表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
マウストで征西を見守る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

135/170

135 マウスト城の茶室

 久しぶりに再会したヤーンハーンはまさに商人然とした、ゆったりとした布を羽織っていた。


「ご無沙汰しております、摂政閣下」

 大人びた笑みで、ヤーンハーンは会釈する。

「王都のほうはどうだ? いや、いきなりそんな話をするのは無粋というものだな。ぜひ、お前に見せたいものがあるんだ。案内しよう」


 俺が連れていったのは、おもちゃのように小さな茶式専用の部屋だった。

 入口はとくに低く、かがまないととても入れない。

 中には、テーブルがあり、ホストと客人が相対するようにできている。


「俺も茶式を広めるために作らせてみた。お前の感想を聞きたい」

「実に素晴らしいです」

 すぐにヤーンハーンはかがんで、茶室の中に入っていった。


「なるほど、なるほど。内部もよくできていますね~。ただ、少しばかり豪華すぎるのが玉にきずですが。もっと材料も質素なほうがいいんですよ~」

「職人が粗末に作るのを恐れたせいだ。俺に罰せられるのでは思ったんだろう。事前にあまり立派にしすぎるなと言っておいたのだけどな」


「それでも茶式はできます。一席設けましょうか。お茶の用意も持ってきていますので」

 俺も、もとよりそのつもりだった。そのために作ったようなものだ。


 ヤーンハーンは静かにお茶の準備を進めた。凛然とした空気が狭い茶式を支配する。

 王都の外で飲むこの緑色の苦いお茶も悪いものではなかった。


「お茶の味、変わったかな」

「お茶は一期一会ですから。その場その場で違う味がするのでしょう」

 茶式の時のヤーンハーンには商人的なすれた部分はない。修道女と会っているような気持ちにさせられる。

 こうもまとっている雰囲気を変えられるというのは、ヤーンハーン自身の能力とも言えるが、この狭い茶室の効果もあるんだろう。ここに入ることで、気持ちのリセットが自然と図られる。


「お味はどうでしょうか?」

 ヤーンハーンは絵の中の母親のように、落ち着いた表情をしている。

「苦い。けれど、嫌な苦さではないな。ほっとする味だ」

「それはよかったです」

 静かに、まるで彫像のようにヤーンハーンは微笑んだ。


 少しばかり、音のない時間に部屋が包まれる。それも不快な沈黙ではなかった。

 心についた垢をそぎ落としてくれるような沈黙。


「さて、それで王都のことをお話ししてもよろしいでしょうか?」

「ああ、ぜひ詳しく教えてくれ」

 ようやく、本題に入る。もっとも、茶室の中では、本題は茶式を行ことなのかもしれないが。


「ついに征西の計画が具体化しましたよ。総大将はやはり陛下が、副将には結局、王の親類に当たる公爵・侯爵の筋から三名」

 それから先も、ヤーンハーンは情報をどんどん開陳していった。気味の悪いほどにつまびらかな軍事情報だ。

 これだけのことがヤーンハーンの耳に入っている時点で、王は機密の扱いが下手なことだけは確かだ。より本格的な作戦まで敵にもれたらどうするつもりだろう。


「領主層が嫌がっていたのは知っていたが、結局、王族でどうにか形式を整える羽目になったってことだな。これなら失敗したところで、責任は副将クラスに押しつけられる」

「そう、負けた場合も王族の中で尻ぬぐいをすると領主層に伝えることで、動員を了承させることにしたようですね」


 落としどころとして、そのようにするしかなかったんだろう。王族であれば、王が懇願すれば、ずっと抗い続けることもできないだろうし、ある意味、王と運命共同体の部分があるから、前王と戦うことにもモチベーションが湧く。

「厭戦気分の領主を並べるよりはまだマシな配置だ。マシなだけだけどな」


「では、この戦、勝てないと見てよいでしょうかね?」

「敵がさらなる腰抜けの可能性もあるが、王軍の指揮官は素人の集まりもいいところだ。初戦で敗退したら、もう戦う気力は萎えるだろう」

 最初の一回で勝てばどうとでもなる、それはおそらく敵方もわかるんじゃないか。そして、それぐらいなら不可能なことじゃない。


「精鋭を正面にぶつけて、敵の出鼻をとことんくじく。できれば将の首一つでも二つでも取る。それだけの戦果を挙げられれば、やむなくついてきた大半の領主はもうダメだと思い込む」

「ちなみに、王軍はどうにか二万二千、敵はカルク子爵を核にした連合軍で一万。倍は陛下のほうが多いですが」


 俺はにやっと笑った。

「倍以上の数で負けてみろ。ハッセの軍は一気に瓦解するぞ」

 さて、そろそろ進軍経路も考えておかないといけないな。


「王軍が負けて戻ってきた時はまだマウストに残っていればいい。しかし、ハッセが死んだ時点で、すぐに軍を王都に進める」

「やはり、閣下は陛下に死んでほしいのですな」

「別にそうは言ってない。前王の派閥が力を持ちすぎるのは怖くもある。どっちがいいかはなんともわからない。ただ――すべての可能性を考えて行動するだけだ」


 征西の時期もヤーンハーンから確認した。

 まだ月日はある。どうやら、ちょうどルーミーが出産した少しあとというところだった。


「いよいよ、大きな戦いになりますね」

 ヤーンハーンが俺の瞳をじっと見据えた。

「三年後、閣下は王になっているか、あるいは墓の下か、どちらかでしょう」


「王になれていることを祈っているさ。しかし、祈っているだけではどうにもならないからな」

 茶室の中だったけれど、知らないうちに手に汗がにじんできている。

 俺もそれなりに気がはやっているらしい。


 陛下、俺もある意味、遠方で戦っていますから、どうか思いきり敵にぶつかっていってください。そうしなければ、敵のほうからぶつかっていきますよ。

 信頼できぬ者を前に出さない、兵法の基本をどうか思い出してくださいませ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ