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『男は何人いるんだ。3人か?複数の男と付き合えるのなら、もうひとり増えても、支障はないだろう。』
『次の男のところにいく時間じゃないのか。』
感情が高ぶって、口にした言葉だったが、マリーの顔色がだんだんと青褪めていったことで…
ラファエルはハッとして
「俺は…なんてことを…すまない…」
と口にしたが、マリーを見ている事ができなくて、視線を自分の足元へと動かしてしまった。
だがマリーは、青褪め俯いてしまったラファエルとは対照的に、ラファエルから視線を一ミリも外すことなく
「…18時から21時までなら…」
「…えっ?」
「10時から17時まではアドニスさんと、22時から翌朝4時まではライナスさんと約束があるの。ここに滞在中の間だけでしょう。だったら、18時から21時までの時間なら空いてるわ。ただ、私のことは詮索しないで、必ず18時までにはここに来るから。都合が悪ければフロントに言ってて…。じゃぁ、ライナスさんが待っているから行くわ。」
そう一気に言ってマリーは踵を返し、ドアのノブに手をかけたが、回すことはしないで…
「…名前…言ってなかったわね。アデルよ。」と言って振り向き、にっこりと笑うと部屋を出て行った。
ラファエルは呆然としたままマリーが出て行った、扉を見つめ…
「…18時から…21時まで…」
と口にして…力が抜けたようにソファに倒れこみ
「蓮っ葉な物言いに、腹が立ってしまったといえ、女性に対して、あんな態度をとるなんて…それも10代の少女に俺は…最低だ…。」
と言って、マリーが出て行った扉から、視線を外す事ができなかった。
そしてマリーは…。
部屋を出るとにっこり笑った口を、だんだんとへの字しながら歩きだした。
娼婦のように扱われるとは思わなかった、売り言葉に買い言葉だった…悔しくて、悲しくて…
「どこが華やかで、恋愛小説みたいな世界なのよ。ちょっと覗きたかった世界は…ぜんぜん…ぜんぜん煌めいていなかった。ひどいよ。娼婦じゃないもん…ひどいよ。」
そう口にしたら、我慢していた涙が決壊してしまい、マリーはその場に座り込むと、自分の体を両腕で抱きしめ、丸くなり声をあげて泣き出した。
「ぜ…ぜったい。王子のスキャンダルを手に入れるんだから…そして…そして…いい女になって私に夢中にさせて…振ってやるんだから!」
そう言って、また大きな声で泣いたが…その泣き声はだんだん小さくなっていった。
一気に流れ込んだ怒りや悲しみが、心の中に穴を開けてしまったのか、マリーはしばらくぼんやりと座り込んだままだったが、自分の影が廊下に伸びているのに、ようやく気がつき、ゆっくりと頭を上げた。
今宵は、綺麗な月夜だった。
そこには、窓ガラスの上部に月が見えた。
月の光を浴びながら、マリーは月を見つめ、目に月を焼き付け、そのまま静かに目を閉じて
「いつか、本のような恋をしたいのとおばあさまに言ったら、こうやって満月の夜に、祈ったらいいと教えてくださった。
From ground to Air
《地上からの風(空気)》
From air to ground
《風(空気)のめぐる地》
Do you like me?
Do you love me?
《私のことが好き?愛してる?》
I need to know the answer
《答えが知りたいの。》
Dragon's Eye and angel wings
《龍の瞳と天使の羽と。》
Do you like me?
Do you love me?
《私のことが好き?愛してる?》
Earth and air , fire and water
《この世(地球)と風(空気)、炎と水》
Do you like me?
Do you love me?
《私のことが好き?愛してる?》
It its time to know the answer
《時が答えを知っている。》
…と満月の夜に、何度も祈ったのに…それが素敵な恋どころか…」
と言いながら目を開け…
「…18時から21時までの時間なら…空いてるわ…か。売り言葉に買い言葉だったけど、自分から娼婦だと…言ったようなものだわ。」
緑色の瞳を揺らし、月の光をたどるようにして、月を見つめていたが立ち上がると
「行かなきゃ、取り敢えずバイトは行かないと…」
そう言いながら、苦笑すると…
「どんなに、悲しくたって、生きていく為には働かないと…そう考える私って、美貌は遺伝しなかったけど、この能天気さは、アデラおばあさまに似ているのかなぁ。」
そう言って、マリーは歩き出していた。
そんなマリーの後姿を、月はいつもより明るく照らし…
扉から今も視線を外す事ができない青年にも、同じように明るく照らしていた。
満月の夜に唱えるおまじないだそうですが…う~む。