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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
マウストで征西を見守る

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133/170

133 タルシャの子

 タルシャからの戦勝報告はそのあとも続き、ひとまず北部二県の制圧は完了しそうだった。

 あいつはゆるやかな同盟ではなく、あくまでも自分を頂点にした政治秩序を北部二県で作ろうとした。それはほぼ成功した。


 正しい判断だ。小領主がそれぞれ生き残っていける時代はもう終わりと迎えつつある。

 俺も、滅んでいったエイルズ・カルティスもブランド・ナーハムもそのことを知っていた。だから、自分の力が及ぶ範囲を広げようとした。


 あいまいな同盟者は俺が裏切られたように、どこで違う動きをするかわからない。安全のために、みずからが強大化するのが一番早い。


 しかし、そんな戦勝報告の中に、異質な書状が混じることになった。


「子供ができた、か……」

 タルシャは妊娠しているらしい。俺の子供だと書状には書いてあった。


 セラフィーナには「旦那様の子供で国を埋め尽くすつもり?」とからかわれた。

「それは言い過ぎだ。言い訳をさせてくれ」

「どうぞ。どんな言い訳が来るのかしら」

 もう、セラフィーナも一族が滅んだ傷も癒えたのだろうか。あるいは、このやりとりもセラフィーナなりの仕返しなんだろうか。


「俺よりも女にだらしない王も、子供が多かった王も古来いくらでもいる。最低でも俺は名前も覚えていない町娘の子供なんてものは作ってない。ほかの大領主だってみんな似たようなものだ」

「それは、旦那様が女好きでない証明には何もなってないわ。さらなる女好きがいたというだけのことよ」

 マウスト城の中でセラフィーナだけが俺をこんなふうにからかってくれる。

 なんというか、セラフィーナの前でだと、摂政という重い殻を脱げる気がするのだ。


「ああ、俺は女好きだ。でも、女嫌いな男のほうが少ない。それはよほど偏屈の神官とかそういうのだろうさ」

「あらあら、今度は居直ったわ。まあ、でも、タルシャって子も後継ぎができてほっとしてるんじゃないかしら。……いや、それは言い過ぎね。子供は生まれるまで不安になるものだから」


 そのあたりの気持ちは女ではない俺にははっきりとはわからないが、気味の悪さもあるだろう。俺ができるのは、どうか清潔な環境で出産して、母子ともに健康であることを祈るだけだ。


「書状にも、もしもの時に備えて次の辺境伯を定めておくと書いてあった。なにせ、父親がマウストにいるわけだからな。ちゃんと、俺に協力的な親類を選ぶらしい」

 通常は、君主が死んだ場合、配偶者が家長代行をつとめる場合が多い。その権限は君主の血を継いでいない婿や嫁の立場でも変わらない。


 しかし、今回はタルシャは結婚はしていないので、話はややこしくなる。

 家臣団が俺をマチャール辺境伯と信任してくれれば、一応、話の上では矛盾はなくなる。だが、それは家臣団の気持ちとしては難しいところだだろう。

 婿として土地に入ってきてもいない奴、しかも自分たちの主君を勝手に妊娠させた奴だ。そのあたり、タルシャはフォローはしているだろうけど、かなり特殊なケースにはなる。ひとまず、血縁の中から次の辺境伯を決めておくほうが無難ではある。


「彼女、やけに荒っぽい人間だと思っていたけど、そのあたりの手続きは、むしろ慎重ね。見直したわ」

「タルシャは大領主の器量を持った女だよ。それは間違いない。俺の子供だと喧伝することが最も効果的だと考えたわけだ」


「あら、まるで自分の子供ではないみたいな言い方ね」

 どこかセラフィーナは不満そうな顔になる。

「だって、後継ぎが必要なのは事実だし、あいつの立場なら愛人を作ることぐらいはできるだろ? どうせ、証明はできないんだし、俺との子だと言い張ればいいわけだし……」


「旦那様は政治家でも軍人でもあるけれど、女心のほうはちっともわかってないのね」

 セラフィーナがわざとらしくため息をついた。これは本当にあきれた時の態度だ。


「あの人は旦那様を心から愛していたわ。そりゃ、政略のことを思えば愛人を作るのは悪くない策だけど、あの人はきっとそんなことしてない。旦那様の子よ」

「やけに自信満々だな……」


「わかるわよ。同じ人を愛した者同士なんだから」

 ちょっと、ドヤ顔でセラフィーナは言った。そう言われたら、俺はもう絶対に否定できない。


「だいたい、自分の力で生き抜いてきた人ほど、打ち負かされた相手に惚れてしまうものなのよ。それほど興味をそそられる人間なんて、そうはいないでしょう? その興味が恋というものよ」

「恋にしては、すぐに体を求められたんだけどな」

 最初はタルシャは体の中に獣でも飼ってるのかと思った。


「それだけ情熱的ということよ。けっこうなことじゃない。まっ、旦那様の子が北国でも元気に育つことを祈っておきましょう」

 職業が聖女らしく、セラフィーナはそっと目を閉じて、手を組んで、祈りを捧げた。


 言葉づかいは人を食ったものだけど、その実、セラフィーナはとてもまっすぐな性格をしている。


 職業と人格はある程度、関連する。もしも、ほかの誰かの幸せを願うようなことができない人間だったら、セラフィーナは聖女だなんて職業を手にすることはなかっただろう。


「セラフィーナ、まだまだお前に苦労をかけると思うけど、よろしく頼むな」

「言われなくても、旦那様を支え続けるわよ。覚悟してなさいね。まだ何十年も支える予定なんだから。王になる前の期間なんてほんのちょっとでしかないわ」


 俺は女好きかもしれないけど、少なくとも女運には恵まれていると思った。


「セラフィーナ、愛してるぞ」

「どうせほかの妻にも言ってるんだろうけど、悪い気はしないわね。これでわたしを愛さないんだったら罰が当たるというものだわ」

 セラフィーナは上機嫌に笑った。


 どうにか西のほうで動きが起こる前に、北方が収まった。

 さて、マウストでできる準備を進めておこうか。


2巻は11月発売です! よろしくお願いいたします!

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