1 魔法剣士を求めて
新連載はじめました! よろしくお願いします!
領主階級に産まれたけど、それで恵まれていると思ったことはなかった。
理由は自分が領主の次男に産まれたからだ。
すでに十歳上の兄が領地の継承権は持っていたし、自分はさらに妾腹の子だった。その母親は俺が三歳の時に妹を産んだ時の予後が悪くて死んでしまったし、領主の父親も自分が十歳の時に病死した。
おかげで俺は腹違いの兄に徹底して迫害されて、この数年間を生きてきた。
向こうは正統な領主で、俺は家臣の一人として扱われた。小さな村の半分を与えられただけで、そのうえ近隣の領主との戦争になれば、まだ大人の仲間入りを果たしてもいないのに、そこに駆り出された。
でも、そんな不遇の日々も今日で終わる。
「アルスロッド様、やけに機嫌がいいですね」
俺に服を着せてくれているお付きのラヴィアラに言われた。正装は自分一人だけでは着ることができないのだ。背中側にいくつもボタンがある。
「そっか、ラヴィアラにもわかるんだな」
「当然ですよ。このラヴィアラ、十七年近く、アルスロッド様のそばで仕えていたんですから!」
ラヴィアラは数少ない俺の家臣、というか幼馴染みたいなものだった。
エルフの血が入っている娘で、そのせいで耳がとがってて、きれいな金髪をしている。
乳母子といって、俺に乳をあげて養育してくれた女性――つまり乳母の娘に当たる。歳も一緒なのでほとんど家族みたいなものだった。
逆に言えば、ラヴィアラが乳母子であること自体が俺の身分の弱さをさらけ出してるんだけど。
この土地でエルフの身分はあまり高くない。正室の子である兄との差をつけるためにエルフの血を引く人間を乳母にされたのだ。もちろん、そんなことでラヴィアラを避けるようなことはしないが。
「今日、やっと俺は大人の仲間入りを果たせる。そして、職業を授けてもらえる」
この国では長じて大人になると、職業をもらうことになっている。
神官は神の声を聞いて、その人間の適性を知ることができるのだ。
といっても、その職業で一生働いて、食っていけるというわけではない。たいていの場合、その適性は一般人よりちょっと優れているといった程度のものでしかないのだ。
つまり、農民の息子が「お前は戦士の職業である」と言われても、少し腕っ節が強いだけで、それで戦士となって生きていくことはほぼ無理というわけだ。一応、職業によって能力のボーナスがつくことがあるので、戦争に徴発された時には役立つかもしれないが。
領主の場合も、戦士に向いてると言われたから領主をやめて戦士になるということはまずありえなくて、戦闘で活躍する領主を目指すだけだろう。こういったところから、神殿で授けられる職業は「適性職業」といって、実際の仕事とは別に呼ばれることも多い。
しかし、稀に人生を左右するような非常に強力な職業がある。
その一つが、魔法剣士だ。
魔法と剣術、その両方に秀でた、いわば英雄のためにあるような職業で、実際、過去に王朝を建てた者はみんな魔法剣士の職業を持っていたという。
魔法剣士になっておおいに活躍すれば、俺をいじめる兄もこっちを認めざるをえなくなるだろうし、武名が広がれば今は傾いているとはいえ、中央の王家から直々に仕えるように命令が下るかもしれない。
ほとんど何の権利も与えられず、生きるか死ぬかの戦争ばかりやらされる小領主の次男坊という立場から抜け出せるかもしれないのだ。
それ以外にも賢者とか、僧侶とかいった職業でも勉強のために王都に出ると言って、今の土地を離れるチャンスはある。優秀な賢者や僧侶になれば、魔法を使って活躍できるので、兄も認める可能性はそれなりにある。
だから、俺が浮かれているのは当然なのだ。
「必ず魔法剣士になってやる」
そのために、これまで魔法に関する書物を読み、剣のほうもそれなりに鍛えてきた。自分から魔法剣士に近づくためだ。
「ラヴィアラとしては、賢者になって研究機関に入ってほしいですが。今のサーウィル王国は『百年内乱』の途中ですから……。はい、服の着付けは終わりましたよ!」
ラヴィアラが元気な笑顔で俺の正面のほうにやってきた。
「戦わずにすめばいいんだけど、戦わないと周辺の領主に滅ぼされるしな」
三百年続いたサーウィル王国は王家の力が弱まり、各地の領主が互いに土地を奪い合う内戦状態に陥っていた。俗に『百年内乱』と呼ばれている。やたらと戦争に出ないといけないのもそのせいだ。
「戦うにしろ、平和を望むにしろ、力があって困ることはないだろ」
「はい、アルスロッド様が聡明なのはよく存じあげておりますから……。どうか、アルスロッド様の未来に栄光が待っていますように」
手を組んで祈ってくれるラヴィアラの頭を俺はそっと撫でた。
そして、俺はラヴィアラとともに領内にある神殿に向かった。
「子爵の弟君アルスロッド様ですな、さあさあ、こちらへ」
領内の神殿に対する資金援助は領主の仕事だから、神官の俺への扱いも悪くはなかった。
老齢の神官に神像の前に連れていかれる。
「そこで頭を垂れていただきとうございます。そして、わたくしが神からアルスロッド様にあったご職業をお伝えいたします。目を開けてよいと言うまでは、じっと瞑目しておいてくださいませ」
「うん、よろしく頼む」
離れたところから見守っているラヴィアラの視線を感じた。
さあ、頼むぞ、魔法剣士と言ってくれ!
2話目は早目にアップします! 今日のうちに3話目までアップする予定です。