俺、マラソン大会ゴールする。
飛び込んだ先は、先ほどマラソンコースから見た景色と変わらなかった。
その異世界では仙人が千人いた。そこで、俺は知恵を絞りに絞り、何とか仙人の一人をやっつけることが出来た。すると俺のレベルが一つ上がった。
レベルが上がったことにより、俺は魔法を一つ使えるようになった。
それはバナナを出す能力だった。何だよこの能力は、いらねえよ。と思ったけど、結構栄養面とかで役に立った。
その後、女子高生巨人や、鬼の巨人がいる異世界に飛び込んだり、マラソンコースに突如として、現れた、ブロックトラップによって小指の足をぶつけたりしながら、なんとか先に進んで行った。
やがて俺はレベルアップによって強力魔法である、召喚魔法を使えるようになり、龍とかを召喚出来るようになった。そして龍に乗ったりしながらマラソンのコースをひた進んだ。
食べ物が不足している時は、農業が盛んな異世界に飛び込み、農民として働き様々な野菜や、肉アイテムを獲得することが出来た。だが、そこでは農業のノウハウを学ぶために約一年間、農業をした。
またある時は、女しかいない女だけで繁殖繁栄する異世界を見つけ俺はそこに飛び込み、数年の間、過ごした。
だが、それもやがて終わりの日が近づいて来た。
なんと、マラソンコースの後ろの方から、何やら赤いレーザーのような物がどんどんとこちらへ押し寄せてくるではないか。
俺が人面蜂に聞くとそれは、地上の駅伝マラソンで言う所の、繰り上げスタートのようなものだということだ。
あまりにもマラソンを進むのが遅い場合、問答無用で後ろから赤い死のレーザービームがどんどんと近づいてくるというのだ。
ああ、そんな。もっと異世界で暮らしたかったのにと思いながらも、やはり俺は自分の命が大事だから、マラソンコースに戻り、再び走り始めることを決意した。その時点で俺のレベルはかなり上がっていたので、マラソンコース内に出現するモンスターは今の俺にとって雑魚以外の何物でもなかった。
でも赤いレーザーが迫ってきた時に、異世界にいた場合はどうなるのだろうか。俺は人面蜂に聞いてみた。
すると、「その場合は、異世界の出入り口が破壊され、飼い主様はその異世界から死ぬまで永遠に出ることが出来ません」とのことだった。
それもまたよかったのかもな……。なんてそんな考えが一瞬だけ浮かんでは消えた。
マラソンコースに戻って3日、俺の目に白いテープが飛び込んできた。
「飼い主様、あれがゴールです」
人面蜂が言った。
「分かっているよ!」
俺は語気を強めて言った。
長かった。実に長い年月が流れたように思う。一体どれほどの時間をこのマラソンコース、あるいは異世界で過ごしたのだろうか。思い出が走馬灯のように甦ってくる。だが、やれることはやったはずだ。やり切ったはずだ。楽しみまくったはずだ。
俺は、自分自身をそう納得させゴールのテープを走って切ろうとした。と、その時、足元にバナナが落ちていた。
俺はそのバナナを咄嗟の動作でかわし、ゴールテープを切った。
ようやくゴールをすることが出来た。
しばしの静寂の後、天からラッパの音が響きわたった。そして一言「おめでとう」という声が聞こえた。この声の主は聞き覚えがある。そうマインドコントローラーのマイちゃんだ。
俺は素直に「ありがとう」と呟いた。
その後、すぐに俺はゴール直前でバナナが置かれていた場所の周りをよく見てみた。するとその周りには数多くの頭蓋骨と思しき骨がいくつもあった。
あ、危なかった。最後の最後、ゴールの直前で安心した所にこんな恐ろしいトラップが仕掛けられていたとは。おそらくあの頭蓋はバナナトラップによって滑って転んで、打ち所が悪くて死んだランナー達の骨だろう。くっ、俺も危うく最後の最後で死ぬところだったよ。
そう考えいていた俺の頭上から再び声が降ってきた。
「よく10年もの間、忍耐強く、投げ出すことなくマラソンに挑戦し、ゴールすることが出来たね。とても素晴らしいマラソンを見させていただいたよ。どうもありがとう。でも残念ながら、順位は最下位だ」
そうか……。俺は十年もの間、このマラソンコースを休むことなく走り続けていたのか。俺の胸に去来するものがあった。でも、順位は最下位か……。いや、順位など関係ない。俺は精一杯やったではないか、この異空間、異世界デスマラソンをゴールすることが出来たではないか。順位ではない。生きていることがそれこそが、異空間マラソンで経験したものこそが、俺の最大の景品ではないだろうか。
俺はそう思った。だがその時、ふとマラソンが始まる前の話を思い出した。
そういえば、マラソン大会、最下位でも景品がもらえるって言っていたよな。
しかも最下位でもかなり良い物がもらえるとか……。
俺の胸に僅かながらだが、期待が膨らんできた。
「では、景品を君に差し上げよう。そして君は元いた世界、そして元いた日付に戻り元の日常へと帰るのだ。そして私が君に話すのは次が最後の言葉になる。さあ、目を閉じて」
俺は目をゆっくりと閉じた。
「これがマラソン大会の景品だ。そして本当にどうもありがとう」
その言葉と同時に、俺の体が何かの力によって包まれるのを感じた。
この感じは感じたことがある。それはヨークに連れられ、狭間世界の関門所のある空間に転移した時と同じ感じだ。
そう、俺は今、転移をしているのだろう。目を開けたら、10年前と同じ景色が待っているはずだ。
俺は目をそっと開けた、そこはいつもの俺の部屋だった。テレビを点ける。今日は3月20日になっていた。本当にマラソン大会と同じ日に戻ってきたんだな。日付的には昨日3月19日に俺は、ヨークと契約したことになる。なんだか信じられないような気持ちだ。本当に10年間も俺はあの空間の中で過ごしたのだろうか。だが……。俺の手には景品が握られている。それが俺が異世界マラソンに参加したという確実なる証拠だ。
俺は手に握られた景品にゆっくりと視線を落とした。
俺の手に握られていたのは、それはポケットティッシュだった。
ポケットテッシュの表面には異世界マラソンの文字が印刷されており、その下に『参加賞』と手書きで書かれていた。
何だよこれは、最下位でも凄い景品が貰えるんじゃなかったのかよ。と俺は思ったが、そのテッシュは触ってみると異次元の滑らか肌触りだった。
うんうん。俺は全てを納得すると、そのポケットティッシュをアレ用として使った。




