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王子様に恋の手ほどきを・・・。  作者: 夏野 みかん
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湖に落ちた瞬間、このままだと、このドレスの重みで体が沈んでいくと、とっさにマリーはドレスの前の胡桃ボタンを引き裂き、少しでもドレスを脱ごうとした。だが、濡れたドレスはそう容易には脱げず、どうにか上半身は脱げたものの、ゆったりとした大きなドレープが足に絡みつき、体は湖の底に引っ張られていった。


足に絡みついたドレスは、まるで海の底に潜む、死神の手のように、マリーの足を引っ張り、死の世界へと誘いざなっていくかのようで、マリーは恐くて離れていく水面を見上げ、助けてと手を伸ばしたが、自分の口から出た泡が、いくつも繋がって上って行くのが見え、それは今までいた世界が遠ざかっていくようで、恐くて堪らなかった。



もうダメかも…そう思った時、ラファエルの顔が見えた。

(最後に思い浮かんだ顔はあなただった…嬉しい…)

そう、心の中で呟くと、マリーの唇はゆっくりと笑みを作ったが…意識はそこで途切れていった。



*****



ラファエルは、湖の中央近くまで来て、舫綱もやいづなを切られ漂っていた船に乗り、相手から体を見られないように、伏せながら機会を待った、それは泳ぐのも、このまま船を漕ぐのも、相手に気づかれそうなくらい近寄っていたからだった。はぁはぁ…と荒い息を吐きながら、ラファエルは耳をすませた、相手が湖岸に上陸したら、暗闇に乗じて一気に船を漕ぎ、近づくつもりだった。


あの音を聞くまでは…



・・・バシャン!!!!!


それは何かが。湖に落ちた音だった、ラファエルは、「まさか…」と最後まで言葉を発する間もなく、その答えは覆面をした男達の声が知らせた。

「女が…落ちた!!」「どうするんだ!!」「伯爵様!!」


(ア…アデラが…)なにも考えられず、ラファエルは、マリーを追って飛び込んでいった。


この湖の水深は、深い所で5m近くある…ましてやこの闇。せめて、月さえ出ていれば…不安な気持ちが、頭の中に、湖の底に横たわるマリーが見させ、ラファエルはそれを払拭するかのように、大きく水を掻き…見えない湖の底へと手を伸ばした。


(もし…神がいるのなら、この手を彼女に…)


それはもう願いだった。小さいとはいえ、面積が0.04km2 周囲長0.8kmの湖、水深も深い所で5m近くある。そして、郡雲むらくもがかかり、月の光も湖を照らすことができない闇の中。


だが、ラファエルは諦めることはできなかった。


(アデラ!この手に掴まれ!)


必死な思いで伸ばした手に…なにかが触れた、ラファエルは、ハッとして、離れて行こうとするその何かを握り…引っ張った。


雲に隠れていた月が、でてきたのだろうか…湖の中にも光が差しこみ。


……微笑む彼女が見えた。




*****



唇に…熱を感じた。


唇に…死ぬなと叫ぶ思いが、流れてきた。


あの水中で伸ばされた手が…そして私に触れる唇が、命を吹き込んでくれている。

ゆっくりと目を開くと…私に覆いかぶさり、心配そうに覗き込む人が月の光を浴びて、プラチナ(白金)の髪を光らせていた。その髪についた水の雫が、ぽたぽたと私に零れ落ちてくる。


ほんとに……綺麗な人。でもそれは女性とは違う美しさ、白金の髪が乱れ、目元が隠れているが、白金の髪の間から、切れ長の目が青い瞳を揺らし…鼻筋の通った下には、薄い唇が震えている。

綺麗な顔立ちの下の首は太く…逞しい胸へと繋がり…


そんな姿で、そんな顔で女性を見つめたら……罪作りだ。



剣を握る手が、私の顔を撫でた。

その手は、四指の付け根の関節が太く、親指がざらついていた…そうだ、ラファエル王子はロングソードを使うと新聞に書いてあった。ロングソードは重く、そして剣身も長いから、グリップが両手で持てるよう長くなっているらしい。あぁ…だからか手が…そしてロングソードを持つために、胸から腕への筋肉が鍛えられ逞しいんだ。綺麗な顔立ちだけど……男の人だ。



「…大丈夫か?」


掠れた声が、私の耳に聞こえてきた。返事をしたかったが、寒さとまだ癒えていない恐怖で、震える唇は言葉を紡げなかった。でも、私は大丈夫だと伝えたくて、微笑んだ。ありがとう。助けてくれてありがとう…と私の思いは伝わっただろうか…。


覗き込むように見つめた青い瞳が色を濃くして…激しく揺れだし…泣きそうな顔で、私を見つめたかと思ったら、唇が…私の唇に重なり、下唇を食むように……私の唇を奪っていった。



唇に…熱を感じた。


唇に…ラファエル王子の気持ちが流れてきた。


でも、でも、ラファエル王子の気持ちがなんなのか…私にはわからなかった。


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