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 王国エントーヴァンには悪女が二人いる。

 二人はその美貌を武器に結託して数々の男を籠絡し、数多の女を憤慨させた。破滅に追い込んだ恋人、婚約者は数知れず。


 それ以上に罪深いのは、この国の身分制度を悪用した点にある。

 この国には三つの身分があった。王侯貴族、平民、そして眷属だ。

 眷属とは職を失った平民が一時的に貴族に絶対的な忠誠を誓うことで生活を立て直すための一種の救済でもある。『誓約』を貴族と結び、その身を保証してもらう代わりにその貴族を主と仰ぎ裏切らないと誓う。無事に自力で生活を営めるようになったら『誓約』は解除され、眷属から平民に戻る。

 それが当初の仕組みだった。

 だがいつしか貴族はそれを悪用するようになる。『誓約』を交わせる貴族はその正しき意味を履き違えるようになり、時として人としての権利を踏みにじる行為に走った。好みの異性をはべらすために『誓約』を強制的に交わして好き勝手に扱ったり、気に入らない人間を奴隷の身分に落とし人生を滅茶苦茶にした。更に悪いことに、『誓約』は本来眷属にした人間の生活を確保することから、主が養えない場合に備えてその権利の委譲が可能だった。これが裏目に出て、闇市場で人身売買が盛んになった。貴族から『誓約』を委譲してもらった商人はそれを手に彼らを商品として扱い、買った人間なら誰でも主になることができた。

 そうして眷属はやがて、奴隷と呼ばれるようになった。


 人の上に立つ者としての部をわきまえない愚か者が増えてきた現状を憂いた先王は、他者の意見も聞かずに独断で一つの策を編み出した。

 貴族さえも、眷属の身分つまり奴隷に落とせるというものだ。それができるのは貴族の上に立つべき存在である王族のみ。だが同時に、貴族に刻まれた『誓約』を解除できるのも王族に限られた。それは当時の国王の驕りだったのかもしれない。

 同時に、己に歯向かう貴族達への牽制でもあったのだろう。貴族たちはそれに反発、もしくは震撼した。しかし制度に書き加えられたものを簡単に覆すことはできず、その場で歯噛みするしかできなかった。

 だが彼の死後数年でそれさえ悪用する者が現れる。


 悪女の一人、フランセット・エントーヴァン。名前のとおり、この国の第三王女である。

 貴族をも奴隷にするようにした先王の孫娘であり、この仕組みに目を付けた人間だ。彼女によって既に幾人かの貴族は奴隷の身分に落とされ、闇市場に売られていると言う。その貴族たちの共通点は、現在の身分制度そのものを疑問視し、平民の身分に戻すよう努めていた善良な貴族たちであった。これによって他の貴族は彼女を恐れ、公に奴隷達の立場改善に取り組むことができなくなる。

 奴隷たちを助けようとする貴族に睨みを聞かせるフランセットとは逆に、もう一人の悪女である名門バスティード家の令嬢ユルシュルは次々に民を奴隷に落とす。王都に住む彼女は様々な地域から人間を集め、強制的に『誓約』を交わし奴隷商人に引き渡した。本来であればそれは咎められるべき犯罪であったが、彼女は美貌と巧みな手段によって国王と第四王子を味方にし、悪行を繰り返した。


 二人の思惑は、一握りの人間を除いた国民を『誓約』によって縛ることだと言われている。

 無慈悲に奴隷を生み出すユルシュル・バスティードと、奴隷に同情的な貴族を容赦なく叩き落すフランセット・エントーヴァン。

 史上最悪の二大悪女によって、この国は根幹から大きく揺さぶられていた。




 だがそんな渦中、希望の光が生まれる。

 一つは貴族側から、もう一つは奴隷側である。


 その奴隷側の希望の光を人々は解放軍と呼んだ―――――――

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