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王子様に恋の手ほどきを・・・。  作者: 夏野 みかん
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争いを終結させるために、血縁関係を結び、国同士の関係を強固にする事は昔からあることだ。


ラファエル…。


あの日、プラチナの髪が、光を受け…私の目の前で踊るように揺れていた。

『おまえが、他の男の下に嫁ぐ事が出来ないように、俺の跡を焼き付けたい!』


青い瞳の色が熱を帯び…藍色へと変わったいくのを見た。

『だから、俺を忘れないように、俺はおまえを傷つける。そしておまえを癒しに必ず戻ってくる!』



…ラファエル…

最初で最後の恋だから、もうあなたしか…知りたくない。


私は、目を開けると、

「アルバーニ公爵様」と微笑んだ。


アルバーニ公爵は、私の心を探るように、目を細め

「心は…なんて言っていたのですか?」


「心は…」と言って、今度は満面の笑みを浮かべ


「ふざけるな!この思いは、他の人からどうこう言われて、揺れる様な軽いものじゃないの!もし事実なら、あの人がここまで来て、私を切り捨てなきゃ諦めないし、信じない!!……って申しておりました。」


アルバーニ公爵は呆然とした顔で私を見ていたが…大きな声で笑い出し

「…やっぱり、あなたは魅力的だ。そこまで思われている王子が羨ましい。」


そう言って、立ち上がると…顔を歪め

「だから!あの王子のこんなやり方が気に入らない!だから!!……あなたを諦めきれない。」


そう言って、踵を返してアルバーニ公爵は去っていった。



チクンとした。


胸を押さえたら、今度はズキンとして…痛くて、痛くて、どうしていいのか、わからなくなってしまった。


「マリー?」




アデラの声と同時に、マリーがアデラへと体を勢いよく向けた事で、大きな音をたててテーブルが倒れ、グラスが…そして封筒が…まるで暴いた秘密をマリーに見せたいかように、その中身をばら撒きながら落ちていった。

アデラは地面に落ち、封筒から飛び出した写真を見つめ…頭を横に振ると、その写真をマリーの目に映らない様に強く抱きしめ、泣きじゃくるマリーの背中を撫でていた。



*****


そしてその夜。


この一年の間、ラファエルがなにをしていたのか知っている二人が、アルバーニ公爵からの写真を前に溜め息をついていた。


「どこが…百戦錬磨のプレイボーイだったのかよ。こんな写真を取られて…。」


「でも、ケント見てよ。この無表情な顔。婚姻云々を別にしても、他国の王女に向ける顔でもないわ。 寧ろ礼儀に反するような表情だわ。撮られたことに気がついていたのかしら?」


「あぁ、そうだろうなぁ、手紙でも近いうちにこんな写真がばら撒かれる可能性があるから、マリーを頼むと言っていた。だけど、まさかアルバーニ公爵の手に入るとは…だいたい、俺に手紙を出す前に、マリーに出せよ。マリーに会い来るな、手紙も出すなと言われたから出せないなんて…ヘタレな野郎だよ。」


「あら、それって、マリーの夢を叶えたいからじゃないの、手紙で書かれていたわよ。突然現れて、プロポーズをする。それも…あの湖で…。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。まさか、ばあさまともあいつ…文通してんのか?!」


「えぇ、もちろん!まぁ最初は私が、マリーの近況を書いたのが切っ掛けだったのだけど…。」


「…マジ、あいつ…ヘタレだ。ばあさまと文通するくらいなら、マリーとしろよ。」


「まぁそう言わないで…、でもそろそろ腰を上げてもらわなくては…ねぇ…。」


「そうだよ。マリーの気持ちが折れたら元も子もない。」


「いつ?いつ頃…わかるの?」


「おそらく花祭りの頃だと…。」


「もし望むようなことにならなくても…一度、ラファエル様にマリーに会って頂たいわ。」


「俺もそうしてもらうつもりで、昨日手紙を出した。」


「いよいよね。」


「あぁ、いよいよだ。いい加減、カッコ良く決めてくれよ。王子様」




二階で泣いているだろうマリーを思う気持ちが、そうさせたのだろう。アデラとケントは、まるで合わせたかのように、視線を上へと…二階へと上げた。




*****



悲しかった。


あの時、ラファエルと愛し合ったあの時の思いは、簡単な思いではなかったのに…。

僅か一年の間に…こんなに気持ちが弱くなるなんて…。


あの日、実る事がない恋でもいいと思っていた。実る事がないということは、あの人の側に誰かがいるということ、それもわかっていたはずだった。


だけど、情けないことにその事実の衝撃の大きさが、こんなにも悲しいことだったは…思ってもみなかった。


自分の歩く先に、光があると信じていれば、たとえ共に歩いてくれる人の、その歩みが遅くても、いつまでもを待っていられる。

でも、振り返ったとき、その人が違う道へと歩みを変えたのを見たとしても…私はなにもできない。もう交わる事のないこの道で…迷子の子供のように泣いて、その人の名前を呼び続け、私は立ち尽くすしかない。



実る事のない恋とは…そういうものだったんだ。


あぁ…そうだ。ラファエルは……知っていたんだ。

彼の初恋が実る事のない恋だったから、この苦しみや寂しさを…。

だから、あんなに躊躇っていたんだ。私とのことを…。


恋が実らなければこんな気持ちになると、ラファエルは知っていたから…

だから、最後まで迷っていたんだ。

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