俺、固定電話に向かうよ。
俺の部屋は電気を消したとは言え、それ以外の間接的な照明があったので、少しは部屋の中の様子が分かったが、部屋を出ると、それはもう完全な暗黒世界だった。
ああ、怖い。ちびりそう。
こんなに、怖い気持ちになるのはいつ以来のことだろうか? 幼稚園の時以来か? それとも小学生の頃以来か。
幼稚園では母親と離れて、初めてのお泊り会に行った時、怖くて、わんわんと鳴いたっけな。別に犬じゃないぞ。
小学生の時は、森の中に入り、カブトムシを捕まえようとして、蜂に追いかけられて凄い怖い思いをしたっけな。
それ以来か? こんなに怖い思いをするのは。
いや、その時よりももっと怖いかもしれない。もしかしたら今までの人生で一番怖いかもしれない。だって、チャイムを鳴らしているのが誰なのか、皆目見当もつかないからだ。男なのかも女なのかもそれともオカマなのかも、ただの愉快犯なのかも、殺人犯なのかも、それとも間違えてデリバリーピザかなんかを配達しに来たのかも、一切合切、分からないからだ。
これはもうまるで、色々な分からないを袋に詰めて、揺さぶって混ぜ混ぜしたぐらい分からなさが混ざりに混ざって、本当に分からない。
だから、もう考えたってしょうがない。行動あるのみだ。だからといって玄関を開けて、誰がチャイムを鳴らしたのかなんて確認するつもりは毛頭ない。だって恐いんだもん。
開けた瞬間に、家の中に入りこまれ、体を縛られる可能性だって0ではない。というかむしろそっちの確立の方が高い。なぜならこんな時間にピンポン連打するようなやつなんだからな。
だから、こっそりとひっそりと、ひそかに秘密裏に、抜き足忍び足で、音を立てずに固定電話の前に行ってそして、110番しよう。俺はそう思った。
得体のしれないものには近づかない方が身のためだ。楽観的に行き過ぎると痛い目をみることになると思ったからだ。慎重に、慎重に。あ、そういえば俺の身長伸びたかな。一年前は170cmだったよな。でももう、高校生になったらあんまり伸びないかもなあ。
俺はそう思って、ふと笑った。
大丈夫、大丈夫。まだそんなことを考える余裕が頭の中にはある。まだ俺は冷静だ。
そう、こんなやばい、危険な状況の時にこそ、冷静沈着に、クールに、クールビューティーに行こうじゃないか。いや俺、男だけどね。
俺はクールビューティーな女性のように、長くもない髪の毛を首を振って、揺さぶった。
シャンプーの匂いが微かに鼻腔に届き、俺は何故か笑った。




