11 魔王なるもの
今日も日間1位! 本当にありがとうございます! まだまだ走り続けたいと思います!
俺が領主になった直後はしばらく庶務で忙しかった。
まず、代替わりになったので所領保護の書状を、家臣や領内の神殿などの施設に送らないといけない。
これまでは前領主のガイゼルの名で所領保護を約束していたので、俺のアルスロッドの名前で出しなおさないといけないのだ。
まあ、これは内容のチェックをすればいいだけなので、事務的にやればいい。
ただ、人と会うのは、どうしても時間をとるし、気疲れもする。
いろんな人間が新領主にあいさつに来るので、これを迎え入れないといけないのだ。これはこっちの都合ばかりで合わせられないし、外交使節をむげに扱うと失礼にもなる。
ちなみにラヴィアラも側近としていつも横にいたので、同じように疲れていた。
「あ~、肩がこりますね……。アルスロッド様……」
ラヴィアラは肩をしきりに押さえていた。俺とラヴィアラしかいない時になると、少しラヴィアラも素を出す。気心知れない家臣がたくさんいる場だと、どうしても俺の側近として力を入れてないといけないからな。
ちなみにラヴィアラは正式に妻としては迎えていない。立場上、政略結婚は必須なので、あまりおおっぴらにラヴィアラと婚儀を挙げてしまうと、その不都合になるからだ。あと、寂しい話だが、ラヴィアラはハーフエルフだから正室にすると言うと、身分的に好ましくないと言い出す奴もいるだろう。
とはいえ、領主なんだから愛人が何人かいても咎められることはない。もう、俺も十八歳だし、むしろ子供がいないままのほうが問題なぐらいだ。早く、ラヴィアラとの間に子供もほしいと思う。
「しょうがないだろ。こういう面倒な仕事も領主のつとめだ」
「子爵になったから、もっと華々しい生活ができるかと思ったんですけど、そうでもないんですね……。ああ、十代でこんなに肩がこるなんて……」
「なら、肩でももんでやろうか。今はほかに誰もいないし、俺の威厳も損なわれないだろ」
「えっ、アルスロッド様がですか!? 畏れ多いです!」
ラヴィアラは赤面して手を横に振った。
ある意味、妻でもあるんだけど、ラヴィアラは臣下の立場は崩さない。
「なんで今更肩をもむのに、照れてるんだよ。ほら、貸してみろ」
ちょっと強引にラヴィアラの肩に手をやった。想像以上に固くなっている。
「お前、どれだけ緊張しながら、俺の政務に付き合ってるんだ……?」
「だって、いつどこアルスロッド様のお命を狙う賊が潜んでいるとも限らないじゃないですか……。あっ、そこ、効きますぅ~」
ラヴィアラも肩をほぐされて、だいぶリラックスしてきたらしい。
ちょっと、イタズラしてそのハーフエルフ特有の、エルフほどとがってはないけど、確実にとがってる耳に息を吹きかけてみる。
「ふぅ」
「あっ、やめてください……ラヴィアラ、本当に耳は、ダメ、ダメなんですぅ……」
ラヴィアラがへたりこんでしまった。足にも力が入らないらしい。想像以上に効果がありすぎた。
「悪い。ここまでとは思わなかった……」
「こ、こういうのは、ダメですよ……。よ、よ……夜まで待ってください……」
顔を赤らめてそう言うラヴィアラを見てたら、こっちまで恥ずかしくなってきた……。
「わかった……。夜にな……」
まさか、ラヴィアラとこんな関係になるだなんて、月日が経つのは早いと思う。数年前まで一緒に勉強したり、剣や弓の練習をしていたのに。
と、そこに家臣があいさつに来た者がいると伝えてきた。
「筆頭神殿の神官殿がごあいさつにいらっしゃいました!」
筆頭神殿というのは、領内で最も重要な神殿と領主が認めた神殿のことだ。郡の中にもいくつも神殿はあるので、その統制のためにも筆頭神殿から第五神殿まで大きな神殿には格付けを行っているのだ。
「わかった。通してくれ」
あいさつに来たのは俺にオダノブナガという職業を与えたあの神官だった。もさもさの白いヒゲをたくわえている。
「お久しぶりでございます。神官のエルナータでございます。まさか、子爵様まで出世なされるとはあの時は思っておりませんでした」
「兄上が病気になられたのでな。めぐり合わせなだけだ」
表面上はガイゼルは病死したことにしている。わざわざ兄殺しの汚名を着ることもない。あの世にいった兄も、弟を殺そうとして逆に殺されたということを後世に広められるよりはマシだろう。
「オダノブナガという職業は有用に働いておりますでしょうか? 私も託宣を述べた立場として心配しておりました」
「それなら何の心配もいらんさ。むしろ、感謝しているぐらいだ」
この職業のおかげで領主になれたようなものだ。
「はい、それで少しお時間をいただければ、オダノブナガという言葉について音声診断をいたそうかと思いました」
音声診断というのは名称の音の響きで行う一種の占いだ。
――ふん、くだらぬ。占いなどで何かがわかれば、戦争で負ける者などおらぬはずだ。縁起をかついだ出陣ばかり、どこの大名もしておったはずだからな。
心の声が文句を言った。たしかに一理あるな。戦争はたいがい、どこの領主も運がいい日や時間を意識して出陣する。それで勝てるなら負ける人間はいないことになる。
人の名前を付ける時も明らかに不吉とされる音声にはしないはずだから、その論理でいくと、不幸な人間はいないことになる。だが、現実には戦死した人間も若くして病死した人間も無数にいる。
けど、このオダノブナガについてどんな結果が出るのかは素直に興味があった。
「よし、やってみてくれ。何時間もかかるわけではないだろうし」
「かしこまりました」
神官エルナータは床に布を敷いて、その上に砂を方陣状になるように垂らした。それからオダノブナガという名前を中央に書く。
「どういった結果になるんでしょうかね?」
ラヴィアラも興味深そうにその様子を見守っている。ラヴィアラは自分のことより俺のことにいつも興味があるのだ。
「おお、これは……なんということだ……」
「どう、なされた? そんなに奇妙な結果が出たのか?」
「オダノブナガという音は、いわば魔王なるものを意味します……」
「魔王? それはモンスターを統べて世界を支配するとかいう、あの魔王か?」
この世界にはゴブリンやオークといった亜人もいれば、精霊のようなものも住んでいるし、ビヒモスやクラーケンといったモンスターもいる。だが、モンスターを支配する魔王の存在は伝説にはなっているが、実在は確かめられてはいない。
「はい……。戦士とか魔法使いといった職業名で言えば、魔王と呼ぶのが一番適切でしょうか……。気を害してしまったら申し訳ございません……」
――魔王か。その神官、なかなか見る目があるではないか! たしかに魔王を戯れで名乗ったこともあったな!
心の声が笑った。
俺も思わず、笑ってしまった。
「あの、何がおかしいのでしょうか……?」
「いやいや、それは吉報だと思ったのだ」
ラヴィアラは俺の気持ちがわかっているらしかった。
「魔王といえども、王の内ですからね。ネイヴルの領主にとどまらず、王を目指していらっしゃるアルスロッド様にはふさわしい職業です!」
「そういうことだ。まあ、せいぜい魔に染まらぬように仁政を志すさ」
今日も二回更新を目指したいです。夕方か夜かまだ怪しいですがもう一度更新します!




