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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
マウストで征西を見守る

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134/170

134 職業の秘密

 タルシャには懐妊祝いの使者をすぐに出した、使者に託した手紙には夫として自分が行けないのが残念だと書いてある。俺の正直な気持ちだ。

 だが、マウストを長く留守にできるほど、俺は暇じゃなかった。


 自分の支配が及ぶ土地の戸籍調査をさせている。どれぐらいの兵を動員できるのか、現状ではよくわからない土地も多い。領主の自己申告でもいいが、わざわざ多く言う奴はいないから、数を知っている必要はあった。


「表面上は内政をやっているように見えていて、ちょうどいいですね」

 俺の仕事を手伝っているラヴィアラが言った。

「そうだな、王都には土地の経営に着手していると思ってもらっているほうがありがたい。だいたい、警戒を解くためにマウストに戻ってきてるんだから、そうでなきゃ困る」


「もちろん、表面上ですけどね」

 ラヴィアラは楽しそうに笑った。とても政治の話をしているような雰囲気はなくて、もっとほがらかだった。

「これで、アルスロッド様の軍隊はますます強くなりますよ。そう、王国最強にして最大規模の軍隊に! アルスロッド様が戦えと言えば、どんな敵でも滅ぼす軍隊に!」


「本当にそうなってたら、もう悩むことは何もないんだけどな」

 楽観的なラヴィアラと比べると、俺のほうは我ながらずいぶん慎重だなと思う。


 最強のはずの立場でありながら、足元をすくわれた奴は過去に何人もいる。どこかに落とし穴が会ったり、足りないものがあったりする。

 なにせ、オダノブナガだって天下まであと一歩ってところで死んだんだしな。


 ――わざわざ、そこでワシのことを持ち出すな。うっとうしい奴め。


 職業のほうから苦情が来た。


 ――だが、本当にもう少しというところで死んだのは事実だ。というか、謀反など反則だ。謀反や暗殺のおそれを完全に消すことは誰もできん。くそっ! くそっ! もう一度やり直せれば光秀に狙われないように立ち回れたのに!


 まあ、そればっかりは無理だな。来世で別人になることはあっても、同じ人生をやり直せるってことはない。


 ――そうか、そういう考え方もあるかもしれぬな。


 オダノブナガが何か思い至ったらしい。


 ――同じ人生は二度はやれぬ。それはまさに真理だ。しかし、逆に言えば、ワシはその人生の記憶を使って、こうしてお前の中で生きている。いや、心臓が動いておるわけでも、手や足を自由に使えるわけでもないが、意識としては残っておる。


 だな。たまにうるさいって思うぐらいだ。おおむね、感謝してるけどさ。


 ――つまりな、ワシは事実上、お前という体を借りて天下統一の夢をやり直そうとしておるのかもしれん。だから、職業としてこの世界に現れたのではないか? いや、きっと、そうだ。その程度の未練は死ぬ時にあったからな。


 神様が出てきたりでもしないかぎり、証明のしようがない仮説だが、言いたいことはわかる。

 それなら、オダノブナガが俺の職業として存在している理由もわかる気がするのだ。


 人口の割合からすれば、いくらオダノブナガが意思を持ったまま職業となっても、地位がないに等しい農民や町人の職業になる確率のほうが圧倒的に高い。そして、農民の地位から王国を作るのは領主として王国を作るのより、はるかに難しい。


 ――とすると、光秀が裏切らないのも腑に落ちる。あやつはワシを討ったことを悔いたはず。それで一族滅亡ということになったのだからな。あそこでワシに謀反を起こさず、粛々と働いていればと思ったとしてもおかしくはない。

 とすると、次は職業として出てきた時も、忠実な家臣となれる地位で復活してくるだろう。


 なるほど、ケララが俺に心から仕えてくれるのは前世に俺の職業を裏切った負い目や反省があるからということか。

 説としてはなかなか魅力的だ。繰り返すが、証明不可能なので、仮説にとどまるけど。


 ――うむ。これで間違いない。信玄を職業に持つ女がお前に戦いを挑んだのも、信玄が一度ワシと一戦交えたいと思っていたからだし、その力を見て、屈服したというのもわかる。信玄は自分が最強だとは思っておったが、その次に強いのはワシと考えていたからな。自分が勝てなかった時点で、お前に従うことにしたのだろう。うん、筋が通る。


 オダノブナガはやたらとご満悦そうだった。俺には元の本人たちのことまではわからないのでなんとも言えないが――

 ある特定の世界の、さらに特定の時代の人間が職業として、この時代に集中的に生まれているのは確かだ。


 戸籍調査の際に、過去の戸籍も確認のため、見る機会があった。土地によっては職業を記入しているものもあったのだ。剣士、魔法使い、農夫、牧人、どれもありふれた名称ばかりだった。

 こんな謎の人名らしき職業は過去のものには記載されていない。庶民より記録が残りやすい領主階級のほうでも、過去に変な職業の者がいたという資料はない。


 だから、これはこの時代に特有の現象である可能性が高い。


「――様、アルスロッド様」

 ラヴィアラに呼ばれていた。


「ああ、悪い、考え事をしていた」

「アルスロッド様、たまにぼうっとしていることがありますよね。いえ、ぼうっとというのは違うか。外の言葉も聞こえないほど、集中しているっていうか」

 ラヴィアラにも職業と話ができるということは言っていない。同じことを経験している者はまだ会ったことがないし、にわかに信じがたいだろう。


「ヤーンハーンさんがいらっしゃったそうです。王都の情勢をお伝えに来たのかと」

 そういえば、ヤーンハーンもセンノリキュウとかいう職業を持っていたな。


 ――利休はなかなか面白い奴だったぞ。悟っているようでもあり、もっと企んでいるようでもあった。ああいう食えない奴がいるとなかなか愉快だ。


 そんな奴らを近くに置いておくから、謀反なんかも起こったんじゃないかと思うが、結果論を言ってもはじまらないだろう。


「わかった。すぐに会う用意をしよう」

 マウスト城にも茶室を作っている。

2巻は11月発売です! よろしくお願いいたします! 今から地図の打ち合わせで出版社行ってきますw

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