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俺、金縛りにあう。

「ワンワンワン。クゥーン。クゥーン。ハッハッハッ」

 犬の荒い息使いが玄関から聞こえてきた。

 くそう、まだいるのか犬の野郎。いや、犬は好きだよ? 犬に罪はないよ? 罪があるのは犬の飼い主の方だよ? それは分かっているよ。だけど、だけどね。分かっているけど、怖い物は怖いんだよ。だって犬である君は怖くないけど、玄関を開けたら、その犬の飼い主がぬっと現れるわけでしょ? だから、そんなに犬自体は怖くはないけれど、君という犬は怖い。得たいのしれない飼い主に飼われている君という犬が怖い。それにもしかしたら君は飼い主によって、変なウイルスを宿されている可能性だってあるわけだしね。狂犬病の恐れだってあるし、君の飼い主がマッドサイエンティストだったら、もっと危険なウイルスを体内に宿している恐れもある。それかもしかしたら君という犬は博士によって改造されたロボット犬かもしれないし、そもそも、犬ですらなくて、最初からロボットだった可能性だってある。だから、君がいくら鳴こうが喚こうが、俺がこの玄関を開けることは決してないよ。

「ワンワン。クゥーン。クゥーン。ハフハフ。バウバウ」

 くっそー、可愛い鳴き方しやがる。同情を誘うような、悲哀を込めた鳴き方をしやがる。だけど、開けないったら開けないんだからね!

「開けろよ」

 その時、玄関の向こうから、くぐもった声が聞こえた。

 やべえ、今日三度目の背筋ゾワが来た。しかも今日最大限の背筋ゾワ、だ。

 玄関のすりガラスの向こうには人間の影も、犬の影も見えない。だが、そこにいるであろう何者かは、(断じて犬ではない)そう声を発した。いや、俺に向けて、確実に俺に向けてそう声を発したのだ。

 俺は、体中が金縛りにあったかのように、その声にびびりその場からまるで動けなくなってしまった。

 足がぶるぶると小刻みに震える。だけど、それは武者震いでは決してない。純粋に未知の者への、(しかも確実に敵である)恐怖から来るものだった。

 ひぃいいっ。これが…これが金縛りか。

 呼吸すらも心臓すらも止まっているかのような感覚。

 頭の中はただひたすら真っ白で、俺は目の前にある玄関のすりガラスを何か動く物はいないかと目で追うだけしか出来なかった。

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