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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
征西へ

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139 大戦の準備

 いかにもありそうな話だな。平原でぶつかるならともかく、砦を落とすとなると、数だけというわけにはいかない。将の判断が必要になる。

 そして、まともな将など、王族から副将クラスを選んだハッセの軍隊にいるわけがないのだ。


 しかも、ハッセはほとんど孤立無援で流浪していたから、股肱の忠臣なんて者もいない。数を集めたデモンストレーションぐらいはできても、本格的に敵と戦うとなると、難がありすぎる。


「その調子だと、十中八九、ハッセは敗北するだろうな。戦い方がわからない者を敵の倍以上集めてもどうしようもないだろう」

 敵もその程度のことはわかっているのか。それとも、敵の数が多いから守りを固めたのか。

 まあ、どっちでもいい。これでハッセの能力がたかが知れているということが明るみになれば、後々俺にとっては有利になる。


「で、ハッセはどうするつもりだ? 無理に攻め立てるつもりか? あっさり尻尾を巻いて退散しそうか?」

 重要なのはここだ。どこで撤退するかによって、被害もまったく変わってくる。おおかたの戦況ぐらいなら一般的な早馬の使者でも伝わる。

 王の判断の次元にまでくると、ラッパの力が必要になってくる。


 俺ならすぐに退く。もちろん、退き方を考えないと追撃のおそれもあるが、今回は兵の質が悪すぎて硬直しているのだ。ならば、力攻めを繰り返しても、死者が増えるだけだ。まともな将がいればいいのだが、ないものはないと、諦めるしかない。


「ほぼ確実に、無理な攻めを続けるかと思います。最初の遠征で負けたという記録を王は残したくないでしょう」

「ならば、ただの敗戦ではなくて、大敗になるな」

 俺はほくそ笑んだ。


 自分から権威を失ってくれるなら、俺にとって好都合だ。

 さらに、俺に援助を求めるなら、多くの領主は俺を次の王にふさわしい男だとみなすだろう。


「もっとも、すぐに摂政閣下に援軍を求めるかは不明です。それこそ、自分が無能だと示すことと大差ないですから、なんとか閣下抜きでの解決を図るでしょう」

「それでいい。それでいい」


 傷口をどんどん広げていってくれ。そして、打つ手がなくなってから、俺を頼れ。


 となると、俺が対峙するのはそれなりに意気軒昂な前王派の軍ということになるだろうな。相手にとって不足はない。そこで俺が負けるようなら、どのみち、王の座を狙うどころの話ではない。


「ヤドリギ、今後は王軍の動向よりも、前王派についての情報を集めてくれ。敵と初めて当たる時には、まるで知己のようにすべてを知り尽くした状態で戦えるようにしたい」


「御意」

 そう言うと、さっとヤドリギは窓から外に抜け出ていった。庭を一匹のオオカミが走るのが見えた。


 マウスト城に戻るのは博打の要素もあった。これでハッセが活躍しすぎると、俺の天下が遠のくリスクもあった。

 しかし、俺は今のところ、博打に勝っているようだ。


 俺は力を蓄えつつ、最善の状態で王を助ける側として参戦すればいい。



 俺は早速、新規の兵の軍事訓練を本格的に行いはじめた。

 三ジャーグ槍は扱うのに、それなりの準備期間を要する。だが、一度覚えてしまえば、それから先は実に楽だ。具体的には、戦争が楽になる。

 近くに敵を寄せつけないですむ武器はそれだけで強い。

 誰だって死の危険を感じたくはないからな。それをうれしがるのは、俺ぐらいのものだ。だいたい、名のある武人はそのあたりの価値観が常識から欠落している。


 それと、さらなる遠距離武器のほうの量産も行っている。

 ドワーフのオルトンバに作らせていた鉄砲だ。

 俺は自分用の鉄砲で木の的を撃った。

 しっかりと的に穴が空いた。以前より精度が上がっていると思う。結局は慣れだ。弾がもったいないが、慣れていけば当たる率も格段に上がる。


 俺の横では鉄砲を考案したオルトンバが立っている。

「うん、悪くないな。どこを改良したのかよくわからないが、性能としては申し分ない」

「ありがとうございます。以前のものより軽量化を行っております。また、雨天時でも使用しやすいように雨除けをつけました」

 そのあともオルトンバは長々と説明を行った。鉄砲のことをしゃべるとなると、楽しくてしょうがないのだ。典型的な技術者と言えるだろうか。


「それでだ、オルトンバ、この鉄砲を合計三千挺用意したい。間に合うか?」

「三千、ですか……」

 オルトンバの表情も少し固まった。それなりの数だということは俺も理解している。


「これまで作ってきた旧型のものも数には含めていい。合計三千だ。それだけあれば、間違いなく前王派の連中にも勝てる」

 少しの間を置いて、オルトンバは分厚い胸を叩いた。

「わかりました! 必ず間に合わせます! すでに量産できる体制は整っておりますので!」


「よく言ってくれた。これで、準備は万全だな」

 この鉄砲という武器は、レベルの低い魔法なんかよりはるかに危険で、殺傷力がある。

 三千の鉄砲を使えば、戦一つは確実に取れる。


 まずはタルムード伯とサミュー伯の領地の手前までを俺がすべて奪う。

 そこから先は長引くかもしれない。敵もそれなりの覚悟と守りでのぞんでくるだろう。場合によっては、俺が直接乗り込んで、敵を仕留める。


 それで前王派を掃討できれば、俺に対抗できる勢力は消える。

 あとは、王の地位をいただくだけだ。


「できれば陛下には残り一か月ほど粘ってもらいたいところだ」

「なるほど。摂政閣下が全力を尽くすのにも、その程度の期間が必要ですものな」

 オルトンバには俺の真意が伝わっていないようだ。


「そう考えてもらってもいい」

 一か月もハッセがだらだら戦った後に撤退するとなれば、王の威信はずいぶん下がるだろう。王都に戻る兵の服も砂ボコリで汚れているだろう。


 再び、自分が軍を率いるとは言えず、俺に助けを求めるだろう。


 どのみち、俺は自分から参戦するわけにはいかないのだ。

 ハッセが助けてくれと言ってこなければ、王位を奪いに来た摂政に見えてしまう。

 だから、とことんやるだけやって、諦めてくれるのが一番いい。


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