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王子様に恋の手ほどきを・・・。  作者: 夏野 みかん
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目が覚めたとき、私は自分の部屋だった。

ベットの周りには、おばあさまが、お兄ちゃんがそして、顔をグシャグシャにして泣くアドニスさんまでいたのに…あの人はいなかった。いないと思った瞬間、私は迷子の子供のように不安になり、不安な心は顔に出たのだろうか…兄が掠れたような声で


「…ラファエル王子は、エフレイン国の使者と明日の事で、打ち合わせをなさっている。」


「明日の事?」


「あぁ、明日、ラファエル王子は王宮に入られ、今回の件について、ロレーヌ国王と話し合いをなされると聞いた。」


「明日……。」




明日…王宮に行かれたら、もう、もう会えない。

もう、二度と……会えない。


肌に残ったわずかに温もりだけでは、一生あの人を思い続けるのには、辛すぎる。

もっと、肌に刻み付けて欲しかった。

一生残る傷跡として残して欲しかった。


もう一夜の夢さえも、叶わないんだ…。



「……マリー」


ぼおっとしていたのだろうか。

おばあさまの声に、ハッとして微笑んだ、大丈夫よと微笑んだつもりだった。

心配かけてはいけない。始めからわかっていたことじゃない。

ううん、私とラファエル王子には始めから何もなかったのだから、終わりと言う言葉さえもない。


おばあさまは黙って、私の頬を撫でると、自分の腕の中に囲い込み

「…涙がね。涙が零れそうよ。」と言って、強く抱きしめられた。


涙?泣くほどの事などなかった。そう、泣くほどの事なんか、何にもなかった。

恋の始まりもなければ…恋の終わりもなかったもの。

ただ、王子様とほんの少し時間が重なっただけ、そう…たったそれだけのこと。だけど、だけど…


「会いたい…。」


言葉にすると、涙は堰を切って零れ…マリーは泣いた。


*****


「ラファエル王子?」

ぼんやりとテラスを見つめるラファエルに、エフレイン国の外相が声をかけた。


「あぁ、すまない。なんだ?」


「いえ、やはり私どもがいる宿のほうには、お泊りにはならないのですか?ここは…ちょっと…」


ラファエルは、苦笑しながら

「明日は、ロレーヌ国の王宮に入るんだ、ここにいるのは今日までの事、わざわざたった一日のために宿を変えるのは、面倒だしなぁ。」


「はぁ…そうではありますが、よろしいのですか?」


「明日の朝までの数時間だ、構わない。あと…数時間…か」


「ロレーヌ国から、帰るのが惜しいようですが、私には、花祭りと、歓楽街くらいしか、思い浮かばないような国で、そうは思わないとですが…。」


「リンネル外相。ロレーヌは、面白い国だぞ。夢が溢れ、俺にもひょっとしたら、掴めるのではないかと思えるほど…心が浮かれた。一生忘れられない夢を見せてもらえたのだ。」


納得できない外相に、ラファエルは、昨日から何度も見つめた自分の手をまた見つめ、この手の中に掴めそうだった夢の欠片を思い出すと…そっと握り締めた。


「…ラファエル王子?」


「でも、夢だ。夢はいつか覚めなければならない。わかってはいる、やらねばならない王家の宿命を…だから明日までは…夢を見させてくれ。頼む。」

そう言って、ラファエルは、テラスへと視線をまた移し…いるはずがない少女を捜した。



もう一度、会いたかったが、会えば辛いだけか、手放した花は可憐で、王宮と言う花壇の中では、その可憐さゆえ、風や雨に煽られ散っていくかもしれない。


花祭りのあの王子のように…

(行くな!人でも妖精でも関係ない。おまえだから…おまえだから愛してるんだ。)


(すべてを捨てても、おまえと一緒にいたいんだ。俺を置いてくな。)


と、はっきりと言えればどんなに良いか…。

だが、まだ俺には自由がない。そう言えること出来ない。

いや、一生できないかもしれない。

いずれ、王太子である兄に王子が生まれれば、俺は臣下に下るつもりだ。だが兄は、先日正妃を娶ったばかり、子はまだできてはいない。第二王子の俺は、兄の子が生まれるまでは、王家の血を継がねばならない宿命がある…まさに種馬だ。もし、兄に子供ができなければ、あるいは王女しか出来なければ…俺は王家から出ることは叶わない。



彼女に、マリーに…

もし、兄である王太子に男の子が生まれれば、俺は臣下に下る。だから、兄に子供ができ、俺が自由になるまで待っててくれないか…と言ったら、彼女はどうするだろうか。


バカなことを…。そんな約束を頷くはずはない。一生叶わないかもしれない約束に、頷くはずはないだろう。


あてのない約束は、偽りと同じだ。

この気持ちに偽りはない。


だから…言えない。


だから…待っててくれとは…言えない。

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