表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様に恋の手ほどきを・・・。  作者: 夏野 みかん
43/54

42

ベットから、立ち上がる気配を感じ取ったマリーだったが…まだ、意識は甘い余韻の中に漂っていた。


大きな手がマリーの頬を撫で、まだ熱い唇が、額に…頬…そしてマリーの唇へと触れ、


「愛してる。」と言葉を残し、ベットから離れていった。


マリーはその言葉を耳にして、微笑むとゆっくりを眼を開き、愛する人が、湯浴みをするために、離れていく背中を見つめていたが、そっと体を起こし、ベットの背もたれに体を預け、胸に残る愛された跡を指で触れた。

ひとつ、ふたつ、みっつ…ななつ…と数えて、クスリと笑うと…自分の体を抱きしめ


「みんな、あの人が愛してくれた跡…」


そう言って、微笑んだつもりが、ひとしずく涙が…頬を伝わった。


「コラ!泣くなマリー。これからなんだから…これから始まるんだから…。」


語尾は掠れ、震えていたが、目尻に残った涙を擦ると大きく息を吐き、その手で今度は拳を作り、コツンと頭を叩いた。


「大丈夫。」


小さな声を紡いだ唇は、今度は大きく息を吸い呼吸を整えると、口角を上げ笑みをその口元に残し


「今度会うときは、あの人が驚くくらい素敵な女性になって待つの。絶対…なるんだから…。」


湯浴みに行ったラファエルに気づかれないように、小さな声で言った独り言だったが…


その声を扉の向こうで……ラファエルは聞いていた。



*****



ベットを出るとき、マリーがもう目覚めつつあったのは、気がついていた。

意識がはっきりしたとき、どんな可愛い声で、どんな可愛い事を言うのかを期待していた自分が恥ずかしい。


彼女の、マリーの覚悟がこんなに重いものだったことが、わからなかった俺は…甘い。

浮かれていた、幸せがもう手に入ったと思ってしまった俺は…本当に甘すぎる。

これでは彼女を失ってしまう。


足元が揺れ、思わず膝をついた。


これからなんだ。これからが、確たる幸せを得るために試練が始まるのに…。

何をやっているんだ、俺は…。



コンコン・・・


「ラファエル?大きな音がしたけど、どうかしたの?大丈夫?」


体を繋ぎ、そして魂を繋いだ愛する人は、優しくて…可愛くて…俺より強い人。

ならば俺も、その伴侶にふさわしい男にならなければ…俺が覚悟を持ってやらなければ…


彼女を失う。


させるか!彼女は俺の妻になる女だ!


ラファエルはノブに手をかけ、勢いよく飛び出すと、目の前に立ち尽くすマリーを抱きしめた。



*****


「…?!」


声が…出なかった。


突然飛び出してきて、私を抱きしめたラファエル。

強く抱きしめられ、愛された胸の蕾と厚く鍛えあがられた胸とが重なり、昨夜、愛された体が甘い余韻を思い出し…体が震えた。でもそれよりも、震えながら私を抱きしめるラファエルに切なさが溢れ…


(寵妃でもいいの、側にいられるのなら…)と言ってしまいそうだった。


離れたくない、でもいくらこの温もりを手放したくないからと言って、我慢できるはずはないのに…。一時は耐えられても、いつしか愛するこの人を、憎んでしまうかもしれない。この人に抱かれる正妃の不幸を願うかもしれない。


そうなってしまったら、私は私じゃなくなる。醜い心を持った私は…


この人に嫌われるかも知れない。


それだけは、それだけは嫌!

だから待つ…待ってる。それだけは嫌だから……待っている。


でも待つのは…本当は…辛い。


マリーはラファエルの背中に手を回し、しっかりとしがみつくと泣いた。


大きな声で泣いた。


すごく、寂しいと言って泣いた。


待っているから、せめて私のことを忘れないでと言って……泣いた。


溢れてくるマリーの寂しさを埋めるように、ラファエルはその小さな体を強く抱きしめ、腕の中で泣く愛するひとの心を見て、唇を強く噛んだ。


(本当はこんなに不安なんだ。こんなに寂しいんだ。これが…マリーの本音なんだ。)


俺はどこかで見栄を張っていた。歳も離れ、まだ少女のマリーに、大人の男として余裕があると思われたかった。

なにをバカな事を思っていたんだろう…今更だろうに…


イラリア伯爵夫人との爛れた関係を知られ、あまつさえ…その関係を解く切っ掛けを作ってもらたんだぞ。その上、一度は逃げるように、マリーから離れたくせに…追いかけて、果たせない約束を告げ、愛を乞う自分だ。


大人の男の余裕……そんなものはない、初めからなかった。


離したくないから、縋るように彼女の腕をつかんだ俺のマリーへの愛は、カッコ悪くて、余裕どころか、いつも誰かにマリーを取られたくないと焦っている。


なにも見せず、なにも聞かせず、ただ、俺だけに縋るようにしたい。

激しくて抱いて、俺だけしかマリーの心も体も開かないようにしたい。


…これが俺の本音。俺の……マリーへの愛なんだ。


もう止められなかった。


堰を切ったように、激しい思いは言葉となって、

ラファエルの口から…迸った。(ほとばし)


「その体に焼き付けたい!」



マリーの瞳に写る自分は、苦しげに眉をしかめていた。

そう、苦しいんだ。こんな形でマリーを置いていくのが辛くて、寂しくて…不安なんだ。


だから本当は…


「おまえが、他の男の下に嫁ぐ事が出来ないような…俺の跡を焼き付けたい!」


一度はマリーが傷つかないように、離れて行こうとしたラファエルの心の奥には、本当はこんなに激しく、揺れる気持ちがあったことに…マリーは胸が震えた。


「嬉しい。傷つけて私を…あなたを忘れることができないように私を傷つけて!!」



崩れるように二人は、昨夜の名残を残すシーツへと倒れこみ…

マリーはベットに貼り付けられたように、両腕をラファエルの左手で押さえられ、右手でおとがいを上げられた。


マリーを見つめるラファエルの瞳は熱く


「おまえは俺のものだ!その体、誰にも触らせるな!その心…誰にも…」


そう言って言葉がつまった。


…心をやるなとは言えなかった。

心をやらないでくれと…乞う気持ちだったからだ、だがそんな迷いをマリーは…


「誰にもやらないわ。」


「…マリー。」


「私を傷つける事ができるのはあなただけ、そしてその傷を癒す事ができるもあなただけ…だから…」


そう言って、今度はマリーが言葉に詰まった。


待っているとは言える、でも私の元に戻ってきてと口にしていいのか…マリーは迷った。

そんな迷いを、今度はラファエルが…


「だから、俺を忘れないように、俺はおまえを傷つける。そしておまえを癒しに必ず戻ってくる!」


それは昨夜のような穏やかな愛のいとなみではなかった。

ラファエルを知っている人なら…その荒々しさに驚いたであろう。

マリーを知っている人なら…艶やかな姿態に驚いたであろう。



体は快楽より痛みのほうが強かった。

だが、このときの二人には必要な事だった。

これから先、歩んでいかねばならない道は決して安穏ではないだろう。いつたどり着くかわからない、途中で大きな石に阻まれ、通れないかもしれない。


だが、またこの地に、愛する人の元に戻るためには、お互いの体に…心に…道標と成り得るものが必要だったからだ。


荒い息遣いの中でラファエルは

「マリー…俺にも…傷をつけろ。お…まえしか、癒せない傷を…。」


マリーはラファエルの声に…落ちて行きそうだった意識を引き戻し、ラファエルの言葉が嬉しくて口元に笑みを浮かべた。

それは聖母のような暖かい笑みだった、すべてを赦し、受け入れてくれる微笑だった。


「…バカ…こんなときに…そん…な微笑は…ないだろう。」



ラファエルはそう言うと、マリーの唇を覆った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ