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「ラ、ラファエル?本当に…本当にラファエルなの?…お願い顔を見せて。」
クスリと笑ったラファエルは、私を自分の胸へと反転させると、顔を私に見せるよりも、口付けてきた。私の瞳は大きく見開いたが…そっと瞼を閉じ、その唇から伝わる思いに涙を零しながら唇で答えていた。
(やっと…会えた、会いたかった。)
(もう、離さないで)
唇から伝わる言葉は熱く私を翻弄し、ラファエルの唇が、私のすべてを確かめるように、深くなると、堪らずラファエルの背中にしがみ付いたら、
舞台の上から、十数人の男たちの大きな声が聞こえてきた。
「おーい!兄ちゃん達よ。いちゃつくのは早ぇーぞ!!祭りは明日だぞ!!」
慌てて離れようとする私をラファエルはきつく抱きしめると、舞台の上に向かって
「ずっと、この日を待ってたんだ!」
「明日の祭りまで、待てねぇってのか!!」
「あぁ、もう一秒だって待てない!」
わぁ~!!と男たちの囃す声にラファエルは大きな声で笑うと、ポケットから、あのスカビオサの淡いピンクとスノーフレークの白い花を模して作られた髪飾りを出して、私の髪に刺しながら
「やっぱりマリーは俺だけの花の妖精だ。」
「…これって去年…買ってくれた…あの…髪飾り?」
「ごめん、早く渡すべきだったんだが、マリーに会えない間、この髪飾りが俺を支えてくれたんだ。」
「ラファエル…。」
「待たせた。マリー…結婚しよう。」
うん、うん…と何度も頷く私に、ラファエルは愛おしそうに抱きしめてくれたけど、会えなかった一年という月日が恨めしくて、寂して、私はラファエルの背中を何度も叩きながら
「一年って、すごく…長くて…あなたは会い来ないし…寂しかったんだから!」
「お、おい!突然現れて、プロポーズして欲しいって言ったから、俺は…」
ラファエルの声を聞いても、涙は止まらない私に、呆れたような声が舞台の上から…
「えっ!!それで一年も、ほったらかし?薄情だ~」
「あぁ兄ちゃん!もう尻に敷かれているようだなぁ。女の涙は、剣よりも強いもんなぁ…気の毒に…」
言いたい放題の男達の声に、ラファエルは大きな声で
「うるさい!」と叫ぶと、大きく息を吐いて
「うらやましいのはわかるが…」と言って、舞台の上の男達を見て、ニヤリと笑うと
私の頬へと唇を寄せ
「頼むから今は、マリーにキスをさせてくれ。まだ…足りないんだ」と言いながら、唇を重ねてきた。
「な、なんだよ。俺らはお邪魔ってことかよ!」
と、ワイワイ言い出したが、そのうち誰かが……ポツリと
「なぁ……もう聞こえていないんじゃないか?」
「……みたいだなぁ。」
「もう、放っておけ!俺らは、俺らの花の妖精を見つけるぞ!」
「「おおっ!!」」
男達の雄叫びが聞こえ、ラファエルは少し笑ったのだろう、マリーの唇から離れてしまい、マリーは慌ててラファエルの両頬に手を置いて
「まだ…」
と思わず口にしてしまって、ハッとしてラファエルの両頬に置いた手を、自分の頬へと移し、言葉にならない声を出すと…真っ赤になった顔を隠すように下を向いたが、ラファエルはマリーの顎に指をかけ、顔を上げさせると
「花の妖精の仰せのままに…」
と、マリーの唇の上で囁き…ゆっくりと唇を重ねた。
*****
花祭り】それは昔、春の訪れを告げる為に、花の妖精がロレーヌ国のこの森を通った時、春の嵐に遭い、この湖に落ちたという昔話。
その時、妖精を助けたのは、王家の離宮に来ていた王子。
花の妖精と王子は、眼があった瞬間、恋に落ちたと言う。
だが先のない恋だと、二人は思っていた。
人でない妖精は、王子と添い遂げる事はできないとあきらめ、国のために、他国の王女を娶らなければならなかった王子は、妖精に愛を告げることが出来なかったという。
お互いが気持ちを言えないまま三つの季節を過ごし…花の妖精はまた、春の訪れを告げる為に旅立たねばならなかった。
別れの日、花の妖精は王子には直接別れを言えないまま、まだ夜が明けない湖に来て、隠していた羽を広げ、飛び立つ瞬間だった。
その時…対岸から王子が叫んだ。
「行くな!人でも妖精でも関係ない。おまえだから…おまえだから愛してるんだ。」
驚いて湖の中で大きく目を開き、固まっている妖精に王子は、(どうか、飛び立って行かないでくれ)と願いながら、一歩、そして一歩とゆっくりと近づき、ようやく手を伸ばし、その細い体を抱きしめると
「すべてを捨てても、おまえと一緒にいたいんだ。…俺を置いてくな。」と懇願し愛を囁いた……と言う。
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「あぁ、それって、花の妖精と王子の話でしょう。もう聞き飽きた。」
「じゃぁ、もうひとつの話は知ってる?」
「もうひとつ?」
「そう、もうひとつ…王弟殿下と男爵令嬢の話よ。」
「なに、それ…?」
「その少女は貧乏な国の末端貴族令嬢。真面目だけど…ちょっと野暮ったく、華やかな世界とは無縁な彼女。ところがひょんなことから、他国の王子のスキャンダルを探ることになった兄のせいで、その王子様と遭遇。噂通りの、カッコ良さに胸が高鳴ったんだけど、少女は本当の自分とは、正反対の遊び慣れた女性を演じるの。
遊び慣れ女だと思い近づく王子様だったんだけど、ふたりの間が縮まるごとに、遊び慣れた女と時折見せる少女らしい純真さに、戸惑いながらも…惹かれてゆき、そして男爵令嬢も王子様が、噂とは違う姿に…惹かれてゆくの。
でも、ふたりの恋は大きな壁ばかり…。このお話は、そんなふたりの恋の話なんだけど…どう、知りたい?」




