108 義弟を攻撃
俺を裏切った者の中にはファンネリアの顔もあった。
長らく財務官僚として活躍して、俺にラッパをくれたワーウルフだ。
「まさか、お前までこんなことをやるとはな。そこまで冷遇したつもりもなかったんだが」
「王都にいらっしゃってからは、すっかり忘れられてしまったと感じておりました……」
ファンネリアは悄然として言った。
「だとしたら、お前の力が及ばなかったせいだ。王都にはもっと優秀な者がいくらもいた」
「あなた様にラッパを渡してしまったのが運の尽きですな。あれを手元に持っていれば、どうとでもなったものを」
諦めたようにファンネリアは笑った。それはそのとおりだろう。
「勝負のしどころを失敗すれば商人は破産するしかない。お前らしい終わり方だ」
ファンネリアもほかの者と同じようにマウスト城下で首を斬られた。
――お前もワシと同じようによく裏切られるな。だが、これも覇王になるための試練のようなものだ。お前の権力が強まれば強まるだけ不安に思う者も増えるからな。
オダノブナガが言いたいことはわかる。まあ、抵抗勢力が出てくるのは想定済みだ。
マウスト城に入ると、城を守っていたシヴィークをあらためて賞した。
「お前がマウスト城で持ちこたえてくれたから、俺はこの城に帰ってくることができた。本当によくやってくれた」
「いえ、私も人生最後の大仕事と思って、懸命に働いた次第です」
本人の言葉のとおり、シヴィークは以前見た時より、縮んだように見えた。もう、孫が家督を継いでもおかしくない年齢だ。そろそろ限界だろうか。
「お前の希望を聞くが、まだ引退せずに現役でやるか? それとも隠居するか?」
「そうですなあ。わがままを言わせてもらえれば、邪魔にならぬ程度に働かせていただきたいなと思っております。なにせ、隠居して何をすればよいかも予定がありませんし」
シヴィークは笑いながら薄くなった頭をかいた。
「たしかにお前のような男は、戦陣の中にでもいるほうがかえって長生きできるのかもな。わかった、武神のように遇してやる。それと、褒美の目録だが、ラヴィアラ、目録を」
ラヴィアラが笑顔で、シヴィークに目録の紙を渡した。それを読んだシヴィークの口が驚きで開いた。
「なっ! オルビア県のタクティー郡・ナーハム郡と言うと、ブランド・ナーハムの所領ではないですか……」
「そういうことだ。あいつは俺が滅ぼす。少なくともあいつは俺を滅ぼすつもりだからな。近日中に兵を出す。あいつに返してもらわないといけないものもあるしな」
妹のアルティアを必ず引き取る。それとアルティアの子も。幸い、娘だったから殺す必要もない。
俺はその日、ブランドに向けて書状を送った。降伏勧告などではない。そんなものを許すつもり自体が俺にはない。
妻と敵対するからには、こちらに送り返すようにというものだ。これは古来から嫁いだ女の国が敵となれば行われているものだ。別に無礼ではない。
それとラヴィアラは直接アルティアに向けて、手紙を書いた。俺のと一度に送るためだ。
内容は、摂政のところに来れば何も心配いらない、両家が敵対してしまったことは悲しいことだがどうかここは戻ってきてほしい、決してナーハム家に殉じるようなことは考えないでほしい、といったもの。
そこに書いてあることは、俺の意見とまったく同じだと言っていい。ただ、摂政の地位にある者があまり自分の言葉で弱音を吐くわけにはいかないのだ。
俺はラヴィアラが持ってきた書面を確認して、「うん、問題ない」と許可を出す。
「ラヴィアラの手紙の中でぐらい、アルスロッド様の気持ちを入れてもよかったんじゃないですか?」
「次にアルティアと出会った時にいくらでも口で語ってやるよ」
王になるのも難しいものだな。どんな強敵と戦うより、こたえるかもしれない。
けど、きっとアルティアの命と引き換えに王になれるなら、俺はその道を選ぶだろう。
国が統一されれば、はるかに世界は平和になる、多くの命が救われる――そんな言い訳を探して。
書状の返事は到着してから一週間経っても来なかった。
その間に俺はオルビア県に攻め込む準備を進めていた。
わかってはいたことだが、黙殺されたな。ブランドも愚かな男じゃない。直接対決しかないなと理解しているだろう。
俺はでブランドの領地、山深いオルビア県に二万の軍を動かした。
ブランド、お前は俺が倒す。お前の英雄への道はここで終わりだ。
兵を進めだした当初から、投降者が相次いだ。
それに、オルビア県の小領主もすぐにこちらにつくことを表明した。王と摂政に刃向かうブランドを討つと口だけは達者に言っていた。
もっとも無意味な加勢ではない。オルビア県の土地勘はあまりない。地理を教えてもらえるのは僥倖だ。
ブランドも峠などをいくつも砦に改造して、俺に抵抗してきた。その執拗さはさすがと思った。まだ、ブランドは諦めてはいない。俺をどこかで退治できないかと本気で考えている。
だからこそ俺も負けていられない。それに応じるように全力でつぶしにいく。
いくつもの方向から砦に乗り込んで、確実に落とす。
敵の城を攻めるのは、一種の根比べだ。先に音を上げたほうが負ける。負けるだけならいいが、命を失うこともある。
俺の将も一人一人がずいぶんと成長している。だから、大半の砦は配下に任せていれば、勝負はつく。おかげで想像以上に早く敵の本拠にたどりついた。
のぼるだけでも一時間近くはかかるだろう山上にいくつもの建物が並んでいる。この城はそうそう落とせないだろう。それに落ちなかったから、ナーハム家はここまで残ったんだろう。
それでも俺はこの城を落としてやる。
GAノベルの制作作業もかなり進んでおります! そろそろ情報をアップしますので、もうしばらくお待ちください!




