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遊びなれた女性のように言った言葉だった。
ラファエル王子が好む後腐れがない女性であれば、私を手放さないでいてくれると思って言った言葉だったが…ラファエル王子の薄い唇も…そして剣で関節が太くなった指も…私の肌から離れていってしまった。
「どうして…?」と震えながら言った私の言葉は…
青褪めて、頭を横に細かく振るラファエル王子に…それ以上は言葉を失ったように出てこなかった。
最初は夢中にさせて、この王子様を振ってやると息巻いていたのに…
逆に夢中にさせられ…振られちゃった。バカみたい…でも笑えない。
涙が出てくる。涙が…
私は両手で顔を覆い、涙を隠した。
やはり、私ではダメだったんだ。
*****
俺は彼女になにをしようとしたんだ…。
彼女を失うことが恐かった。
俺を置いて、逝ってしまうことが恐かった。
自分の側で…引き止めたかった。離したくなかった。
だから…体で…
俺はまた同じことを…イラリアにしてしまった同じことを彼女にしようとしたんだ。
彼女のひとことがなければ…俺は…
俺は彼女をこんな場所で抱いていた。
ひとつの恋にようやくピリオドが打てばかりで、もう振り向いてもらえない恋は嫌だと思ったのに…、俺はまた振り向いてもらえない女性を愛してしまったのか…
俺を見つめる緑の瞳から、赤い唇から、避けるように俺は目を閉じた。
だが、耳にはまだあの言葉が繰り返し聞こえてくる。
「…このキスは…もうお茶だけの関係の…仮契約は終わって…本契約になったってこと?」
俺は…何をやってるんだ。
*****
あれから俺は、舟を漕いだのだろうか……どうやって、湖岸に着いたのか覚えていない。気がついたら、湖岸には、おそらく湖を回ってきたのだろう、大勢の人が集まっていて、俺と彼女は囲まれた。だが集まって来た女性達は、彼女が肌着姿だったことに、すぐに気がつき、彼女を囲み、タオルやショールをかけて、連れてきた医者に見せるからと、俺や男達は彼女の側から追い出されたが、興奮冷めやらぬ男達は、彼女のいる場所とは反対側で集まり盛り上がっていた。
大きな男三人が、俺の頭へとタオルを投げて
「兄さん、すげぇーなぁ!!」と言って、俺の背中を叩いた。
「攫われた彼女を追って、湖に飛び込んこんだと思ったら…今度は湖に沈んでいく彼女を、暗い湖に命がけで助けに行く!愛だねぇ~」
「いや~参った。今年の花祭りは語り草になるぜ。」
わいわいと騒ぐ男達の中で、俺はぼんやりと彼女いる方向を見ていた。
いや…もうひとり…ぼんやりと彼女のいる方向を見ている男がいた……ケリーだった。俺の視線に気がつくと、大騒ぎをする男達の間を抜け、俺だけを見ながらまっすぐに歩いてきて、俺の前に来ると頭を下げ
「妹を助けていただき、ありがとうございました。」と言った。
「…い…もうと?」
驚く俺を見ながらも、ケリーは顔色ひとつ変えることなく頷くと
「明日の朝、お尋ねしてもよろしいですか?すべてを話に参りたいのです。」
と俺から視線を外さずそう言った。
俺は動揺する顔を見られないように、タオルを深く被りなおし…黙って頷いた。




