストニアが俺を迎えに来た。夜遅い時間だが、摂政を迎えないわけにもいかないということだろう。手間をかけさせてしまった。

「婿殿と呼んでくださってもかまいませんよ」

 俺の冗談に、「いえいえ、畏れ多い……」とソルティス・ニストニアは手を横に振った。


「征西軍のほうがあまりかんばしくないとお聞きしているのですが、おそらく伯爵なら詳しくご存じかと思いまして」

 表向きはこう言ったが、ソルティスもバカではない。おおかたの目的は察しているだろう。


「今夜は遅いですので、お休みになられてはいかがですかな。寝不足では頭も働きませんので」

「お言葉に甘えさせていただきます。それと、伯爵」

 俺は笑みを作って言った。

「あなたの娘とは入魂じっこんにさせていただいております。ユッカは大事な妻の一人です。彼女の幸せは俺が保証いたします。ご安心ください」

 そう言って、俺はユッカの肩に手を置いた。


 ソルティスは少し呆けたような表情をしていたが、しばらくしてから、

「ありがとうございます。摂政閣下のご寵愛をいただけるとは、娘は幸せ者です」

 と言った。口ではそう言っていたが、ほっとしているのがわかった。

 政略の道具とはいえ、自分の子供のことが気にならない親はいない。



 翌日、俺はソルティスに人払いをさせて、今後の相談を行った。

 ソルティスは俺が摂政になる前からの、俺の与党だ。これまでも忠実に俺に従ってくれた。かなり深いことを話しても問題はないだろう。


「征西の件ですが、やはり俺抜きでは難しいようですか?」

「結論から申し上げれば、そういうことになります。陛下のお力だけではやはり限界があったのかと。いえ、陛下一人の責ではありません。兵は弱兵で、将もまったくの経験不足……。あれでは勝てるものも勝てません……」

 俺の認識と同じことをソルティスは語った。それだけ俺の情報集積能力が高いということだ。


「カルク子爵は別に籠城戦の名人というわけでもないはず。なのに、攻めあぐねているとなると、やはり征西軍の能力面の問題でしょうね。俺は陛下のお疑いを晴らすためにも、居城に引っ込んでいますが、声がかかればすぐに駆けつけるつもりです」

 ソルティスはゆっくりとうなずいた。

「摂政閣下が動けば、こんな敵は、ものの数ではないでしょう。ひとまず二県ほどはすぐに制圧できるでしょう。もとより、海峡より手前で苦戦するつもりなど摂政閣下にはないとは思いますが」


 海峡というのは、サナド海峡のことだ。その先にタルムード伯・サミュー伯という二大巨頭が控えている。


「はい。そして、伯爵にもこの戦いには、ぜひとも手を貸していただきたいのです」

 ソルティスの表情が硬くなる。とはいえ、別に不快だという意味ではない。それぐらいのことを求められるのは、承知しているはずだ。


「無論、ご助力いたします。ただ……今回は戦場の位置からしても、海軍を出すことはできません。あまり我が軍が役に立つかと言われるとわかりませんが」

「最前線に出てくれなどとは申しません。しかし、伯爵が大軍で参戦すれば、ほかの領主たちも俺の下に馳せ参じようとするはずです」


 ソルティスの目の色が変わった。俺の目的が読めたということだ。

 王であるハッセの征西時には動かなかった領主たちが、摂政の俺が戦線に現れた途端、一斉に動いたとなれば、周囲に与える印象はどうなるか。


 俺こそが王国の指導者だと、あらためて思い知るだろう。

 しかし、領主一人一人の忠誠心を試してもしょうがない。大半の領主は臆病だ。道を誤れば滅ぶのだからそれもしょうがない。

 逆に言えば、大領主が率先して合力したとなれば、駆けつけないわけにもいかない。


「なるほど。私は去就を迷っている者を先導する役を果たせばよいというわけですな」

「陛下の征西に兵を貸さないような不届き者も伯爵が積極的な軍事行動に出たとなれば、必ず協力するでしょうから。敵を直接叩くのは、こちらの精鋭部隊でやります。すでに征西も長引き、敵軍の情報も入ってきております。攻略は可能です」


 ヤドリギから敵についての内情は仕入れている。兵糧に余裕はないらしいし、後方部隊を攪乱すれば、そのうち隙ができる。籠城にしては兵力が多いからな。

 今は征西軍を倒して士気も高揚しているだろうが、ひとたび食べるものがないという事態に直面すれば、そんな気持ちも萎える。


「私のほうからも、摂政閣下にお力を借りるべきであると陛下に進言しておきましょう。引き際を陛下もきっと探していらっしゃるはずですからな」

 俺は思わずほくそ笑んだ。

 それはありがたい。少なくとも、俺が兵を出しましょうかと言うより、よほどハッセも首を縦に振りやすい。


「なにとぞよろしくお願いいたします。お互い、王国の安寧のため、力を尽くしましょう」

「そうですな。それには摂政閣下の力が欠かせません」


 俺とソルティスは椅子から立ち上がると、しっかりと握手をした。


 そして、さらっと俺は言った。

「どうか、伯爵はエイルズ・カルティスやブランド・ナーハムのように、俺を裏切らないでくださいね」

 途端に、ソルティスの顔が青くなったのがはっきりとわかった。俺は笑っているつもりだったが、笑っているからこそ怖いというものもあるのだろう。


「誓って言いますが、俺は自分のためについてきてくれた人間を切り捨てたことは一度もありません。恩義には必ず応えます。ニストニア家もさらに発展させてみせます。どうか、道を誤らないでください」


「はい……。決してそのようなことは……。だいたい、摂政閣下を裏切って誰につくというのですか……?」

「それもそうですね。杞憂でした」

 おそらく、それで俺のまとっていた空気から殺気が抜け落ちただろう。


「今後ともよろしくお願いいたします」

 ニストニア家は間違いなく、俺のために働いてくれるだろう。


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