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王子様に恋の手ほどきを・・・。  作者: 夏野 みかん
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花祭りが終わり、いつものように静かになった湖に私は来ていた。


私以外には誰一人いない、静かな湖畔。


ここに来ようと思って、あの場から走ったわけではなかったけど、どこか遠くへ飛んで行きたいという思いが、自然と足をここへと運ばせたのかなぁ。


苦笑気味に口元を緩ませて、ポンと石を湖に石を投げ入れたら


ホーホケキョ、ホーホケキキョ、ケキョケキョケキョ……


と…石を投げた私に、抗議するような囀りが聞こえ、慌てて周りを見渡すと、春告鳥ハルツゲドリと言われるウグイスが、オリーブ褐色の小さな体を震わせながら囀る姿を見つけた。


ようやく、苦笑ではない、笑みが口元から零れておち、

「…まだ水は冷たいのに…もう春なんだ。」そう言いながら、私は白い靴を脱ぎ、湖に足をつけた。


ポチャン


小さな水音だったけど、シーンとした湖には、その音は静けさを破ってしまったのか…驚いた小鳥たちが、慌ただしく木々から飛び去っていった。


飛び去る小鳥の姿を追って空を見上げ、小さな声で

「何度もごめんなさい。」


と言うと、しばらく空をみつめていたが…ひんやりとした水が、足先から、徐々に体温を奪ってゆき、思わず自分の体を抱きしめ、クスリと笑ってしまった。


「死んでしまうかもしれなかったのに…。足だけとはいえ、こんな事をやっていたら、(俺が命がけで助けたのに、まだ懲りないのか!)と言われそう。」


と言って、笑いながら、水の中で足を動かし、波紋を作ると

「…もうそんな事を言われることもなかったんだ…」


そう口にし、自分の頭の中に現れた人を追い出すかのように、大きく頭を横に振り

「夢は終わりなのよ。」と自分に言い聞かせたが


でも、なかなかその人は出て行ってはくれず、もうその姿を消すことを諦め、眼を瞑り、せめてその姿を心の中に焼き付けようと…名前を呼んでみた。


「ラファエル…様」


黒い士官用の礼装に、肩から斜めに掛けたブルーのサッシュと、片肩から前部にかけて吊るされる金糸の飾り紐をつけたあの人は……やはり手の届かない王子様だった。


「そう…」

水の中で、また足を動かし、波紋を作り

「あの人は手の届かない王子様。」

と言いながら、水面に映る自分の姿を見つめ目元を擦り、今度は足先で水面を軽く蹴った。



水面に映った自分の顔が、ゆらゆらと揺れ、波紋が広がり、なにもかもがその波紋と共に、対岸へと流れていくようだった。


その様子をしばらく見ていたが、大きく伸びをすると、いろんなことを振り切るように


「でも、好きだった。」と言って空を見上げた。



見上げなければ、熱くなった目元から…思いが溢れそうだったから…

そして、その思いに潰されそうだったから…空を見上げ


「飛んでみたい…。このままどこか遠くへ」


そう口にし、空へと手を伸ばした。




*****



彼女が今までいた場所から、目を外す事ができなかった俺だったが、


「あの花の妖精のように…飛んでいったのか…」と、口にすると目を瞑り、踵を返し宿へと歩き出したが、門の前に来ると足は止まってしまい、また彼女がいた場所へと振り返った。



あの宿で会った時…俺はもう恋に落ちていたのかもしれない。

最初は、彼女に純粋に人を思う気持ちを、失くして欲しくないと、自分のようになって欲しくないと思っていた。だが、彼女の口からでてきた男達の話に、心がざわめき、いつしか他の男に取られるくらいなら寵妃にしてでもと、思いが変わっていったが、でも…手が出せなかった。それは俺の感が、彼女は遊びなれた女じゃない。もし、彼女を抱けば…彼女が変わってしまう。だから、彼女から離れろと言っていたからだ。


だがあの幸せな時間を失いたくなくて…、そして…いつか来るであろう終わりを見たくなくて、俺は目を瞑り、耳を塞いでしまっていた。



でも心をいつまでも誤魔化す事は出来なかった。

会う度に、楽しかった逢瀬の余韻は、いつしか、彼女が帰った21時過ぎには、寂しさとなって、胸の中に溢れて…堪らず、その寂しさを埋めようと他の女性を呼んでみたが…、翌日、彼女に会うことが頭に過ぎってしまうと、他の女性を抱く事など出来なかった。


そんな俺が、寵妃として彼女を召し上げ、彼女が見ている前で正妃を迎える事など、できるはずがない。


イラリアとの初恋で、俺の心は恋というのが、どんなものだったのか忘れていた。

愛しているということは…唯一の人になりたいと言うことだ。

だが俺は、彼女だけを見つめて生きていける人生を選ぶことは…まだ出来ない。

いや一生できないかもしれない。ならば…側に彼女を置くことはできない。


俺と彼女の物語はあの御伽噺のようには……ならない。


ここが、ENDマーク…なのだろう。



背中を門番に向けたまま、彼女が消えていった方向を見つめ、口を開いた。

それは…彼女がいないから、言える言葉だった。



「俺を待っていてくれ。俺が王家を離れる日まで…待っていてくれ。」


俺の顔に、風があたった。

暖かいその風に、頭を振り…クスリを笑うと


「言えるか?守れないかもしれない約束を…。兄に男子が生まれるまで、俺を待っていてくれと…と、それが一年いや10年かもしれない。それどころか、兄に男子が生まれないかもしれない。言えるはずは…ない。」


そう言って、振り返り

「……だろう…ケリー?」と言って、門番の後ろの植え込みを見た。


門番は「すみません」と口にし、申し訳なさそうに体をずらすと、後ろの植え込みから、


「門番の方を責めないでやってください。俺が…頼んだんです。マリーの事が心配で…俺が…」と言いながら、頭に葉っぱをつけた彼女の兄が出てきた。




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